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少しだけ大人の表現がありますのでご注意ください。








そういや、あの時もカムイから好きだって言葉はなかったよな。

ヒナタは月を見上げながら椅子に背を預けてため息をつく。

我ながら女々しいがやはりこういう事は言葉として欲しいタイプのヒナタは少し寂しく感じていた。

カムイが自分の事を好いてくれているのは解っている。

足りない自分をフォローして助けてくれているのも、今後の為に嫌いな勉強を一緒にやってくれているのも充分すぎる位に。

これはただの自分の我儘だという事も自覚があるが、付き合い始めて今に至る数か月の間にその言葉が覚えているだけで1度位しかないのはとても寂しかった。

月をみながらぼうっとしているとカチャリと窓が開いてカムイが首に腕を絡ませてきた。

「ヒナタ、湯冷めしちゃうよ?」


「んー、今日も月がきれーだなーってよー。」


回された腕を撫でながら答えるとカムイが腕の力を強くしてきた。

「わーったって。入る入る。」


腕をポンと叩くとやっと緩めてくれて窓を閉め笑顔でドアを開けてくれた。

小さな子供の様な表現をするがこれがカムイの精一杯の愛情表現なのは最近解って来た。

部屋に入ってドアを閉めるとカムイがぽすっとヒナタの胸に身を寄せてきた。

そのまま抱き上げてベッドまで連れて行きゆっくり体を横たえるとカムイは嬉しそうに「いひひーーーっ」と笑う。

「なーんだよ?」


「んふふ。ヒナタのその姿見るの久しぶりで…髪下ろして浴衣来てる姿好きなんだー。」


「数日見なかっただけだろ…そういう所じゃ好きだって簡単に言うのに…ちぇー…」


カムイは頬を両手で抑えてにこにこ笑っている。

かぶさって抱き締めるとヒナタの髪を撫で始めた。

「この色、好きなんだよねぇ。」


「特に珍しくもねえ髪色だろ。くせっ毛だし…」


「この癖がいいんじゃない。ピンピン跳ねててかわいい。」


「男がかわいいって言われても嬉しくねぇ。」


「この髪をね、毎朝梳かすのが楽しいの。」


「その楽しさは解んねえなー。」


「ヒナタはいいの。私が好きなんだから勝手に楽しむ。ふふ。」


「なー、好き好きって言ってくれるのは嬉しいけどパーツの事ばかり言ってね?」


「全部がヒナタでしょ。」


カムイはヒナタの背に腕を回して抱き締め肩の所に顔を埋める様にする。

「ぜーんぶがヒナタですよ。私の大好きなヒナタ。」


「…なんかスッキリしねえけど、ま、いいや。」


ヒナタはそのままカムイにゆっくり口づけた。
 

 


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風呂から湯を取ってきてカムイの体を拭いているとカムイが目を開けた。

「…ナた…」


嗄れた声で小さく呟き、乾いて張り付いた喉とその痛みに顔を歪ませるカムイにヒナタが口に水を含んで口づけ流し込んでやるとカムイはこくりと喉を鳴らし水を飲み込んで1つため息をついた。

「そのまま寝とけ。体拭いてやるよ。」


ぐったりとしてヒナタにされるがままの状態になっているカムイの体は陶器のような美しい肌で、あちこちにヒナタのつけた紅を散らしてまだ熱を持っていた。

流石にやりすぎたな

最中に出てきた初のカムイの言葉攻撃に煽られて我を忘れて抱いてしまった事を反省しながら体を拭いているが、体中の紅色の跡を見ながら情事を思い出し何度も突っ伏してしまう。

やべぇ…

「足りねぇ…」


ボソリと無意識に出た言葉にヒナタはハッとして慌てて取り繕う様にしてまた体を拭き始める。

その様子にカムイはくすりと笑ってヒナタに手招きをしてきた。

ヒナタが顔を寄せると耳に口を近づけて来てぽそと何かを呟きニコリと微笑む。

驚いた顔でカムイの顔を見なおすと手拭いをぽいっと投げ捨てベッドにあがり布団を被ってカムイを抱き締める。

「ひっひっ…」とカムイは声にならない声で笑っている。

「…~~~…おめぇ頼むから小出しにしろよー。俺は優しくしたいんだって。一気に言うから…抱き殺しても知らねぇぞ。」


ヒナタはそう言って笑顔で見てくるカムイに噛み付く様に口づけた。
 

 


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翌朝、鳥の声で目を覚まし体を起こすと部屋の中が騒然となっている事に気付く。

着物は投げ捨てられ、引きずってきた机には風呂桶が置いてあり中の湯は当然もう水に変わっている。

手拭いも遠くに落ちてしまっていて、何よりシーツがとんでもない状態で乱れていた。

「うひゃー…こりゃやべえ。ジョーカーに見られねえ内に洗っとくか。」

ベッドから降りてカムイを抱えてシーツを抜き、カムイには浴衣を軽く着せてまた布団をかけてやるが、カムイは全く目を覚まさず寝息を立てていた。

そりゃそうか…カムイ、わりぃ…

「好きだって言葉も、過ぎれば毒だな…こりゃ…」


1人呟きながら軽く部屋を片付けてシーツを風呂で洗って上の干場に持って上がると太陽の光に一瞬目がくらむ。

「うお…まっぶし…」


今日もいい天気になりそうだ。

そう思いながらシーツを干して風に吹かれながら煙管を吹かす。

あまり煙草はやらないが時たま吸いたくなる。

特に心身ともに充実したこんな朝は。

1人でのんびり煙管を吹かしていると影が差し声をかけられる。

「あれー、ヒナタ。どーしたの珍しー。」


天馬に乗ったツバキがヒナタに声をかけてきた。

太陽光で逆光になったヒナタは手をかざしながら返事をする。

「よー、おっはよ。」


ツバキが旋回して干場に降りてきて、馬から降りると大きく伸びながら近づいてきてニコーーーと笑う。

「なんだよ、気持ちわりぃな…」


「ヒナタが煙管を吹かしてる。朝が早い。で、シーツが干してあってー、その傷。昨夜は幸せな時間だったみたいだねーぇ。」


穏やかな笑顔のまま1つ1つ指でチェックしながら話しかけてくるツバキの言葉にヒナタはぎょっとする。

そういえばまだ遊んでいた頃はツバキに何度か見つかったことがあった。

ルーティーンは変わっていない筈で何があったかは既にばれている様だ。

「幸せ実感してるのはいいけど、奥様はこの軍のトップなんだから、公務や戦闘の差支えにならない様にしてもらわないとー。それも夫である君の役目でしょー? ヒナタが出て来てるって事は奥様はまだお眠りになっているって事だよねー? やばいんじゃないのー? 今日は朝から軍議だよー?」


「ぐん…軍議っ!? まじか!!!」


「何知らなかったのー?」


「俺ぁ昨日国から帰って来たばっかりで…カムイからも何も…」


「あららー。因みに朝食後には直ぐに軍議でそれが終わり次第進軍だからねー。」


「ええっ!?」


「ヒナタの背中にそんな傷がついてるって事は、奥様は相当だって事だよねー? ああ、カムイ様お可哀そうに…」


「傷?」


「気づいてないのー? 背中にメッチャひっかき傷がついてるよー。ぷふふ…あ、スズカゼが来た。おーいスズカゼー、おはよー。」


ヒナタがその方向を見るとスズカゼがカムイの部屋に向かっていた。

スズカゼはツバキとヒナタの姿を確認して穏やかに笑って手を上げている。

ヒナタは慌てて寝室に駆けおりる。

「朝食、早くしないと食べられないよー。さって、サクラ様に声かけに行かなくちゃ。」


ツバキはヒナタに声をかけて吹く風に目を閉じ深呼吸して馬に乗り空へ駆け上って行った。
 

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結局カムイは起きられず軍議には代理のスズカゼとヒナタで参加したが、その時に暗夜白夜のきょうだい達にあれこれ言われ、レオンは「将たるものの自覚が姉さんにはまだ足りない」と怒りマーク。

マークスやカミラ、エリーゼはカムイの体調を心配し、リョウマ、ヒノカ、サクラも部屋に後言ってみようと話をしていた始末。

前に座るタクミに「ヒナタ、まさか…」とじと目で睨まれるがとぼけておくしかなかった。

サクラの後ろに座るツバキは背中を丸めてその様子を見て静かに笑っていた。

「ヒナタさん、カムイ様は本当に大丈夫でしょうか? 何なら私が薬草を煎じて…」


「いや、兎に角疲れてんだと思う…はあ…」


軍議が終わってカムイの居室に帰る時にスズカゼと共に歩いていると心配したスズカゼがあれこれとヒナタに声をかけてくる。

とにかく誤魔化さないといけないと思い取り繕っているとハタとスズカゼが立ち止まる。

その目線の先には寝室の外のベランダで大きく伸びをしているカムイの姿。

挙句浴衣をはだけて肩がずり落ち下着も見えている。何より昨晩の名残が丸見えになっていた。

「あんの馬鹿っ!!」


ヒナタの声に気付きふにゃあと笑ってヒラヒラと手を振ってくるカムイの元へ走ろうとするとスズカゼに肩を掴まれる。

嫌な予感がしてゆっくり振り向くとダークな笑顔のまま低い声で呟かれる。

「手裏剣の雨と滅殺と、どちらがよろしいですか? 」


「あ…はは…」


「ご夫婦の事です。私も無粋は致しませんが、これはどうかと思います。さ、選ばれてください。どちらが良いですか? ご希望であれば、水責め、毒服用など色々とコースはありますよ。」


「け、結構です…」


「ご遠慮なさらず。折角ですからこの際忍びの術を体感なさってみませんか?」


「か、勘弁してくれっ!!!」


「逃がしませんよ…」


全力でダッシュして部屋に逃げ帰ろうとするヒナタとダークスズカゼの追いかけっこが始まった。

この後進軍の準備の時にヒナタはカムイにボロボロの状態で話したという。

「好きだっていうのは、俺だけでいいや…」

 

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