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夜中に小さく歌声が聞こえてレオンは目を覚まし天幕の外に出てみるとアクアが呪唄を歌ってくれていた。

側にはその夫で見張り当番のオーディンが座り唄を聞いている。

「レオン様、起こしてしまいましたか。」


「ごめんなさい、うるさかったかしら…」


「いや…アクア姉さん、こんな夜中に…」


「夜中の方が精霊たちに届きやすいの。丁度主人も今日は見張り当番だっていうから一緒に。」


「中のサクラ様はいかがです?」


レオンはあれからサクラのいる天幕で寝起きしている。

ブリュンヒルデはずっとサクラの治療を続けてくれていた。

一日数回アクアやシグレが呪唄を歌ってくれそれに乗って精霊たちがブリュンヒルデに力を貸してくれている。

今はこんな状態の為、休息を兼ねて行軍はせずに補給や兵士の治療などに日々を費やし、間にきょうだい達と共にキャッスルの龍脈のケアに出かけていた。

一緒に行くきょうだいはレオン以外に2名となりレオンの魔力の負担を出来るだけ少なくするようにもなっていた。

「あのまま変わらない。」


「あの状態だったもの。まだ時間がかかるわ…」


「今は神器に任すしかありませんね。」


「そうだな。」


「でも最近は精霊達の数が減ってきてる。大分治療が進んでいるのかもしれないわね。」


「そうか…早くサクラの臣下たちにも安心させてやりたいけど…ね。」


「へえ、レオン様がそんな事を言うだなんて…変わられましたねぇ。」


「とにかくレオン、あなたは休みなさい。歌ももう終わったから大丈夫よ。」


「ああ、アクア姉さんは?」


「私はもう少し主人と一緒にいるわ。」


アクアはオーディンの隣に座りその肩に頭を乗せお互いを見合い笑顔になる。

幸せそうに笑うオーディンをみてレオンも小さくほほ笑み天幕に戻った。

「サクラ…早く、君に会いたい。」


ブリュンヒルデから伸びる木の弦を撫でサクラに声をかけ眠りについた。
 

 


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「レオン様、起きておられますか?」


翌朝、天幕の外から声がかかり出てみるとサクラの臣下のツバキとカザハナが立っていた。

「朝早くから申し訳ありません。」


「どうした?」


「サクラ様のご様子を確認したいのです…中にいれてはいただけませんか?」


「…今は治療中で姿が見えないぞ。」


「姿が見えようが見えまいが関係ないわ。とにかくサクラに会わ…」


「カザハナ!」


「…」


「申し訳ありません…ご無礼を…」


「いや、気持ちは察する…私も、君たちに謝らなくてはならない。本当に、すまない…」


レオンは軽くではあるが頭を下げ、その様子をみて2人は驚く。

「中へ…あの中にサクラ王女はいる。」


レオンが2人を中に入れると木の弦の塊にカザハナが駆け寄る。

「サクラ…しっかり。あたしたちがついてるわ。」


「レオン様、あれは…」


「君たちの大切な主をこんな風にしてしまったのは私の責任だ。ブリュンヒルデに頼んで自分の命と引き換えに彼女を助けるつもりでいたがきょうだい達がそれを許してくれなかった。でも協力を得られて時間がかかってはいるが今は治療が進んでいる。もう少し待っててくれ。必ず彼女を元に戻す。」


「魔法…というものですか。」


「そうだな。暗夜独特のものかもしれない。魔法、魔導というものだ。」


「俺は白夜の呪いしか知りませんが奥が深そうだ。いつか勉強したいものです。カザハナ、戻ろう。」


「えっ、今来たばかりよ?」


「これだけしっかり治療して下さっているなら、安心でしょ? レオン様はサクラ様をとても大切になさってくれてるよ、だからきっと治る。レオン様、サクラ様をよろしくお願い致します。」


「…ああ…サクラ王女は君の様に理解のある臣下を持って幸せだな。」


「お褒めに預かり光栄ですー。カザハナ、サクラ様が居られない間は俺たちが完璧に隊をまとめなくちゃねー。」


ツバキはサクラの状態を見て緊張を解き元の話し方に戻る。

先の星界キャッスル内での戦闘時に診療所へ駆け付けた時の様子を見ても、普段の戦闘や日常の生活を見ていてもこの男は油断がならない、とても優秀な人材だ。

常に油断せず研鑽を怠らない。

こちらがいい加減な態度を見せれば間違いなく突っ込んでくるだろう。

レオンもツバキに対しては一目置いていた。

「では、朝早くから大変失礼しました。」


ツバキは嫌がるカザハナを引っ張って天幕を後にした。
 

 


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「離して! ツバキ!」


「…はあ…ほら…」


自分達の天幕に戻るとツバキはやっとカザハナの体を離した。

「もう、何でよ!もう少しサクラと一緒に居させてくれたって…」


「あのままずっとあの場に居ても仕方がないだろ。それはもうレオン王子の役目だ。俺たちが頼んでも譲ってくれないさ。」


「何よそれ? どういう意味よっ?」


ツバキはそういうカザハナを見て軽く呆れた顔をしてため息をつく。

「本当、お前は男らしいというか…」


「はぁ?」


「俺の気持ちも結局気付いてもらえなくて、はっきり言わないと解らなかったよね?見たら解るだろ…」


「今はそんな事を話してないわよ! ほんっとうにあんたって女みた…」


ツバキは急に肩を持ちカザハナに口づけて言葉を止める。

腰を引き寄せられ反論しようとして開かれた口にツバキはするりと入ってくる。

ゆっくりと口の中を舌で撫でられると強張っていた体はすぐに力を無くす。

「は、も、なに…」


「落ち着けって。」


「落ち着いてるわよ!んむ…」


また声を出そうとして口を塞がれる。

「うるさい。ここは天幕。外で誰が聞いてるか…お前がその声を納めない限り続けるよ?」


「や、解った、から…」


カザハナはツバキの胸に頭を軽く押し当てられてやっと口を閉じる。

「…レオン王子とサクラ様は交際されてるよ。多分先のお約束もされてると思う。」


「んなっ!!…」


「うーるさい。酷いことされなきゃ その口閉じれない?昨夜の再戦するか?俺は望むところだけど。」


ツバキに顎を掴まれ上に向けられカザハナは固まり口を閉じる。

「サクラ様だってお年頃だ。恋くらいされるでしょ。しかもお相手はヒノカ様と同じ暗夜王国の王族とあらば何の心配もないじゃないか。あの第2王子も第1王子と同じくきっとサクラ様を大切にして下さるよ。お前の父上が暗夜との戦で亡くなったのは分かってるけど、今は味方なんだ。いつまでも昔の恨みを引きずってちゃ前に進めない。」


「…」


「俺たちの事だって こんな時なのに快く許して下さったんだ。サクラ様には幸せになって欲しいだろ?」


「それは、そうよ。」


「いつも肌身離さず持ち歩いてた自分の神器を手放してもいい程必死になって下さってるなら心配はないさ。」


「この前の天幕の騒動?」


「ああ。サクラ様を助ける為に自分の命を依り代にしたんだろうね。皆さんの様子や状況何かを見てたら大体わかったし、ご本人から決定的な証拠をもらったから。そこまでしていただけるなら文句は言えない。」


「信じられないわ。あんなに人の命を平気で奪ってた人が…」


「タクミ様、見てたらわかるだろ。」


「…あ、ああまあ…」


「人は変わるんだよ。大切な人が出来たら、特にね。」


「あんたは変わってないわ。」


「お前な…俺はお前に変わって欲しいね。」


「何ですって! もう一度…きゃ、やだっ!!」


カザハナが反論するや否やすぐに顎を固定して口づけようとするツバキを慌てて止める。

「よく動くな、その口。俺の女房は何度言えばわかるの…?」


「解ってるわよ…でもこの性格は変えられないわ。」


「そーんな事ないと思うけどね。まあ地道に気長にやるさ。待つことは嫌いじゃない。」


「何が地道よ…」


「ま、サクラ様が回復されたときに隊がバラバラになっていない様に完璧にまとめておこう。行くよカザハナ。」


「ちょっと、このまま出ないでよっ、ツバキ!!! やだーーーっ!!!」


「はいはーい、皆祓串や薬草なんかは足りてるかな?直ぐに在庫の確認して報告してねー。前衛隊のメンバーは鍛錬始めるよー。」


ツバキはカザハナを肩に抱えてそのまま天幕を出てサクラ隊のいる天幕へ平然として歩いていく。

サクラの容体を案じて心配そうにしているサクラ隊の面々はツバキ達のいつもの光景にサクラの様子を察し皆安心して作業を続けた。

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