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BGM Gonna Make You Sweat (Everybody Dance Now)/C+C Music Factory、TOP GUN Soundtrack




 


「えっ?」


「結婚のお許しを得に参りました。」


静かな白夜の屋敷に素っ頓狂な声が響く。

声の主はヒナタの主タクミ。

目を丸くしてヒナタとカムイを見つめている。

「ちょ、ちょっと待って、なんでいきなりそんな事になって…」


「暗夜のごきょうだいにはもうお話してお許しを得て参りました。タクミ様、リョウマ様、ごきょうだいの皆様にお話をしたいのですが。」


「だからっ、なんでそんな事になってるのっ!」


タクミは手に持っていた弓を荒っぽく台に置いて聞き返して来た。

「なんでって…こうなったんです。」


「…おまえじゃ話にならない…姉さん、どういう事か説明してもらえるかなっ!?」


タクミがカムイに向いて声をかけるとカムイは驚いた顔でタクミを見返すがヒナタがコソリと耳打ちしてきた。

「前も言ったけど、タクミ様はおめぇの事は気になってたからさ…絶対混乱するとは思ったんだ…ちゃんと真実を話さなくちゃ許してもらえねぇぞ。」


「ヒナタっ!」


「あーはい。すいません。カムイ、よろしく。」


「カム…呼び捨て…?」


ヒナタがカムイの事を呼び捨てにした事にショックを受けてよろけるタクミにカムイが一呼吸して答える。

「ええとー、つまみぐい仲間から結婚相手になりました。うふふ、ヒナタってば最初からグイグイ推して来るんですもの。推されて推されてもう断るなんて出来なくなっちゃって…それに一緒に食べたご飯が美味しいんです。もちろん他のものも。前と味は変わっていない筈なのに不思議ですよね。一緒だと味が違って感じるの。これからもずっと一緒にご飯を食べられたらいいなぁって…えへへ…」


頬を赤らめて照れ照れの状態で身振り手振りしながら説明するカムイに隣のヒナタはずっこけタクミはその場に座り込んでしまった。

「おめっ、何言って…!!!」


「え、違ってた? あは、何顔真っ赤にしてーっ。」


「きちんと話をしろって言っただろがっ、今のは完全にのろけだ!」


「んー、だってこれほんとの事だよ。一緒にご飯食べたら美味しいもんねー。」


「だよなぁー…違うっ!! え、えっと…」


ヒナタが慌てて座りなおして頭を下げ説明しようとすると、ユラリとタクミが立ち上がり小声でぼそっと呟いて部屋に入って行った。

「…兄さん達…呼んでくる…」

 

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タクミの屋敷の座敷の上座にずらりと白夜の王族きょうだいが並んで座った前に、少し離れてヒナタとカムイが座っている。
きょうだいが集まりこの状態になってからしばらく経つが静かな沈黙が続いていた。

遠く鹿威しの音が響いた時腕組をして座ったリョウマが口を開く。

「タクミから話は聞いた。カムイを嫁にという話だが…」


「はい。」


ヒナタは武家式の礼に乗っ取りリョウマに頭を垂れる。

流石にリョウマは自分が仕えている王家の長兄という事もあり威厳が半端ない。

まだ暗夜のマークスの方が気が楽に済んだ。

ヒナタは次の言葉を静かに待っていた。

「カムイは透魔国の王族でもある。これから国をまとめて行かなくてはならんかもしれんぞ。」


「身分が違う事は承知しております。必要であれば礼も習い尽くしていく所存です。」


「ほう。破天荒なお前がそこまでいうか。」


「破天荒であればこそ。俺なりにカムイ様をお守りします。」


その言葉に隣のカムイが頬を染めて目を輝かせている。

リョウマはその顔を見て小さく微笑みカムイにも声をかける。

「カムイ、お前はそれでよいのだな?」


「は、はい。私も協力して頑張ります! 兄さん達にもご協力願いたいんです。これからまた私達に色々と教えてください。」


「だそうだ。皆何かあるか?」


リョウマがきょうだい達を見回すとあからさまにタクミが納得いかない様子でヒナタとカムイを見ている以外は他の面々は嬉しそうに頷いていた。

アクアに至っては相変わらずの無表情で静かに2人をみていたが。

「アクア、お前はどう思う。」


リョウマが聞くと表情も変えずに静かにリョウマに向き直り薄く微笑んだ。

「ええ、ヒナタはああ見えて腕も確かな侍だし人をまとめる力も持ってる。カムイが見初めたならいいと思うわ。私の従姉妹ですもの。幸せになってほしいわね。」


「そうか。お前がそういうならよかろう。丁度俺たちもそろそろとアクアと話をしていたところだしな。」


「え?」


「俺とアクア、祝言を上げようと思う。」


その言葉にアクアを含め全員が固まり、アクアは珍しく顔を真っ赤にしてリョウマを見ていた。

「まあ、俺たちの事よりもとりあえずはお前たちの事だな。侍たるもの、覚悟はできてるなヒナタ?」


「はいっ。」


「…侍の覚悟?」


「手合わせの事。」


頭を下ろしているヒナタにコソリと言われてカムイもポンと手を叩くが途端ハッとする。

「ま、待ってくださいっ、ちょっと…ヒナタ、私と勝負した時に昔タクミに負けたって言ってなかった?その兄さんだよ?」


「負けた。盛大に。だけど俺もあれから鍛錬を重ねて来てんだ。リョウマ様だろうと受けて立つ。タクミ様にもリョウマ様に勝たなくちゃ認めて貰えねぇ。」


カムイが心配して小声でヒナタに話しかけたがヒナタはやる気満々でカムイへ返す。

それを静かにみていたリョウマは目を細めて笑い木刀をヒナタに投げてよこした。

「よし。得物は木刀。そのかわり手加減なしだ。」


「侍衆の鍛錬で何度か手合わせはしていただいていますが、今日は負けるわけにはいかねぇんで本気で行きます。」


「楽しみだ。こい。」


庭に出て2人で一礼した後、ドシっと構えるリョウマにヒナタも木刀を構える。

リョウマは脇構、ヒナタは下段に構えて静かに集中していく。

周りは静まり返りサワサワと風が葉を揺らす音のみ、時折間合いを図る様にリョウマとヒナタが足で地を擦る音がするだけだ。

バサリと鳥の羽音がした瞬間2人が同時に動き真ん中で木刀が鈍い音を立ててぶつかる。

力圧しではどちらも譲らないが顔に余裕があるのはリョウマの方。

カムイはヒナタの表情を見ながらハラハラしていた。

まだヒナタとはそんなに付き合いが長いわけではないが手合わせをしたり戦で攻陣を組んだ時などの様子から考えても今はヒナタに余裕がない。

声をかけてあげたいがこの集中した緊張感の中で声を出すのは憚られる。

落ち着きなく廊下で膝立ちになったり座ったりを繰り返していると左隣のアクアが小さく微笑んでカムイを諭す。

「大丈夫よ。少し緊張しているみたいだけど落ち着いてるわ。」


「え…?」


カムイはアクアとヒナタを交互に見るがアクアは落ち着いた様子でいる。

「心配なのは解るけど、ヒナタがこのまま終わると思う? ああ見えてタクミはもちろんリョウマ達にも信用されている将よ。信用してあげなさい。」


そういって目線をリョウマ達に移す。

「…ヒナタの腕は確かだよ。昔から出稽古なんかも沢山こなしてるし場数も沢山踏んでる。腕は僕が保証する。」


手合わせから目線を逸らさずにタクミもカムイに声をかける。

そうだ、自分が信用しなければ…カムイは一息吸ってどすっと座り直して手合わせの様子を見直すとリョウマとヒナタは鍔迫り合いを続けていた。

ガンと押して離れ間合いをトントンと取りながら後ろに跳ね避けて行く。

今までカムイとの手合わせでは見せた事のない動き。

戦の時の身軽な動きで両者とも動いている。

静かに構え直した所で「ふう」と息をつきながら呼吸を整える。

流れる汗もぬぐわず、その目を見ても集中力は切れていない。

ごくりと息を飲んで様子を見つめる間、また見つめ合いが続き今度は先にリョウマが動く。

上段に構えて振り下ろす様に動いた木刀は足のステップで起動が変わり横薙ぎになったのを、ヒナタは空中に飛び上がり身を躍らせて着地し直ぐに地を蹴って横構えから一閃する。

リョウマは体制を立て直し剣を盾にして受け自らの剣を軽く回転させて弾き持ち直し今度は突きを繰り出すのをヒナタも剣を盾にして軌道を逸らせ同じ様に回転させる様にしてリョウマの剣を弾くと柄の先でリョウマの手を弾き木刀を手から離れさせた。

木刀は勢いで離れた場所にガランと音を立てて落ちた。

「…見事だ。相変わらずの変則的な攻撃だな。やはりお前は普通の侍とは素質が違う。兵法者の方が合っている様だ。」


「へへ…剣聖であればこんな戦い方、侍の風上にも置けませんから。」


「ふ、その通りだ。見事だったぞ、ヒナタ。今後とも腕を磨け。」


「はい。ありがとうございます!」


「皆、決着はついた。俺の負けだ。」


そういうリョウマの声にまわりのきょうだい達はほっとした笑い声と共に拍手をしていたがカムイはいつの間にか胸の前に祈る様に手を組んで手合わせを見つめていてそのまま固まっていた。

息が出来ず呼吸は薄く心臓がドクドクと鳴っていたが目線の先のヒナタが汗を拭いながらニカリと笑って腕をぐっと上げてカムイに声をかける。

「っへへ、俺の勝ちぃっ!」


ヒナタの笑顔にやっと息を吸って立ち上がろうとした所で右隣のタクミがすっと立ち上がりヒナタに声をかける。

「ヒナタ、次は僕とやろう。」


タクミはリョウマが拾ってきて側に置いた木刀を取って庭へ降りる。

汗を拭きながら水を飲んでいたリョウマは静かに対応した。

「タクミ、勝負はついたが…?」


「悪いけど、まだ僕は認めてない。」


隣のカムイが驚いてタクミを見ていると目が合う。

タクミは声を出さず口パクで一言だけカムイに向けて答えヒナタの方へ向き直る。

カムイはその声の無い言葉に座り込んでしまい、横にいたアクアは小さくため息をつく。

「…リョウマ。タクミは納得しないと難しいわよ。」


「ふむ…だがヒナタは今俺との手合わせを終えたばかりだ。幾分分が悪かろう。」


リョウマがヒナタの方を見るとヒナタはタクミを黙って見つめていたがその目には力が籠っていた。

「ヒナタ、どうする。」


「…受けて立ちます。」


「…そうか。では一休みしてからにしろ。検分してやろう。俺が戻ったら始める。」


そういうとリョウマはアクアと共に着替えに一旦下がるが静かに座っていたヒノカとサクラが慌てて声をかける。

「タクミ、勝負はもうついた。どうした?」


「…ちょっとね。」


「ヒナタ、お前も今手合わせをしたばかりなのに…」


「大丈夫です。取り合えず一休みだけはさせて頂きますので。」


「では少しだけは回復しておきましょう。祓串を取って来ますのでお待ちください。」


「ありがとうございます。」


ヒノカと共にサクラが祓串を取りに戻り、庭にはカムイとヒナタ、タクミの3人のみとなった。

ヒナタが座り込んでしまったカムイの横に腰かけて名を呼ぶとカムイは弾かれた様に顔を上げて手拭いを渡す。

「あ、お疲れ様です。はい。」


「おう、あんがと…」


ヒナタが何も聞かず汗を拭いてカムイが準備してくれた水を飲み干すと「ぶはっ」と息をついて空をみてタクミに視線を戻す。

タクミは庭の大きな石に腰かけ目を閉じて集中していた。

背後の室内から小さな光とカタカタと何かが揺れる音が聞こえるのをカムイが振り向いて見ているとヒナタが小さく声をかける。

「…風神弓が鳴いてんだ。実戦のつもりで来るみてぇだな。」


この庭はタクミの居室の前にある。

室内に置いてある風神弓がタクミの集中力に呼応しているとヒナタはいう。

タクミとは攻陣も防陣も組んだことはあるが、こんな形で風神弓が呼応するのを感じたのは初めての事だった。

「マジだな、ありゃ。久しぶりだぜ、あんな状態のタクミ様見るのは。」


「…ヒナタ…」


「タクミ様はリョウマ様に叶わねぇとか言ってっけど実際戦うととてつもなく強ぇ。腕や足の一本で済みゃいーがな。」


「え…」


ヒナタの言葉に寒気を覚えてヒナタの着物を強く握ると、その手をポンポンと軽く叩かれてニカリと微笑まれる。

「だーいじょーぶだよ。サクラ様達も居っから。」


「そ、そういう問題じゃ…」


「お待たせしました。ヒナタさん、回復を。」


「はい。」


サクラに軽く回復をしてもらいヒナタは腕を回して立ち上がり準備運動を始めた。

カムイが不安そうにその姿を見ているとまたタクミと目が合う。

また一言、口パクで何かをカムイに向けて発しまた目を閉じて俯き集中を始めた。

カムイは困惑して泣きそうになってしまうがポンと頭に手を乗せられる。

顔をあげるとヒナタがいつもの顔で笑ってくれていて微笑み返すと、頬に手を添え真剣な眼差しで見つめてきた。

「おめぇは渡さねぇ。いいな?」


「…うん。」


そのやり取りにカムイの後ろに居たサクラは顔を真っ赤にしてしまうがヒナタは構わずサクラにも笑いかけ話しかける。

「うっし!! へへ、失礼しましたー。すんません。」


「いっ、いえっ。仲が良くていらっしゃって羨ましいで…いえ、その…」


「でしょ、仲良いんすよ、俺ら。な?」


「…ふふ…うん!」


3人で笑いあっているのを少し離れた場所でヒノカは笑顔で眺めていたがタクミに目線を映してゆっくりと近づいていくとタクミが気配で目を開けてヒノカを見た。

「何?」


「お前、おかしいぞ。」


「……解ってるよ。」


「解っているのなら駄々をこねる様な真似はやめるべきだろう。」


「そうだね。でも治まらないんだ。」


「はあ…解っているだろうが、これは手合わせだ。戦ではないぞ。いいな。度を越せば…」


「うん。解った。」


ヒノカがため息をついた所でリョウマがアクアと共に戻って来て手合わせの準備を始め、先ほどのリョウマとの時と同じく互いに向き合い一礼して構える。

タクミ、ヒナタ共に脇構でまた静かな時間が過ぎる。

タクミはそのまま気配を消してしまうかの様に静かに微動だせず、ヒナタも間合いを計っているのか静かに構えたまま動かない。

時が止まった様な感覚に陥りそうな気持ちになった時2人が同時に動き始めた。

タクミが地を蹴りヒナタに向かい、ヒナタは対応するために体を低くする。

タクミが横薙ぎに木刀を一閃する。

その木刀はリョウマが降った時の様に太い音もさせず風切りの音だけが鳴る。

体を低くしたヒナタがそれを木刀で受けるがタクミの木刀から発せられた風で髪が揺れる。

風神弓はその名の通り風を使う。

持ち主のタクミ自身にその力が宿っていても不思議ではない。

ヒナタはその衝撃を散らす様に木刀を回し体を回転させて避け飛び上がる。

すかさずタクミも追撃を仕掛けるべく飛び上がり連撃を浴びせてくるがそれを躱しながら着地してタクミとの間合いを一気に詰めて木刀をぶつけ合わしギリギリと力勝負を始めた。

タクミとにらみ合いながらヒナタは小声で話しかける。

「人の女に何言ってんです。やめて下さいよ。」


「気付いてたんだ…正直な気持ちを言っただけ。」


タクミの剣を圧して少し離すとヒナタの反撃が始まった。

上中下段と木刀の高さを変えながらの攻撃をタクミは軽く躱していき、ダンと足をついた所でタクミの足元から風が巻き起こる。

ヒナタも咄嗟に反応して飛び避け離れた所に降り立って構えなおした。

リョウマがすかさずタクミに声をかける。

「タクミ、その力は今は…」


「関係ない…」


ぼそりと呟いたタクミの言葉にリョウマは目を見開き止めようとするがタクミは風を纏い始めリョウマの手を弾く。

長い髪は風により暴れる様に揺れていた。

目の前のヒナタはその様子を見ながら構えを解かない。

ジャリ…とタクミが足を踏み出そうとした時、視界が銀色に染まる。

視線を上に移すと威嚇するように自分を見つめる大きな銀色の竜が立ちはだかっていた。

「!! カムイ!?」


『これは手合わせの筈です。神器やその力を使うのは間違ってます!』


「…どけよ、姉さん。」


『嫌です。』


「姉さん!」


『嫌です!!』


タクミが声を上げると同時に風の勢いが増す。

それに合わせてカムイの体から水の粒が舞い上がり体を纏う様に刃に変わる。

「やめろ カムイ!」


『ごめんなさい、勝負の邪魔をして。でも…タクミさんが…あなたが神器の力を使うなら、ヒナタの代わりに私が相手になります。彼はあなたの大切な臣でしょう!』


「その臣下が知らない内に僕の好きな人を奪った…」


その場の全員がその言葉に固まるがカムイとヒナタ、アクアだけは表情も変えずタクミを見つめている。

「さっきも言っただろ。「渡さない」「好きだ」って。姉弟だけど、好きなものは好きだったんだ…だから、奪い返す。」


『…その気持ちはとても嬉しいです…でも私は選びました。ヒナタは守ります。必ず!』


「カムイ…」


『ヒナタ、下がってて。必ず守るから。』


纏う風の勢いはそのままにタクミが言い放つとカムイは刃を大きく変化させていくがヒナタがカムイの前に飛び出してきた。

『ヒナタ!?』


「ばっかか、おめぇは。恥かかすなよなー。惚れた女1人守れねぇでなーにが男だよっ。」


『え…そ、そうじゃなくてっ! 今のタクミは危ないよっ!!』


「俺の覚悟を見せる為の手合わせだろー? おめぇが出てきてどーすんだ。」


『も…ヒナタっ!』


「ほいほい、戻れって。」


ヒナタがカムイの顔を撫でているとタクミが木刀を振り下ろした。

風圧はまっすぐヒナタに向かってくる。

『ヒナタ!!』


ヒナタが木刀を握り直すとその周りが少し歪んだ様に見える。

その風圧に一閃すると風圧は弱まり、ヒナタ達の所に届くまでには髪を揺らす程度にまで収まった。

それを見てカムイも驚いてヒナタを見つめている。

『え?』


「あー…これやると疲れる…へへ、すげーだろ。」


「…何?」


「昔タクミ様に負けた後、鍛錬しまくって習得したんです。気の扱いはまだ慣れませんけどねー…」


『ヒナタ、凄い!!』


カムイが人型に戻りながらヒナタに抱き着き喜んでいるのを見て、タクミは歯ぎしりをして木刀を握りなおすが背後に気配を感じて止まる。

「タクミ、風を解き木刀を落とせ。」


背後から雷神刀をタクミの首に伸ばしたリョウマに声をかけられ、タクミはゆっくりと風を解き木刀を落とした。

風の外には薙刀の刃をタクミの首辺りに向けたヒノカの姿もあった。

「お前には後でゆっくりと話をしよう。ヒナタ、この勝負お前の勝ちだ。武士ならざる態度で挑んだタクミの負けだ。カムイを頼んだぞ。俺たちで協力出来る事があれば手伝う。いつでも使うといい。」


「あ…はい。ありがとうございます。」


「ヒナタ、すまんな。タクミの事、今後もよろしく頼む。サクラ。」


「は、はい。ヒナタさん、こちらへ。」


ヒナタが座って回復をしてもらっている間、カムイはリョウマに着物の首の所を掴まれ、ヒノカに胸倉を掴まれたタクミに近寄り声をかける。

「ごめんね、タクミさん。ありがとう。頼りない姉ですが今後ともよろしくお願いします。」


ペコリと頭を下げると泣きそうな顔で見つめてきたが、直ぐにリョウマ達に引っ張られて連れて行かれた。
 

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「ヒナタ、ありがとう。」


カムイの居室まで歩きながら声をかけると、ヒナタは驚いた顔でカムイを見つめてきた。

「なにが。」


「何がって。私の為に色々と…」


「今から夫婦になんだから当たり前だろー? お安い御用だって。」


あっけらかんと答えるヒナタにカムイの顔は自然に笑顔に変わる。

ヒナタも少し頬を染めてニカッと笑い返す。

「へへ、これで後は実家行って、日取り決めて…だな。」


「そう。ご実家に行かなくちゃ。うう、緊張する…」


「おめぇは心配ねぇって。そんなに固ぇ親じゃねえから心配しなくても大丈夫だよ。さっさとやっちまおうぜ。」


「だから気が早いってば。」


「あのなっ…俺が我慢できねぇの!」


「何の?」


ヒナタはきょとんとした顔で言い返して来るカムイの顔に大きくため息をついてゴソゴソと懐に手を入れて小さな袋を出して目の前にぶら下げた。

「ん!」


「ん?」


「ん!!」


「何?」


「…いいもう自分で開ける…」


「開けてほしいならそう言ってよー。」


カムイが袋を取って開けてみると指輪が2つ出てきた。

シンプルだがとても綺麗な指輪にカムイは目を輝かせた。

「綺麗。素敵な指輪ですねー。装飾が入ってる。水面?」


「おめぇ水の竜だろ。だから。」


「へぇー、素敵、素敵ー!」


「…まさかとは思うけど何の指輪か解ってっか?」


「ん? ………え?」


「ぶははっ、やっぱりかー。貸せ。」


ヒナタは小さいほうの指輪を取ってカムイの左手薬指に通し手を持ち上げてキスをした。

「もーいーや、早いけど。おめぇ危なっかしいから先にしとけ。これでおめぇは完全に俺のもの。まだ式はしてねぇけど外すなよ。」


カムイは一気に耳まで赤くなりその場でモジモジし始めその言葉にこくりと無言で頷いた。

「カムイさーん、ヒナタさんにも指輪して下さいなー。」


その言葉に慌てて指輪をとってヒナタの手を取り指輪を通す。

その手を両手で包むように持って目を潤ませて見つめた。

「…ありがと…」


「おー、これでヒナタさんもカムイさんの予約済ってな♪」


「…うん。」


手を繋いでゆっくり歩き、カムイの部屋のドアの前まで来てヒナタが手を離そうとするとカムイに手を強く握られる。

「ん?」


「……」


カムイは俯いたまま耳まで真っ赤にしている。

しばらくその様子を見ていたヒナタもぶわっという音がする位に一気に顔が赤くなった。

「……まじ?」


聞くがカムイは俯いたまま答えず手を握ってくるだけ。

「…このまま黙ってると、俺ぁ都合よくとるぞ。」


「……」


「いーのか?」


「……」


二言目で下からカムイの顔を覗き込むように見ると、カムイは逆上せたような真っ赤な顔で紅い目を潤ませてヒナタをチラリと見る。

「へへ~~~~♪♪」


ヒナタはそのままカムイを抱きあげて鼻歌交じりにドアを開け部屋に入って行った。

 

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