BGM My Dearest/supercell
行軍が順調に終わり星界の門を通って帰還しようとしていた時、突如現れた眷属により戦いが始まった。その時一番殿にいたのはタクミの隊。後方を警戒しながら順番に帰還をしていた最中の事だ。カムイはその時星界の門の近くでマークス隊と一緒に居た。
「後方、眷属が現れ現在交戦中!!」
伝令が伝えたその言葉にカムイは全身が震える。今回の行軍でダメージの大きかった隊と補給部隊、支援部隊はもう全て門を通ってしまっている。残るは自分とマークス、ヒノカとタクミの隊だけだった。
「私行きます!!」
「駄目だカムイ、私が…」
「カムイ、私が行く。お前は門を通っ…」
助けに走り出そうとするのをマークスとヒノカが止めようとするが腕を振りほどきカムイは竜化して飛び上がる。
「カムイ様っ…」
スズカゼやジョーカー達もその後に続く。
「いかん…カムイとタクミ隊の援護に回る。急げ!!」
「あなた、私も!!!」
「ヒノカ、お前は何かあった時に対処出来る様にこちらに待機を。良いな。」
「でも…カムイが…」
「大丈夫だ。それにあちらにはタクミがおろう。行くぞ!!」
「…頼みます…」
ヒノカは祈る様に手を合わせマークス達を見送った。
最後列では眷属にタクミ隊が応戦していた。剣聖となったヒナタと槍聖となったオボロは恐ろしい強さで敵を薙ぎ払っていく。その後ろからタクミが確実に敵を仕留めていく。隊の兵士たちもタクミ達と同じ様なスタイルで三人体制で小さな陣を作りながら戦っており、その効率はとても良い。だがやはり眷属は数が多く倒しても数が減らない。このままではこちらが疲弊してしまう。タクミが歯噛みしていると大きな影が自分たちの上を通り前方に降り立って交戦を始めた。水を纏った銀色の竜。カムイだ。カムイの参戦で一時敵の猛攻が緩んだところをヒナタとオボロが畳みかける様に攻撃を始める。
「いまだ!! 今のうちに数を減らせ!!!」
ヒナタの声に隊が動き始める。着実に少しづつ敵を減らしていく。目の前のカムイも眷属が湧いてくる泉を見つけそこを潰しにかかっていた。水たまりの様な水場でも眷属はそこを入り口として湧いてくる。其処を潰せば眷属の増加は防げるのだ。龍脈の力を直接使える竜の体の方が人型でいるよりも潰す事がまだ容易い。襲い来る眷属に大きく唸りを上げ威嚇すると同時に出てくる水の粒を無数の小さな刃に変えて敵に浴びせるがその体には小さな傷がいくつもついている。直ぐにジョーカーが杖で回復をする。
『私は大丈夫です。早く他の方を!』
「しかし……畏まりました。」
「カムイ様、後ろはお任せを。」
スズカゼ達がそこにフォローに入りカムイを守る間にカムイは水場を潰したところでまた後方から声があがる。タクミの右側からまた眷属が現れタクミは素早く風神弓を構え連射を始め次々に倒していくがタクミ1人に対して数体を相手に連発で連射を行うのは難しい。ヒナタとオボロも前から襲い来る敵を阻止するので精一杯でタクミへの援護が出来ずにいた。
カムイはまた飛び上がりタクミの前に勢いよく降り立ち眷属を足で潰し踏みつけながら大きく咆哮して眷属達に圧をかけ足を遅くさせる。「グルルル…」と唸りながら水を集め小さな刃を周りに纏わせ威嚇を続ける。
「あんた、何で戻って…」
カムイはあちこちを眷属に切られながら応戦している。タクミも援護するが密集しすぎていて狙いが定まらない。
「無理だ、あんたひとりで…下がれよ!!」
「カムイ!! 押し返せーー!!!」
「押せ、押せーーーっ!!!」
タクミが叫んだ所でマークス隊とサイラス隊がタクミとカムイの間になだれ込み敵を後ろへ押し返すのを見てカムイは水場を探す。
「カムイ様、こちらです。」
一足早く探し当てたスズカゼの案内で水場に進み潰しにかかるが水場からの眷属の湧き方が激しくなかなか潰せない。スズカゼが援護に入りながらなんとか少しづつ潰していく。
「タクミ様!!カムイ様の援護を、ここは任せてください!」
ヒナタとオボロがが駆け寄りタクミに声を掛けるがタクミはその場から動かずカムイとは別の方向の敵を射っている。
「タクミ様!!」
どうみてもあの数の眷属相手にカムイとスズカゼの2人では対処できる訳がない。事実今もカムイは竜の固いうろこで覆われているとはいえあちこち傷ついている。こんな時までカムイの事を拒絶するのか。ヒナタは胸倉を掴む。
「何やってんだよ!!!!」
タクミと目が合う。唇を噛みしめて心配している様子なのに何故!? 舌打ちをしてタクミを睨みつけ手を放しヒナタは猛然と走りカムイを囲む眷属に突っ込んでいく。
「おおぉらぁあああ!!!」
『ヒナタ、さん?』
「カムイ、こっちゃあ何とかする。頼むぜ!!」
「ヒナタさん、私がフォローします。」
「おおよ!!!」
ヒナタが腰にさしていたもう一本の刀を抜き取り二刀流で敵に切りかかっていくのをスズカゼがフォローしながら戦うのを見て、カムイは水場を潰すことに専念する。湧き出る眷属に攻撃を受けるが踏みつけながら必死で塞ぐ。
『塞ぎ終わりました!!』
「よっしゃ!! おめぇ怪我は!?」
「カムイ様、一度治療を。ジョーカーさんを呼んで参ります。」
『そんな事してる時間はありません。大丈夫です。』
怪我もそのままにカムイはヒナタと共に敵を薙ぐ。
「カムイ、治療しろ! それに時間が…」
体を動かすたびに血しぶきが飛ぶカムイの体を見てヒナタも声を掛ける。それに竜化をしたのが自分達を助けに入ってからなら時間が長すぎる。前にカムイに竜化が長いと体に負担がかかる事を聞いたヒナタはそれを心配するがカムイは戦う事を止めない。
『助けます。もう誰も無くさない!! ヒナタさん乗って!!』
「カム…くそっ…」
ヒナタはカムイの背に乗り首に捕まるとカムイは高く飛び上がりタクミの前に降り立つ。同時にヒナタが飛び上がり上から切りかかる。タクミは目の前に再度降り立った銀色の竜の体を見た。美しい銀の鱗はあちこち傷つき血を流しているのに敵に向かっていく。
『タクミさん、怪我はありませんか!?』
こんな状態でありながらカムイはタクミの心配をする。
「馬鹿じゃないの…自分が怪我、してるのに…」
「ジョーカー!カムイの怪我を!!!」
タクミは目を潤ませてカムイの姿を見るがカムイはそれに目を微笑ませて応える。ヒナタが戦いながらジョーカーを探しカムイの怪我の事を伝えるとすぐにジョーカーが駆けつけて治療を始める。
「カムイ様、なんてお姿に…!!!竜化している時間が長すぎます。早くお体をお戻しください!!」
「カムイ…早く戻れ!!」
ヒナタが近寄り声を掛けるがカムイは聞こうとしない。
『私が守るんです、私が!!もう嫌なんです!!』
「馬鹿!んな事言ってる場合じゃ…」
ヒナタがそう言うと同時にカムイの体が急に引っ張られる様に宙に浮き大量の水の粒が舞い上がり人型に戻る。その姿を見て周りの人間は目を見開く。あちこちから血を流し鎧もボロボロになったカムイが気を失い落ちてくる。ヒナタは反射的に走り寄りカムイの体を受け止めるとその体はダラリと力なく手足を垂らす。周りから音が消え動きもスローモーションの様にゆっくりとなる。心臓が苦しいくらい早く動き呼吸も小刻みになる。助けなければ。自分がカムイの名を呼びジョーカー達を呼んで抱きかかえたまま治療を受けさせている事もまるで外から見ている様に思考が止まっている。死ぬなカムイ。目を覚ませよ!そう言ってる筈なのに。オボロやスズカゼはその治療を邪魔させまいと必死で眷属を止める。マークスがカムイを呼ぶ声がする。サイラスが何か叫んでいる。何かおかしい。何だこの感覚は。カムイ、カムイ、死ぬな。笑え。目を開けて笑え。頼む誰かカムイを助けてくれ。ヒナタの意識を覚ましたのはタクミの絶叫だった。
「…っ!!!!! カムイ姉さーーーーーーん!!!」
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月を見ながら鍛錬場で1人ヒナタはぼうっと座っている。眠れず気を紛らすために夜中に鍛錬場に出て来たが竹刀を振る気にもなれず只管ぼうっとしていた。頭を巡るのはダラリと力なく垂れるカムイの手足、傷ついた体。目を閉じて首を振る。カムイは長い時間竜化した事による心身の負担と怪我によるダメージがあまりにも大きく眠り続けている。もちろん面会は出来ない状態なので会う事も出来ず顔も見ていない。思うのは顔が見たい、話がしたい、あの声であの顔で隣で笑ってほしいという事ばかりだ。何より自分のカムイに対する気持ちに気づいてしまった事。この気持ちに気づいてしまえばあっさりと陥落する。今の自分は追剝ぎ装備にやられ素っ裸になった状態と同じだ。溜息をついて草の上に寝っ転がる。タクミはあれから少しづつではあるが色んな事を自分からやる様になっていた。カムイの事も姉と呼び毎日顔を見に部屋に行っている。王族達は顔を見る事が出来るが一介の臣下である自分はそれをする事が出来ない。せめて近くで頑張れと気持ちを送ってやりたくてタクミについて行き居室の下で待っていたり、巡回当番の時などに下に寄ったりしていた。
「会いてぇな…」
ぽつりと呟きごろんと横を向く。ここはカムイと一晩明かした場所。とかいえ眠っただけで何も無かったが、今も抱いて眠ったあの感覚は忘れる事が出来ない。ここで共に鍛錬をして汗を流し食べて笑って過ごした時間は今思えばとても濃い時間だった。臣下である自分が王族に恋慕するなんて今まで考えた事がない。だが事実、今自分はその状態に陥っている。ヒナタは頭を抱える様にして体を丸める。
「くそー…カムイぃ…」
「はい?」
ふいに返された返事に飛び起きると見慣れた人影が立っていた。月の光にキラキラと光るその髪を見間違える筈はない。まだ包帯を巻いて杖をついているが自分の顔をみてふにゃと笑う。ヒナタは無意識に立ってふらりとカムイの目の前まで歩く。
「カムイ…?」
「お部屋に居ないようでしたからここに居るかなと思って。えへへ。」
「お前、何で…」
「少し前から目が覚めてたんです。傷ももういいんですよ。ただジョーカーさん達が外に出してくれなくて、誰も居なくなったのを見計らって出てきちゃいました。寝すぎちゃって眠くないんですよー。あ、一緒に夜食食べません? 握り飯、今日はちゃんと塩ですよ。まだ形がうまく作れなくてなんだか不格好なんですけどねー。」
「飯、食えるのか。」
「食べられますよ、お腹すきますから?」
「本当にちゃんと塩なのかよ、また砂糖じゃねぇのか?」
「塩ですよ! ちゃんと舐めてから作ったんですから!!」
「見たら違いが判るだろー。わざわざ舐めるか?」
「舐めた方がわかり…???」
ヒナタはカムイに手を伸ばし抱き締める。カムイは驚いたがヒナタの胸から聞こえる心臓の音がとても落ち着けるように感じて目を閉じる。
「無茶しやがって…死んじまうのかと思ったぜ…」
「…ごめんなさい。」
「ちくしょー…涙が出そうだ。」
「泣く?」
「泣かねぇよ。」
そういって離れたヒナタの目は潤んでいた。カムイもそれを見て微笑む。
「泣きたい時には泣いていいって言ったのヒナタさんですよ?」
「それは女がだ。男はそう簡単に泣かねぇの。」
「ふふーん…そーか、泣いてぜーんぶ流しちまえ。受け止めてやっから、ね?」
「はっ……ほんと、おめぇは……っ…」
カムイが笑顔で両手を広げるのを脇の下から手を入れ持ち上げる様にして抱き上げる。カムイも笑いながらヒナタの頭をくしゃくしゃとする。
「あー、やべぇ…」
「何がです?」
「でーっかい城がよ、細い柱を1本抜いただけでガラガラと崩れてんだよ、今。」
「へ? 城が? どこっ!?」
カムイはそのままキョロキョロするがそんなものこの林のどこにもない。
「ばーか、想像しろよ。でもよ、たったひとつの柱だぜ? だからきっとそれって大黒柱かなんかなんだよ。」
「んー、そうなんですか?」
「あー、すっげぇ大事なもん……なぁ、おめぇタクミ様の事好きだろ?」
「っっっ!?」
カムイは固まり顔を一気に赤くさせる。ヒナタはその反応を見て胸が痛む。
「隠さなくてもいーぜ。わかってっから。」
「…姉弟なのに、おかしいですよね…最初は心配だったんです。だけど見てるとほっとけないというか、いつの間にか…」
「んー、だよな。何となく最初からそんな気はしてたんだ。多分タクミ様も気にはなってんだと思う、おめぇの事…」
「そう、だったらいいんですけどね。まだタクミさんに認めて貰うには道は長そうです…」
「はぁっ!? あんだけの事しといてまだ!?」
「まだ…かな? へへ…」
カムイは耳を下げて寂しそうに苦笑いする。ヒナタはまだ素直になれないタクミに腹が立った。あの時もカムイを助けず他を見ていた。ヒナタはまだそれが許せずにいる。姉弟だろうが何だろうが大切な人なら何を置いても助けるべきだ。自分なら間違いなくそうする。だからあの時も主を置いてカムイの元に走ったのだ。忠誠心とかなんとかよりも自分の大切なものを守る為の行動だ、他に何を言われようとこの行動だけは間違っていないと自信を持って言える。
「何があったんだよ、言え。」
カムイを下ろして顔を見ると目を伏せてしまう。
「まだきっと私が色んな事が解っていないからタクミさんを怒らせているんだと思います…」
「何が解ってねぇってんだ?」
「しきたりも何も…暗夜と全然違うので…」
「ならタクミ様が教えりゃいいだけの事だ。カムイだって教えてくれって前も言ってたじゃねえか。」
「うーん…教えるの、嫌みたいで…」
「あぁ!?」
「伝えても返ってこないんです…黙ってしまって切られちゃう…」
ヒナタは頭を抱える。昔から猜疑心の強いタイプではあった。臣下の自分達も信じてもらえるまで確かに時間がかかった。だが姉であるカムイにそんな態度をとるにしても長すぎだ。どちらにしても拗らせている事に間違いはないだろう。
「わりぃな…俺の主が…俺が殴ってでもカムイのいう事聞かせるから…」
「そ、そんな事!! ヒナタさんが悪い筈無いですよ。 タクミさんの臣下として立派にやってくれてると思います。」
「そういう問題じゃねぇ。もう立派な大人の歳になって、何駄々こねてんだって話だ。男として最低だぜ。」
「男として、とか言うのは私にはよくわかりませんが…ありがとう、ヒナタさん。」
ヒナタはそう言って少し困った顔で笑うカムイを見て腹を決める。
「タクミ様がそんな状態なら、俺にも機会はあるって事だよな。」
「え?」
「なぁ、さっきの話。崩れる城は俺。その大黒柱はお前。意味分かるか?」
カムイはきょとんとしている。ヒナタはそれをみて笑う。
「ははっ、なーんだよ、難しいか?」
「んん??」
「あー、んじゃ分かりやすいように言うと…」
ヒナタはカムイの腰を寄せて口づける。カムイは目を見開き体を強張らせるがそれに構わずヒナタは続ける。慌てるカムイが手に力を入れて離れようとするもヒナタの強い腕に抱かれ身動きが取れない。いきなりの事で息継ぎも出来ず苦しくてヒナタの着物を強く握る。
「んんっ…はっ…」
少しだけ唇を放してくれて息継ぎをしたところでまた口づけられる。待ってましたと言わんばかりにヒナタが口の中に入ってくるのをカムイはどうする事も出来ず受け入れるしかない。段々頭が痺れてくる感覚で体の力も抜けていくと、ゆっくりとヒナタが口を離してカムイを見る。
「解ったか?」
「~~~~…馬鹿ッ!!!」
「解ったかって聞いてんだ。」
「解りやすいように言うって…一言も言って、っ…」
「そうか解ってないか。」
そういうとまた口づけてくる。今度は口の中にもあっさり滑り込んでくる。何か言おうとした時の口づけだった為、カムイは目を開けたままヒナタの顔を見ているとヒナタもぱかっと目を開けてウインクしてくる。
「んっ、もっ…もぉおーーーーーっーーーーー!!!!!!」
「ぷっ…ははははははっ!!!!!」
カムイはヒナタの顔に手をやってベリッと音がするくらいの勢いで離れると涙目でヒナタを睨むがヒナタは楽しそうに笑っている。
「説明、してなぃ!!!」
「したぜ、体で。」
カムイは両手を思い切りヒナタの顔にバチン!!と叩きつける。それでもヒナタは腰に回した手を離そうとしない。
「って!! 痛ぇな!」
「どっちが悪いのっ!?」
「んー、俺?」
ニカッと笑うが直ぐに真面目な顔に戻りカムイの顔を真っ直ぐに見る。
「好きな女に迫って何が悪い。」
「え、は?」
「好きな女を手に入れたいと思って何が悪いよ。」
「あ…」
「好きな女を抱きたいと思って何が悪い。」
「あ、ま、待って?」
「待たねぇ。タクミ様には悪いがお前は渡さねぇ。」
「私は…」
「カムイ、俺を選べ。」
「何で、そんな事言うんですか。私は…」
「このままでいておめぇが幸せになる様には思えねぇ。なら俺がそうしてやる。」
カムイは目を大きく開いて潤ませる。首を振ろうとするのをヒナタの大きな手で止められる。
「首を振るのは横じゃねぇ。縦だ。」
「あ、待って、お願い…」
「待たねぇ。身分違いだってのは重々承知してる。頭もいい方じゃねぇのも自覚ある。でもお前を守って幸せにしてやれる自信はある。少しくらいは俺の事意識してくれてたろ。肩肘張らずに側に居れる相手になれるのは俺だけだ。俺がお前の居場所になる。例え相手がタクミ様でも譲るつもりはねぇ。考えろ。自分がどっちに居たら幸せになれるか。俺はもうおめぇが苦しんだり寂しそうな顔をするのを見たくねぇ。おめぇが笑って、話をしてくれて、一緒に稽古したり飯食ったりふざけたり、そうする事の一つ一つが俺にとっては宝だ。」
「私どうしたら…」
「俺を選べばいい。さっきも言ったが俺を支えてる大黒柱はおめぇだ。カムイが居なきゃ俺は崩れる。」
「脅迫、ですよ…」
「それでもいい。でも後悔は絶対にさせねぇ。おめぇがタクミ様を好きな気持ちも全部含めて俺はおめぇが好きだ。もう未練なんて捨てちまえよ。」
そういうとカムイを抱き寄せる。ヒナタの厚い胸板や傷だらけの腕はとても逞しくこうしていても安心する。自分のことを理解してフォローしてくれたヒナタを自分も好ましくは思っているが、愛しているという感覚や実感ははっきりとは分からない。顔を上げると初めて見る表情のヒナタが微笑み返す。顔を少し赤くしてとても優しい顔で自分を見つめてくれる。このまま彼の腕の中へ落ちていってもいいのだろうか。
「カムイ、愛してる。」
その言葉にカムイの体は全身が震えて力を無くす。頭が痺れて何も考えられない。ヒナタの腕に支えられて口づけられる。何度も啄んで優しく名を呼ばれながらの甘く優しい口付け。ヒナタの唇はそのままゆっくり愛してると呟きながら顎から首筋に降りてくる。初めてのその感覚にぶるりと体が震えるが抵抗が出来ない。
「まっ、て…」
そういって着物を掴むとヒナタはゆっくりと唇を放していつもの笑顔でカムイを見る。
「わりっ!はは、やばかった…っと!!!」
ヒナタが手を離すとカムイは膝をガクリと落とす。慌てて抱きとめる。
「…無理させちまったな…」
カムイを抱きかかえようとした所で手に持っていた握り飯を包んだ小さな包みに気付きそれを手に取る。
「これ、もらってもいいか?」
「…え?」
「俺が食う。砂糖が入ってても絶対に食う。」
「…うん。」
カムイを抱きかかえて部屋に向かいながら空を見ると月は一層光を増し周りの星の光を鈍らせていた。抱えているカムイは頬を染めて目を潤ませて伏せている。巡回当番に見つからない様に少し遠回りでカムイの部屋に戻りドアの前に立つ。今までカムイに呼ばれて話をしたりする時にだけ少しの間入れた部屋。ゆっくりとドアを開けて入るとベッド傍のランプだけが薄くついた状態の室内が目に入る。薄く深呼吸して足を踏み入れベッドへカムイを寝かせ髪を流してやる。ランプの光と横になったカムイが何ともいえない艶を見せてごくりと喉が鳴るが頭を振って掛物をかけてやり頭を撫でる。
「悪かったな…おやすみ…」
カムイは黙って頷く。杖を側に置いて静かに部屋を出て自分の居室に歩き始める。久しぶりに見たカムイの顔に嬉しくてつい焦ってしまったが自分の思いを伝えた事に後悔はない。もしもこれで本当にカムイが自分を選んだとしても必ず幸せにする。そう思いながら手に持った包みを開くと不格好な握り飯が2つ入っていた。1つとって食べると少し薄いがちゃんと塩味のもので中の梅干しもきちんと種が抜いてあった。
「うん。上出来じゃねぇか。よっしゃまた頑張るか!!」
ゆっくりと食べながら伸びをして自分の居室に向かった。