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性的な表現があるため「R」とさせていただきます。

自己責任の上でご覧ください。
 

 

 



それからまた距離が縮まった2人は行動を共にする事が増え、サクラはレオンの龍脈のケアに着いていくようになっていた。

負担の大きい作業に自分が何か出来る事があればとレオンに申し出ると彼は快く応じてくれた。
今日はキャッスル内の山の中にある龍脈に来ていた。

流石に距離があるのでリリスに転送してもらったのだが2人して軽い船酔いの様になりその場に頭を寄せ合い寝転がっていた。

サクラは初めての転送なので特に体が慣れない。

「はは、流石の君もこれは無理か~。」


「船酔いに確かに似てますが、これは思ったより辛いです…私今まで船酔いはした事がなかったので油断してました…」


レオンはサクラの持ってきていた籠の中を寝転がったまま探り、水の入った筒と手拭いを取り出してそれを濡らし広げて、自分とサクラの額にかかるようにのせる。

「す、すいません…」


「いつもは君がしてくれるからね。あーーー、気持ちいいーーー。」


「ふふ…本当に。気持ちいいですね。」


レオンはクールなイメージがあるが、実は間の抜けたところがあるとカムイから聞いた事がある。

法衣を裏表逆に着ることはしょっちゅうで、寝癖が直っていなかったり、コーヒーの中に砂糖の塊ではなくその隣にあったチョコレートという甘いお菓子を入れてしまったり。

そういえば先日食堂で見かけた時には寝癖が酷かったように思う。

こんな脱力した状態の彼はカムイが見ていた姿なのだろうか。

皆の知らないレオンを知っている事が少し嬉しかった。

「レオン王子、今回はそんなにお辛そうではないですね。」


声をかけると手拭いを指でつまみあげて片目だけ除かせる。

「うん、サクラ王女のお陰だね…もらった薬が効いてるみたいだ。」


「安心しました…お役にたててよかったです。」


「ありがとう、君のお陰だよ。できればまたもらっておきたいな。」


「はい。またお渡しします。」


前回の転送で心配したサクラが、レオンが龍脈のケアに動く時には必ず薬をくれる様になった。

それは白夜のものだが内臓などにも効くものらしく、転送での眩暈などは起こりにくくなった。

サクラが文献を調べ自分の為に作ってくれた薬が嬉しくて、実はいつも小袋にいれて持ち歩いているのは彼女には内緒だ。

山の森の中はザワザワという音をたてて大きな木の葉が揺れている。

それを見ながらふとレオンが問う。

「そういえば…こちらには君と同じ名前の花があるって聞いたけど、どんな花なの?」


「桜、ですか。はい、薄い桃色の花びらの小さい春の花で1本の木に沢山咲くんです。木や山が桃色に染まって木の下も落ちた桜の花びらが一面敷き詰められた桃色の絨毯みたいでとても綺麗です。」


「春…かぁ。今年は気づかなったなぁ。来年は咲くかな。」


「はい。毎年必ず咲きます。桜にもいろんな種類があるんですよ。その時期に家族でお花見をするんです。来年はレオン王子もいかがですか?」


「オハナミ?」


「ええ、桜の花の下で食事をしたりお酒を飲んだり…簡単な酒宴です。」


「それは楽しみだ。是非。」


「はい。必ずお呼びしますね。」


「あ、でも僕はたしなむ程度であまりお酒は得意じゃないから、酒豪そうなリョウマ王子からは放して座らせてね。」


「ぷっ…は、はい。わかりました。」


サクラは少し吹き出し、それを見てレオンも笑い始める。

「サクラ…か…いいな。」


「はい?」


サクラは自分の名前を呼ばれた様な気がして聞き返す。

「いや。そうだな、オハナミの時にはお酒よりサクラ王女の淹れてくれる白夜のお茶の方が飲みたいな。」


「はい。」
 

 

 




しばらく休んだ後、龍脈のケア作業も順調に終わったところでサクラが声をかける。

「あの…レオン王子。よろしければ一休みして帰りませんか?」


「ん?」


「先ほど言っておられた白夜のお茶を淹れてきているんです。冷茶ですが…」


「へぇ、それは嬉しいね。お言葉に甘えよう。」


「はいっ。」


サクラは先ほど寝転がっていた場所へ手際よく布を敷き、水筒に居れてきたお茶と小さな茶碗を出し、小さく切った半紙の上に和菓子を並べていく。

「それは菓子かい?」


レオンは早速興味を示す。

「はい。これは白夜のお菓子で、いろんな色の餡を飾り付けたものです。」


「アン?」


「ええと、豆などを炊いてつぶして、お砂糖や塩で味付けしたものを、さらに練って作ったものです。あと、こちらが落雁と言って…」


人と接するのが苦手な彼女が精一杯自分に説明をしてくれている。

顔を直視してくれることも多くなり言葉がくぐもったりする事は少なくなった。

彼女の事を考えるだけで、こうして隣にいるだけで心が温かい。
今まで家族以外は関心になくこんな気持ちになった事はない。

血がつながっていない姉・カムイの事は幼い頃より姉としても女性としても愛していたが、いつの間にか姉の隣にはタクミが立っていた。

その頃のタクミとはそりが合わず何度か衝突した事もあり『カムイは譲らない』という気持ちが沸いた時期もあったが、カムイの隣で変わっていくタクミを見て自分の負けを認めた。

今はカムイに対してもタクミに対しても家族としての愛情の方が強い。


よくよく考えればそんなカムイとタクミの傍にはいつもサクラが居た。

前に出てくるタイプではないので、タクミやカムイの背中に隠れ俯きがちでいつも目を合わせず話す。

王族でありながらなんて失礼な姫なんだと思った…が、戦闘時に後衛で杖をふるい仲間をバックアップする姿、食事を身分の低い兵士にまで笑顔で運び地位も感じさせない優しさに自分が目を離せなくなっていた。

決定的に自分の気持ちを理解したのはあの朝の舞う姿を見てからだ。

控えめな彼女の中にある強い意志を感じた。
兄・マークスの妻となった白夜第一王女・ヒノカも気迫あふれる中にも武人としての強さ、不器用ながら母性のある優しさと暖かさを感じた。

彼女の強さと優しさがどれだけ兄の助けになっているか。

それは兄の顔をみていればわかる。

サクラに触れてみたい。

その強さと優しさに。

もっと彼女をみてみたい…


そ…と手を伸ばしかけたところで、サクラに

「あ、はい。」


とその手に何かを渡された。

レオンが持ち歩いているノートと鉛筆…

「あ、ありがとう。そう、ちゃんと書き留めておかなくちゃね!」


にっこりとほほ笑む彼女に一気に現実に戻る。


危なかった…というより、メイドや乳母の様に気の利く子だ。そういえば以前リョウマが「あれ」とか「それ」とか言うだけで、ヒノカやサクラがすっと物を持ってきていたのをみて驚いたことがある。

マークスからも聞いたことがある。

書類を探していたらそれを告げたわけではないのに「これでは?」とヒノカに渡されたことがあると。

「わが妻は本当に気の利く素晴らしい妻だ。」とご満悦だったな。

これは白夜の文化なのか…ついでにノートに書いておこう。

「どうぞ。お口に合えばよいのですが。」


サクラが す、とお茶と菓子を出してきた。

小さな茶碗に澄んだペリドット色の白夜のお茶。

横の白い紙を折ったものには先ほどのアンの菓子とラクガンとかいう小さな菓子、竹の串の様なものが添えてあった。

「いただくよ。え、とこの菓子はどんなふうに食べればいいのかな?」


「はい、これはこのように、手の上にのせて…」


サクラは手本としてやってみせる。

なんて優雅な動きだろうとその様子に見入っていると どうぞ、と目で促されて慌てて真似をして食べてみる。

「…おいしい…」


「そうですか。お口に合ってよかったです。」


サクラは明るい笑顔を向けてくる。

自分をまっすぐ見つめて笑顔をみせてくれた事はこれが初めてだった。

やっと自分をまっすぐ見て微笑んでくれた。

その時、隣に置いた魔導書・ブリュンヒルデが光を放ちはじめた。

「なっ…!?」


「えっ?」


勝手に本が開きバラバラとページがめくられていく。

レオンが急いでブリュンヒルデを止めようと手を乗せた瞬間、強い光を放ち魔道が発動された。

間に合わない! レオンは咄嗟にサクラを庇い覆いかぶさる。

光が消え、本がパタンと閉じられる音が響く。

後は鳥の鳴き声とサワサワという葉擦れの音がするだけだ。
何もなかったのか…? ゆっくりと目を開けて少し体を起こし 自分たちの周りを見て2人は目を見開く。

2人の頭の上の木々がピンクに染まり、その花びらが沢山空に舞っていた。

薄暗い森の中、ここだけが急に明るくなったように感じる位に花びらは一枚一枚が輝いて見える。

「わぁ…すごい…」


「あ、け、怪我はない? すまない!」


慌ててレオンは飛びのくが、サクラは気にしていない様子で静かに目を輝かせる。

「レオン王子、これが桜です。凄いです…レオン王子が咲かせたのですか?」


レオンはその声に改めて桜を眺める。

小さい花が集まって咲く木々。

ピンクの花びらもいろんな形や色があり、風が吹く度に花びらがヒラヒラと舞い散る。

「これ、が、桜…きれいだね…」


「はい…綺麗ですね。」


この色、佇まい、まさにサクラをイメージさせる花。

この花の中にいるだけで彼女を感じることができる。

民にとって、皆にとって彼女はこんな風に安らぎを与えてくれる存在なのだろう。

民にも兵士にも臣下にも姉弟にも彼女がどれだけ愛されているか…あの朝に感じた崇高なイメージそのままの美しい彼女が自分にとってどれだけ大切な存在なのか改めて理解した。

闇に包まれた暗夜にはない自分にはないものを持った彼女を情欲に駆られるでもなく心から愛しいと思った。

先ほどまで苦しかった胸は穏やかになりレオンは目を閉じて静かに深く息を吸い込む。

前に座るサクラに顔を向けると朱色の髪や肩に花びらがヒラヒラと舞い落ちている。

レオンは彼女の髪に落ちた花びらを指でそっと払う。

「?」


ふわりとサクラの頭に手をかけて自分に引き寄せる。

彼女は驚いて身を固くさせ目を泳がせている。

「少しだけ、このままでいさせて。」


そう言うと腕の中の彼女はゆっくりと体の力を抜き黙ったままレオンに身を委ねる。

この『桜』を大切にしたい。

そして守りたい。

この『桜』は必ず僕が守る。

そう強く誓う。

しばらくそうしていると一面が光り、シャン!という音と共に魔法が溶け桜は消えていく。

ブリュンヒルデは自分の思いを察して発動したのだろう。今までいつも共にあった相棒からのメッセージだ。

魔導書を見ると隙間から小さな光がもれ静かに消えていった。

「サクラ王女。僕の話を聞いてくれる?」


「……はい。」


そのままレオンは今までの自分の事を話し始めた。

暗夜で育った自分の事、権力争いに巻き込まれ寂しい思いをしてきた事、マークス達きょうだいの事。

カムイの事、相棒のブリュンヒルデとの事。

「今までこんな事誰にも話した事ないんだ。それなのに…」


「いえ…レオン王子、お辛かったのですね…」


「僕はきょうだいが一番大切なんだ。親よりも、誰よりも。きょうだいが居なかったら僕は今きっとここには居ない。」


サクラは黙って頷く。

「だから、守りたい。でも…」


「?」


レオンが急に黙ったのでサクラは心配そうに顔をあげると、レオンはサクラの額に自分の額を合わせてきて一息つき少し抑えた声で絞り出す様に言葉を出した。

「もっと、家族よりも大切な君も、僕に守らせてほしい。」


「…!」


サクラは息が止まりそうになる。

が、そう言うレオンは今にも泣きそうな顔をしてゆっくり呼吸をしていた。

幼い頃から実の母に権力争いの道具とされ母の愛情というものは殆ど与えられず、きょうだいで支えあって生きてきた。

そして王族としての重圧と責任。

周りからの過剰な期待と代名詞。

無理やり背伸びをしてきた彼の心を思うと悲しく切なくてサクラも堪らなく痛くなりそっと頬を撫でるとレオンと目が合う。

サクラは出来るだけ笑顔で声をかける。

「もうレオン王子だけではありません。皆さんがおられます。私も、出来る事があれば微力ですがお手伝いします。何かあったら我慢せずに私でよければお話しして下さい。何も、できないかもしれませんがお話しを聞くくらいなら…」


「…ん、君が居てくれるならそれで十分だ…」


そういうとレオンは泣きそうなままの笑顔で額をこすりつけてくる。

あの戦場で見せる姿は大切な人たちを守るための姿だった。

誰よりも大切にしている人たちがいるから強くなった。

サクラは何より自分もその中に含まれているという事が嬉しい反面、彼の負担になりはしないかと不安になりブリュンヒルデをそっと撫でてみた。

力のない自分が人を守ることが出来るのだろうかと葛藤しながらここまできた。

自分に出来る事は癒しの力を使う事のみ。

ならばそれを使って役に立とうと努力してきたが、それは守るという行為ではなくもっと違う事の様に思えた。

戦場でいつも前線に立ち皆を引っ張るきょうだい達の背中を見ながらずっと思ってきた事だ。


力が欲しい、守る力が…この人を守る力が。


サクラはそう心の中で呟いた瞬間、急速に自分の心を自覚した。

不思議とそれは自分の中に自然にしみ込んでいく。

なんでも話の出来る異性の友達はいつの間にか自分の中で大きな存在となっていた。

「ありがとう。すぐじゃなくてもいい。君のペースで。」


レオンはサクラの頭を抱き寄せる腕の力を一瞬強めてそう言うとすっと離れて笑いかける。

その顔はもういつものレオンの顔だった。

「お茶、いただきます。」


「は、はい。」


レオンは座りなおしてお茶を口にする。

サクラも座りなおそうとした時、手を置いていたブリュンヒルデからポンッと音を立てて真っ白な羽が散った。

レオンもサクラも驚いて目を丸くする。

「サクラ王女…君いつの間にブリュンヒルデと仲良くなったの?」


「えっ、そんな、なぜでしょう!?」


「ふふ、ブリュンヒルデがこんな動きを見せるって事は余程サクラ王女の事が気に入ったんだね。」


「え? あの…」


「ふふふ、相棒とライバルかー。これは困った。」


「もう…」


「かわいい。」


「知りません。」


サクラが少し顔を赤らめて膨れた様子を見せる。

それをレオンは微笑んで眺めていた。
 

 


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サクラは診療所の買い出しに市場に来ていた。

最近は戦闘が続き負傷者が増えたため診療所の備品が足りなくなり追加の手配はしているものの在庫が乏しくなっていたための急遽の買い出しだ。

買い出しなら自分が行くと臣下のカザハナが申し出てくれたが彼女も同じく臣下のツバキと結婚したばかり。貴重な合間の時間を潰させたくないと思いこの位なら自分でいけるからと丁寧に断り気分転換も兼ねて出かけてきた。
市場は白夜、暗夜の店が所狭しと並び活気があった。

こんな風に敵国の店同士が並び活気のある市場なんて誰が想像しただろう。

サクラはこの市場が好きだった。

姉のカムイが先頭に立って率いる今の軍は白夜、暗夜の者が一緒に戦っている。

彼女が繋いだ両国のこの絆がいつまでも続けばいいと心から願う。

『薬草と、薬湯と、丸薬…あとは…』


買い忘れがないか考えながら歩いていると誰かに体を引き寄せられた。

驚いた顔で相手をみると目の前にはいつもの鎧姿のレオンが立っていた。

「こんな所で考え事なんてしてたら危ないよ。ほら。」


レオンの視線の先には大きな市場のテントの支柱が立っていた。

あの時引き寄せてもらわなかったら自分はそのまま結構な勢いで支柱にぶつかっていただろう。

「あ、ありがとうございますっ!」


「いいえ。買い物、凄い荷物だね?」


「はい。診療所の買い出しです。レオン王子は?」


「僕は暗夜の市場にね。剣を注文してたから引き取って来たんだ。用事が終わって帰るところ。」


レオンの腰を見ると確かに帯剣している。

そういえば先日『ダークナイト』にチェンジしたと聞いた。

見慣れない暗夜の剣に目が留まる。

白夜のものと違う太く武骨な剣。

持ち手の処には細かな蔦の様な金の装飾が施され、それは下の鞘まで続いている。

「今度は剣をお使いになられるのですね。」


「うーん、あまり剣は得意じゃないんだけど、まあ一応はマークス兄さんにカムイ姉さんと一緒に鍛えてはもらってた。」


「魔法も剣も使えるだなんて素晴らしいじゃないですか。」


話しながら俯いた時に再度剣の鞘に目が留まる。

注意深く見なければ見えない位に目立たない色で鞘全体に彫り込んだ模様がちりばめられている。

それは………

「剣に興味あるの?」


声をかけられ慌てて視線を外す。

「いえ、白夜の剣と全く形が違うので…珍しくて。」


「そうだね。装飾も刃の形も角度も全然違う。だけど町中で剣を抜くわけにはいかないから、また今度見せてあげるよ。」


「はい、そうですね。また見せてください…」


「まだ買い物する? 付き合うよ。荷物かして。」


「え、あ、はい。助かります。」


それからはレオンがサクラの荷物持ちをしながら買い物を続けていた。
最後の買い物をサクラがしている時、レオンはその側の露店に目を留めた。

それは王族としての肥えた目で見ても感じの良い女性用のアクセサリー屋だった。

暗夜に居た頃はこんなアクセサリーでも呪いが掛けられていたりすることがあった。

念の為、そのアクセサリーに呪いの魔法などがかけられていないか目立たない様に指先で魔字を空に書いて調べる。

怪しいものはない様だ。

サクラの様子を見ながら細身のバングルを買い隠した。

「お待たせしました。これで全部です。」


「じゃ帰ろうか。」


他愛のない話をしながら帰路につき診療所の裏口についた頃には日が沈みかけていた。

ランタンの明かりのみが灯され診療所内はすでにしんとしていた。

夜番の担当以外は帰宅したのだろう。

レオンが裏口の中まで荷物を運び入れてくれたので門口まで見送りにでる。

「本当にありがとうございました。こんなに遅くなるとは思っていませんでしたので助かりました。」


「礼には及ばないよ。少し暗くなってしまったしキャッスル内であってもやっぱり女性の夜道の1人歩きは物騒だから丁度よかった。帰りは大丈夫かい? よかったら待ってるけど。」


「はい。先ほどの物を整理したから帰ります。すぐに帰れると思いますので。」


サクラはお辞儀をしてレオンにお礼を言う。

お辞儀をした時にまた目が鞘に留まる。

今は暗くなってしまって見えないがあの装飾は…口を開こうとした時、先にレオンに声をかけられる。

「サクラ王女、あの…」


「はい?」


レオンの顔を見た瞬間、その顔が緊張した顔に変わり同時に腕を引っ張られ抱き寄せられた。

とサクラの体スレスレを手斧が通り地に突き刺さる。

レオンの背中の法衣の飾りが勢いにチンチンと音をならす。

飛んできた方向を見ると紫色の靄・眷属が姿を現した。

「何者だ…と聞きたいけど、一目瞭然だね。」


レオンは靄を睨みつけている。

すっと指を出し空に何かを書いたと思うと指先から光を発し それは空高く上がりパシン!と弾け散らばり飛んでいく。

「龍脈の再生をしている僕を始末しに来たか。あれだけ回ったのにまだお前が入り込める穴があったとは…リリス。」


名を呼ぶとリリスの声が頭の中に響く。

「レオン様、侵入を許しました。申し訳ありません。」


「何体だ?」


「レオン様の周りに6体。南に6体、東、西に各4体です。他は何とか抑えております。」


「再生化した筈なのに何故…」


「予想以上に透魔からの力で干渉されています。最初に回った場所がすでに弱体化している様です。」


「は…困った、ね!」


前方上空から投擲武器の気配を感じ瞬間剣を抜き叩き落とす。

投げた相手は診療所の外壁の屋根へゆらりと降り立つ。

「忍か…他の場所には?」


サクラを抱き警戒しながら状況の確認をする。

「レオン様の知らせで既にカムイ様が手分けして向かわれております。既に南では白夜の侍が接触交戦中です。」


他の場所は皆がどうにかしてくれるだろうが、ここは自分1人で今は魔導書もない状態だ。

この診療所は南門に近い。

もし南側の敵を仕留め損ねた場合はまっすぐここに向かってくるだろう。

眷属の狙いはレオンのみ。

レオンはサクラに小声で話す。

「今から君と診療所の周りに結界を張る。君はそこから動くな、いいね?」


サクラが応えるより前にレオンは素早く呪文を唱え結界を張り 中に彼女を押し入れた。

彼女と診療所は結界によりその姿を隠す。

「レオン王子!! だめです!1人では危険です!!」


サクラは結界に縋りつくが見えない壁に阻まれ近寄れず、外部からの音は聞こえるがサクラからは見る事が出来ない。


診療所の中に杖がある。それを…

 

と診療所の中に入ろうとするが何かに阻まれ取っ手を掴むことも出来ない。

診療所の中は静かなままだ。

結界により完全に遮断されている。

すると外から大きな金属音が聞こえた。

レオンは向かってきた剣士に応戦している。

元々魔導士は身が軽く素早さは他に並ぶ。

力自体は劣るものの伊達にあのマークスに鍛えられている訳ではない。

並みの剣士よりも技術的には勝る。

ギリギリと火花をちらせながら競り合う。

2撃、3撃と鈍い金属のぶつかる音が響き競り合い両者が弾き飛ぶ。

猫の様に身軽に降り立ちすぐに体制を整えながら剣に呪文を唱えると刀身は赤く光り始めた。

休む間もなく頭上から忍の追撃が来る。

咄嗟に転がりよけ地を蹴ってそれに突っ込み 剣を深く差し込むとそれは赤い炎に包まれ絶命する。

「1!」


すぐに剣士の追撃が来る。

剣で振り下ろされた斬撃を受け止め逆の手から炎魔法を放つと怯んで飛びのいた隙に再度剣に呪文をかけようとしたところで数本の矢が飛んできた。

自身の腕に魔法でシールドを纏いそれと剣で叩き落すがそのうち1本が法衣を掠める。

相手の弓兵はどうやらかなり手練れの様だ。

剣をくるりと回して持ち直し走る。

振り下ろされる斧を踏み高くジャンプして剣を下向きに持ち直しその後ろの弓兵に突き刺しそのまま剣に魔法をかける。

弓兵はそのまま崩れ落ちた。

「2ぃ!」


間髪入れずすぐに剣を抜き反転。

後ろの斧兵の追撃を躱すと後ろへ飛び剣に呪文をかける。

刀身が青く光りはじめ体を回転させて斧にぶつける様に突っ込み競り合いを始める。

左側から殺気を感じ斧兵を蹴って飛び避けると手刀が鼻先を通り過ぎる。

ふっと息を吐き体制を戻し剣を左側へ振り下ろすと剣から青白い光が剣士に向かって走り直撃した。

パキパキと氷が固まる様な音をさせながらそのまま剣士は倒れこみ砕け散った。

「3っ」


蹴り倒した斧兵が起き上がり体制を整える前に、レオンは間合いを縮め剣を横へ一閃し反撃の隙を与える間もなく倒す。

「4………!!」


はあっと大きく息をして流れ落ちる汗を拭い剣を構える。

目の前からは分の悪い敵が現れた。

結界の中でサクラはただ祈っていた。

先ほどから聞こえる魔法の接爆音や剣がぶつかる音を聞きながら何もできない自分に歯噛みし体を震わせていた。

どうか、どうか彼が無事でありますように。

 

目には涙をためながら祈る。

その時外から何かを叩きつける大きな音がし呻き声が聞こえた。

そこではレオンの目の前でジェネラルが2体 彼を見下ろしていた。
1体が槍を素早く突き出したのを瞬間右へのジャンプでかわしたが、もう1体がその方向から槍を振り回して攻撃してくるのを剣とシールドで何とか受け止める。

だが圧倒的なパワーの差で弾き飛ばされ槍の銅金が剣とシールドに食い込む様に入り顔までのダメージを受けそのまま壁に叩きつけられた。

口の中が切れ血の味がする。

それは出血量が多く端から流れ落ちた。

「っぐ…」


叩きつけられた衝撃で落とした剣を拾い立ち上がりながら爆炎魔法を発動させる。

放たせまいとジェネラル達の猛攻が始まった。

猛スピードで突き出される槍を研ぎ澄ました集中力で避けていく。

大きな魔法を発動させてたまま動けるのはレオンならではの技だろう。

だが敵も上級職といわれるジェネラルだけあり猛攻の手は緩まない。

髪や顔、鎧を掠めながらもギリギリのところで避け魔法を放つ隙を伺っていた。

1体が上からの振り下ろし、もう1体が回転させながらの下からの切り上げの体制になり身構えた時 聞きなれた声が聞こえた。

「必殺!!アウェイキング・ヴァンダーーーー!!!」


ジェネラルが振り向くも間に合わずそれは1体の背中に直撃し衝撃で膝をつく。

その隙をついてレオンは爆炎魔法を放つ。

自分の近くにいた1体が激しい炎に包まれ怯み後ずさっていくのを見ていると名前を呼ばれそちらを見る。

「イイねぇ、その顔…ソソります。忘れもんですよ。」


外壁の上に立つゼロからブリュンヒルデを投げられ受け取る。

「神器を投げるな。」


そういうとブリュンヒルデが光を発しグラビティマスターという代名詞よろしくジェネラル2体を重力の壁が襲う。
ギリギリという音からミシミシという音に変わっていき流石のジェネラルも地に付すが、それでも立ち上がろうと抵抗してくる。

ならばと今度は紫の光を右手に纏い2体を同時に一閃するように動かすと籠った叫び声と共に全身が紫の光に侵食されていく。

「…塵になれ。」


冷ややかな視線でそういうと2体の体は弾きとぶ。

レオンのため息と共にブリュンヒルデは光を消しパタンと閉じる。

「上級魔法の同時詠唱と発動…お見事です、レオン様。」


そういいながら臣下のオーディンが近寄ってくると、ふと傍に突き立てられた剣に気付き引き抜いてマジマジと眺める。

「…魔法剣…ですね。かなりいい鉱石で作ってある。魔力も溜めやすいし扱いやすい軽さ、握った時にしっくり馴染むグリップ、ブレイド部分の砥ぎも洗練されてていい感じだ。細身ではありますがこれなら切れ味も白夜の刀にも劣りませんね。」


「イヤラシイな。お前、魔導士なのにそんなことに詳しいなんてさ。」


「えっ!? いや…その…」


「その剣に触るな。」


レオンはオーディンから剣を取り返しポイントの部分を上に向けそれを見つめている。

「…ありがとう…」


ブレイドに額を当て小声で話しかける。

その様子を見てゼロはやれやれという顔で笑っていた。

「そ、それにしてもいい剣っすね。銘はなんていうんですか?」


オーディンがゼロからの質問をはぐらかす様にレオンに聞いて来た時 空から声がした。

「サクラ様!!!!」


大きな羽音が空から近づいてきて見上げるとツバキとカザハナが天馬に乗って降りてきた。

カザハナは天馬から飛び降りるとレオンに食って掛かる。

「サクラはどこ? 答えなさい!! 返答によっては、ここで切り捨てる!!」


カザハナはものすごい剣幕でレオンに詰め寄る。

レオンはそれをいつもの視線で見下ろして黙っている。

「カザハナ、それは失礼だよ~。レオン様、サクラ様をご存じありませんか? 自室にもいらっしゃらないし、今日市場に買い物にいかれてそれから姿を御見掛けしないんです~。ていうか、ここ診療所じゃなかったですか~?」


ツバキはいつもの穏やかな調子で聞いてくるが流石に食えない男、周りを観察しながら状況の判断をしようとしている。

その目は笑っているが油断はしていない。

レオンが指を舞わせサクラと診療所の結界を解くと静かな診療所と両手を組み涙を流しながら膝をついているサクラが姿を現す。

それを見てレオンは心に痛みを感じた。

「サクラ!!!」


カザハナとツバキはすぐにサクラに駆け寄る。

「なぁるほどねぇ…『花』を…」


「黙れ。」


「へいへい。」


「花ってなんですっ?」


オーディンだけは意味が解らずきょときょとしているとツバキが近寄ってきてレオンに頭を下げる。

「サクラ様をお守りして下さり、ありがとうございます。心から感謝いたします。先ほどのカザハナのご無礼、ひらにお許しください。」


「…いや、いい。サクラ王女にお怪我はないか?」


「はい。傷一つなく、ご無事です。本当にありがとうございました。」


「そうか…では後は頼む。」


壊れた外壁や診療所の外の設備がチリチリといいながら自然に修復を始めていた。

リリスが神殿からキャッスル内の修復を始めたのだろう。

リリスの所に寄りもう一度龍脈の再生化の計画を立て直さなくてはならない。

そう思いながらレオンは踵を返す。

チラとサクラを見ると涙で濡れた瞳のままレオンを呼び止めようとのばした手をゆっくり下ろしながら不安げな表情で見送っていた。
 

 


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キャッスル内の戦闘は各所で影響を及ぼし民にや兵に怪我人も出てしまっていた。

各所に現れた眷属の数は少なかったもののレベル的に差がある敵が出現した為、軍も対策や編成を考え直さなくてはならない。

カムイ、リョウマ、マークス、レオンやタクミもその対策に毎日駆け回っている。

サクラの取り仕切る診療所は治療などにフル稼働し寝る間もない位の激務が続いていた。

交代で休みを取るようにはしているのだが重症の患者には杖回復の交代要員がいる為 皆あまり休みが取れていない状態だった。

レオンはその間も時間を見つけては1人で龍脈のケアに回っていた。

その日の軍議が終わりレオンは自室のソファに座っていた。

目の前に置かれている紅茶を眺めながら、あの時のサクラの顔を思い浮かべる。

あの時サクラを結界に閉じ込めたのはあの事態の中では最良の判断だった。

だが彼女はそうする事できっと傷ついてしまっているのだろう。

 

そう思いながらベストの内ポケットから市場で買った細身の金のバングルを取り出す。

細身でありながら職人の手により細かく装飾を施されたそれを両手で触りながら鎧の隣に立てかけてある剣に目をやる。

より強くなるためにチェンジした『ダークナイト』が使う事の出来る剣を細かく指示を与えて職人に作らせた。

抜いて普通に見ると何の変哲もない剣だが、ガードとブレイドの間に細かく装飾を入れ、鞘にも同じく目立たない色で装飾を入れさせ、銘は『サクラ』と名付けた。

いつも共にある様に。

自分の支えとなってくれる様に、そう願い。

あの戦いでは自分の力量不足を見せつけられた。

まだまだ強くならなければ、そう思いながらバングルを両手で握った所でドアのノックがする。

「レオン、私だ。」


「マークス兄さん? どうぞ。」


静かにドアが開きマークスが入ってくる。

「急にすまんな。今よいか?」


「うん、いいよ。」


ソファに座るよう促しメイドがマークスへ紅茶を出すと、彼はいつもの表情のまま口にカップを運ぶ。

「皆下がれ。レオンと話がある。」


マークスはメイド達を下がらせ室内は2人だけとなった。

レオンは静かにマークスを見るが大体の想像はついていた。

「私が何が言いたいか、わかるな。」


マークスはまっすぐレオンを見て問う。

「……わかるよ。」


「この広大なキャッスルの中を1人で回るなど…無理な事は分かっておろう。」


やはりか…レオンは薄く笑う。

龍脈の再生化に1人で回っている事がどこからか洩れたのだろう。

「それが出来るのは僕だけだ。それ以外に誰がその役目が出来る?」


「今は白夜の面々も揃っている。協力を仰いで共に行けば負担が少なくて済む。」


「リリスが僕を選んだと言ってもかい?」


「お前は大切な現在の軍の将だ。それ以前に大切な私の家族で弟だ。体に負担のかかる事をしている弟を心配するのは当然の事だろう。」


「…魔力を持っている今のメンバーを連れて行ったとしても、そのメンバーの内何人が生きて帰ってこれるかな?あの作業はそれだけの魔力を使う。こちらにも白夜にもいい魔導士たちが居るのは承知してるけど、まず5人行って1人帰ってこれるかどうかだ。これだけの世界を支える龍脈なんだ、それなりの代償は伴う。」


「お前の命はお前だけのものではない。勝手に判断を下すな!」


マークスの怒号が室内に響く。

それでもレオンは静かに返す。

「僕は死なない。そんな事考えたこともないよ。それに、守りたいものが出来たと言っても?」


「…ほう?」


マークスは眉間の皺をより深くして問い直す。

「愛してるよ、兄さん。カミラ姉さんもエリーゼも。カムイ姉さんも。それはいつまでも変わらない。でも僕自身の為に僕の傍にして欲しいひとが出来たんだ。心から愛してる。そのひとを守りたいと思うのは当然の事だろう。」


「…お前がそれをする事で体に負担をかけ、その相手を不安にさせているとしてもか。」


「何言ってるの?」


そう言うとカチャリとドアが開きそこに立っている姿にレオンは驚き立ち上がる。

不安げにレオンを見つめるサクラが立っていた。

「入りなさい。」


「は、はい…」


サクラは俯いて近づいてきてマークスに促されたソファに浅く腰かけた。

「兄さん…どういう事?」


レオンは立ち上がったままマークスに問う。

「様子がおかしいとは思っていたがお前の事だ、そのままであれば絶対に漏らす事はなかっただろう。だがリョウマ王子達と我らの前でサクラがすべて話してくれた。」


「サクラ王女…」


「…」


サクラは俯いて黙っている。

「兄さんなかなかに狡いよ…なんでサクラ王女を…」


「サクラは我が義妹。何の遠慮がある。それにサクラ自身が皆にそれを伝えたのだ。レオンを助けてほしいと。」


「え?」


サクラは意を決したように顔をあげて言葉を絞り出す。

「レオン王子の魔力がお強いのは分かります。ですがいくら精霊の力を借りても魔力には限界があります。龍脈は王族のみが扱える力ですから、あなたが私がついていくことを許して下さったのは理由が解ります。お側に力のない私でもいればレオン王子の魔力を助けることが出来るからですよね。それに気づいたのはごく最近でしたが…でもお手伝いが出来たのは嬉しかった…ですがこの前の様な事が起こってしまった。ならば私よりももっと強い力を持った兄様や姉様方に協力をお願いして龍脈を再生化しないと、また民に犠牲がでます。だから……それに…私は…あなたが傷つくのを黙ってみているなんて出来ません…」


一気に話したサクラの声はだんだん小さくなりまた俯いてしまう。

がそんなサクラをみてレオンは驚いていた。

サクラの中に強いものは見えていたがこんな一面があるなんて…

「明日軍議を行う。その時に龍脈の再生化とそのバックアップについて話し合うつもりだ。よいな。」


そうマークスに言われレオンは俯いたまま黙って頷く。

その様子を見るとマークスは薄く笑って立ち上がり、サクラの頭を撫でて部屋を後にした。

「サク…」


レオンがサクラに声をかけようとするとサクラが息を吸って声を出す。

「龍脈の力を使うための補助が必要であれば、もっと早く行ってくださればよかったのに…そうであれば私も…」


レオンはその言葉に目を見開く。

「ごめんなさい。私が勝手に、思っていただけです。勝手に…ご迷惑をおかけしてすいません。でもこれで皆さんに協力してもらえます。だからご無理はなさらない様にしてくださいね。失礼します!」


サクラはソファから立ち上がり出ていこうとしたがレオンに引き寄せられ一瞬のうちに抱きかかえられる。

「は、放してください!!」


サクラはレオンの腕の中で暴れるがレオンは構わず大股で歩き寝室のベッドの上にその体を投げ出す。

「きゃ…」


驚いてサクラは小さく声を出すがすぐにレオンの唇で塞がれた。

声を出すことも出来ず息継ぎのみが出来る状態でレオンに深い口づけをされる。

サクラは緊張で硬直してしまっていたが頭の中が溶けそうな感覚になっていく…それを理性で必死に押しとどめる。

長い口づけからやっと解放されるとレオンに強く抱きしめられた。

身じろぎするがレオンは力を緩めない。

「利用するだけなら…もっと別の形で利用するさ。」


「やっ…」


「辛い思いさせてしまって、すまない。僕は、もう、君が隣に居ない事には耐えられない。傍にいてほしい、これからもずっと。どんなことがあっても。」


「…っ」


「愛している、サクラ。誰よりも。」


「…嘘です。」


サクラは涙声になっている。

「嘘じゃない。嘘じゃないんだ…」


レオンはサクラの額に自分の額をこすりつける。

あの時の様に。

今度はサクラの名前を何度も呼びながら。

「…サクラ…君のペースでいいって言ったのに、こんな形で気持ちを伝えることになってごめんよ。でも僕の気持ちは嘘じゃない。それはずっと君に伝えてきたつもりだ。サクラが笑ってくれて嬉しかった。声を聞けるのが嬉しかった。手伝ってくれて嬉しかった。色んな事を話す事が出来て嬉しかった。隣にいてくれるのがこの上なく幸せだった。今もこうして、サクラがここに居てくれるのがとても嬉しいし幸せだ。顔を見れない、声が聞けない日々はもう僕には耐えられない。サクラ、一緒にいて。僕の傍に。サクラ、どうか僕を受け入れて欲しい。サクラ、どうか僕を…1人にしないで…サクラ、サクラ……」


サクラはそういうレオンの顔を見る。

その顔はあの日と同じ泣きそうな顔だった。

途端サクラの瞳から関を切った様に涙が流れ出す。

「嘘…私なんか…」


「嘘じゃないよ、サクラ。大切な君を守りたいって、言っただろ?…愛してる…愛してるよ…」


サクラは声を出して泣き始めた。

レオンはそのままサクラを抱きしめる。

「私…どうしたらいいか、わからなくて…」


「いいんだよ。サクラは僕を心配してくれたんだろ? いいんだ。それがとても嬉しかったから…」


レオンはサクラを抱きしめたまま耳元で囁きその耳に口づけ頬を摺り寄せる様にするとサクラもおずおずと手をレオンの背中に回してきた。

それが堪らなく嬉しくて幸せでレオンはその唇にやさしく口づけた。
 

 


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「大丈夫…?」


レオンがその腕の中のサクラに問うとサクラは小さく頷いて答える。

暗い室内でベッドサイドのオイルランプだけが明かりを灯す中2人はベッドで肌を寄せ合っていた。

まだ夢の中に居る様な感覚でサクラを見つめる。

サクラの眼は泣いて腫れていたが幸せそうにレオンを見返した。

口づけるがサクラは抵抗せず受け入れる。


「サクラ…名前、呼んで…」


「…レオン…」


「はは、声涸れちゃってる…」


「…誰のせい、ですか…喉、痛い…」


「…あー、ごめん…」


「ふふ、あなたは、謝ってばかり…」


「それは君もだろ?」


「私…なんてはしたない…兄様達にどんな顔でお会いすれば…」


「…順番は違ってしまったけど…僕はこの道を外すつもりはないよ。だからそんな風に思わないで。」


レオンはサクラの額に口づけて そうだ。と、ベッド下に脱ぎ捨てた服から金のバングルを出してサクラの左手首にかける。

「これ…?」


「渡そうと思っていたんだけど、色々とゴタゴタしたから渡しそびれてたんだ。指輪はまた改めて作るからとりあえずそれで。」


「綺麗…ですね。」


「綺麗だけど重たいよ? 何せ僕のもんだっていう手錠だからね。」


「手錠?」


「そう。逃げない様にするための拘束具。」


そういうとレオンは眉を挙げて笑う。

サクラもそれにつられて笑顔になった。
 

 


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朝、目が覚めると目の前に愛しいサクラの顔が見えてレオンは幸せを感じてほほ笑む。

そのサクラの左腕には昨晩渡したバングルが光っていた。

「うん…よく似合ってる…」


小さな声で満足気に笑うとそのままサクラの額に口づける。

サクラもゆっくり目を開けた。


「おはよう。体は辛くない?」


「おは、ようございます…はい…わ、私…帰らなくては…」


「うん、廊下から出ると人目につくからテラスから行こう。抜け道があるから送るよ。」


体を起こして着替え、まだ静かなテラス側の大きなガラス窓を開けてテラスに出ていく。

「誰も居ないみたいだ。今のうち。足音がならない様にゆっくり行こう。」


そう言ってサクラの手を引いて歩いていると後ろでサクラが慌て始めた。

「れ、レオンっ。あのっ…」


小声で何かしら慌てているサクラを振り向いて見ると二人が歩いてきた道にレオンの背より少し高いくらいの桜並木が出現していた。

その桜は花びらの一枚一枚が朝日を浴びて、まるで龍脈に行ったときに咲いた桜の様に周りが輝いていた。

「なっ!?」


綺麗だとか言っている場合ではない。

レオンがサクラの手を引っ張って走り始めるがどこまで行っても桜並木は続く。

「ど、どうしてでしょう…? まさか…」


サクラがレオンに声をかけた時、目の前のレオンがピタリと止まり勢いでその背中にぶつかった。

どうしたのだろうと鼻を撫でながらレオンの顔を覗くようにすると声をかけられ固まる。

「レオン、サクラ、こんな朝早くからどうしたの?」


目の前にはカムイとタクミが立っていた。

「おはようございます。2人ともお早いですね。」


「お、おはよう。そっちも早いじゃないか。」


「うん、日課の弓の練習。カムイにも教えてるから、ね。」


「はいっ。タクミさんの妻たる者、弓も出来なくては!!って、うわああああ、綺麗~!!!」


カムイは二人の後ろに出来たミニチュア桜並木に目を輝かせる。

「本当だ、この時期に桜? というかなんで二人の後ろにそんなに咲いてるのさ……あ…」


タクミは何か感づいたようで、ちろーっとレオンを見る。

「タクミさん、タクミさん、今朝の朝食は皆さんを呼んでここで食べましょう!!」


隣でタクミの着物の袖をもってカムイが無邪気に喜んでいる。

タクミは うんうん、そうだね。と答えながらチラとサクラを見るとサクラはレオンの背中に隠れる様にして耳まで真っ赤になっていた。

カムイはそんな2人も気にならない様できゃあきゃあ言っている。

「あー…その…うん、なんとなく予想はついてたから、気にする事は…まあその、兄としてはちゃんと責任だけは…」


「~~~~っ…言われなくてもそうするよ…でもこの桜は、不可抗力で…」


とレオンがいうと念のためにと持ってきたブリュンヒルデが閃光を放つ。

と、ボワッ!!という音と共に今度は大きな大木の桜が姿を現した。

タクミはあんぐりと口を開けて桜を見上げ、カムイはタクミに抱き着いて喜ぶ。

レオンとサクラの2人も目を点にして桜を見上げて茫然としている。

「レオン、これブリュンヒルデが…」


「絶対にそうだ…祝いというより、これは嫌がらせだね…絶対に僕に対しての当てつけだ…」


サクラが小声でレオンに問うと、レオンは顔を引きつらせていた。

桜の小さな花びらがキャッスル内をピンクに染めていく。

背後の建物からめったに聞けないマークスの大笑いする声がキャッスル内に響いた。

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