top of page

「ただいま帰りました…ど、どうしたの?」


少し前の事。

カムイが夜の見回りを済ませてマイルームのドアを開けたらいきなり抱きかかえてベッドに連れて行かれ押し倒す様に抱き締められた。

見える時計の針はそのまま時を刻み自分が帰ってきた時間から既に10分以上経っている。

抱きしめたまま静かに呼吸をしてるのは先月結婚したばかりのヒナタ。

最初は「つまみ食い仲間」だったヒナタと気持ちを通い合わせたのは急な事だった。

自覚のなかったカムイに対し自分の思いをはっきりと伝えまっすぐ向き合ってくるヒナタに最初は戸惑ったが、自分を支え包んでくれた天真爛漫な彼にいつの間にか惹かれていた事に気付き結婚をきちんと承諾した。

結婚までもとても早くさっさと予定を決めてしまいあれよという間に式をして夫婦となった。

だが意外に愛妻家で独占欲も強いヒナタに全身全霊で愛されてとても幸せだ。

ヒナタは今までこんな甘えてくるような態度をとる事は無くカムイは驚いていた。

腕もがっちりとホールドされてヒナタを抱き返すことも出来ず頭をコチコチとヒナタの頭に当てる様にして声をかける。

「ヒナタもお疲れ様。久し振りの白夜はどうだったー?......ヒーナーターさーん。どーしたのー?」

ヒナタはそのまま無言で小さく首を振る。

「ねぇ、せめて腕だけでも自由にさせて。抱き返すことも出来ない。」


そういうと殆ど体を動かさずカムイの腕だけを自由にしてまたぎゅうと抱き締めてきた。

大体カムイの方が部屋に帰ってくるのが遅いためヒナタはもう部屋着になっているがカムイはまだ鎧のままだ。

「せめて鎧を脱ぎたいんだけど…」


やはりヒナタは首を小さく振って無言のままで一層力を強くして来た。

何があったのか解らないが諦めてヒナタを抱き返して背中をゆっくりと撫でながら目を閉じる。

ヒナタの体はとても逞しい。

体中傷だらけだが温かく優しい体温にいつも安心する。

頭を摺り寄せる様にすると同じ様に返してきて思わず顔が綻ぶ。

「黙ってるなんてヒナタさんらしくないですよ。何があったのか言ってくれないと解りません。」


「…その言葉遣いやめろ…他人くせぇ…」


やっと出た声は小さく拗ねたような口調でカムイも目を瞬かせる。

「本当どうしたの? 何かあったの? 心配、ねぇ、お願い教えて?」


カムイはそう言ってヒナタの頭に頬を擦りつけると、ゆっくりと体を起こしてカムイを見下ろしてきた。

「情けない顔して…どうしたの?」


「なぁ…俺ら結婚したよな?」


「うん。」


「おめぇ、俺の事好きで結婚した?」


「は?」


いきなりの質問にカムイは素っ頓狂な返事で返す。

「何言ってるの?」


「…俺はいつもちゃんと好きだっつってるけど…いや、確かにあまり気の利いた事は言えねぇけど…でも気持ちは一杯伝えてる…つもり…だったんだけどよ…」


「伝えてもらってるよ。」


「と、届いてるか?」


顔を赤くしながらも真剣に聞いてくるヒナタの顔は気持ちを通い合わせた時の顔と似ていた。

カムイが柔らかく微笑んでこくりと頷くとヒナタは一瞬顔が綻びそうになるが頭を振ってまたカムイを見つめてきた。

「よくよく考えたら、あの時。あの付き合う事になった時な。おめぇははっきり、その…付き合うとか、好きだとか、そんな事は言ってなかったし、ひょっとしたら俺の勘違いで無理矢理結婚したのかなって…」


「どうしてそうなるの。」


「だっておめぇ、あの時も結局最後は八朔の事で…気付いたらなんかそのままうやむやになっちまっててよ…」


ヒナタは主のタクミについて数日白夜王国へ帰っていた。

実家にも行っている筈だが何かあったのだろうか。

ヒナタの実家にはもちろんカムイも何度か行っているが、今の状況からそんなに頻繁にではない。

ひょっとしたらその時に何か言われたのだろうか。心配になってカムイも聞き返す。

「ご実家のご両親に、私の事で何か言われたの? 私、何か粗相をしたでしょうか?」


「え!?」


「わ、私、気づかない内に、お父様とお母様に粗相をしましたか? 何か言われたんなら言って。粗相をしたのであれば私ちゃんとご実家に謝ってきますから!」


「え、いや、ちげぇって!!そ、そんなんじゃなくてっ!!!」


ヒナタは慌てて否定するがカムイは不安で仕方がなかった。

自分は幼い頃から暗夜で育った為、白夜の文化や決まり、礼儀などにまだ完璧に対応できるわけではない。

それこそツバキやきょうだいにお願いして色々と教えてもらったりして勉強をしている最中なのだ。

白夜王国に代々仕える武家の生まれのヒナタに恥はかかせまいとカムイなりに必死でやっていたつもりだ。

ヒナタに何か言われたのであれば自分がきちんと直さなければ、とカムイは瞳に力を込めてヒナタを見つめ返していた。

「ちげぇよ! おめぇの事は俺には勿体ねぇって言ってるくれぇで、親も喜んでるよ。ほんとだぜ!? いい人に来てもらったって滅茶苦茶喜んでんだからよ! おめぇは王女で俺とは身分が違うってのに嫁に来てくれた。おめぇの事をもし悪くいう奴がいたら神だろうが王族だろうが俺が捻りつぶしてギッタギタにしてやらぁ!!!」


裏表のない言葉で力強い目で見返してくるヒナタにカムイは安堵するがならば何故ヒナタはそんなに元気がなかったのだろう。

ヒナタの頬に手を当てて首を起こして軽く口づけるとヒナタも応えてきた。

体を支えられゆっくりベッドに押し付けられて確認するように。

唇を離すとヒナタはカムイへ額を合わせてきた。

「俺は本当に感謝してる。俺みてぇなやつと一緒に居てくれてありがとな。おめぇの事はずっと大好きだから。」


「…うん。」


「…親にはな、俺の勘違いや早とちりで無理矢理カムイと結婚しちまったんじゃねぇかって言われたんだよな…んでよくよく考えたら、その…確かに思う所は多々あってよ…」


「無理矢理結婚させられるほど弱くないよ、私?」


「わーってるよ。だけどおめぇ優しいから…よく軍や兵の奴らにも言われんだよな。勢いで圧したんじゃないかって。俺も思うところはあるし、もしもそうなのであれば両国のごきょうだいに俺ぁ殺されても文句は言えねぇ。」


「あれだけ自信満々に「俺にしろ」って言ったくせに何を言ってるの。ヒナタが「落ちて来い」って言ったんでしょ。がっちり受け止めてくれるんじゃなかったっけ?」


「もう何があっても離さねぇ。」


「うん、ならどうして?」


「……だっておめぇ、俺の事好きだとか愛してるとか言ってくれた事ねぇ…その、夜だって1回くらいしか聞いた覚えがねぇもん…つかそれは俺が言わせたような感じで…」


カムイは目を丸くして頭を抱えて考える。

自分は言っているつもりだった。

言葉の端々でも気持ちは伝えているつもりだった。

でもヒナタが嘘をついているとは思えない。

やはり自分が思っていた以上に言葉でヒナタに伝えていないのだろう。

思わず顔が真っ赤になる。

「ご、ごめんなさい。そう、だった?」


「…でも結局これって俺が言わせるような事になっちまうんだよなぁ…てか俺、女みてぇ。こんな事でうじうじ…」


耳と尾を垂らした犬の様にヒナタはしょんぼりとしてカムイに被さる。

確かにヒナタは言葉遣いが巧みな訳ではないがそれでも毎日きちんと言葉で気持ちを伝えて来てくれていた。

自分もそれに対して応えているつもりだったが言葉では確かに表していなかったかもしれない。

心の中で盛大に土下座をしてヒナタに謝りつつ背中に回した手に力を込めて大きな体を引き寄せる。

「ごめんね。私、言ってるつもりでいた…」


「……んー…」


「不安だった?」


「いや…全部許してくれてんのは解ってっから…俺が無理言っても受け入れてくれるもんな。いっつもあんがとな。」


「ふふ…度合いによるけど、こちらこそ。色々心配かけてすいません。私もヒナタを見習ってきちんと言葉にする様にするね。」


「…それなんだけどよ…カムイに言葉にされたら俺耐えれねぇかも…」


「何が?」


ヒナタは体を起こして照れくさそうに笑って言う。

「それでなくても滅茶苦茶好きなのに、これ以上煽られ…」


「好き。」


「へ?」


「大好き、ヒナタ。」


思わぬカムイの言葉にヒナタの顔は一気に耳まで真っ赤になり、その顔をみてカムイも笑顔になる。

「カムイ…俺の話聞いてたか?」


「聞いてたよ。」


「今俺が何考えてるか、当ててみ?」


カムイはにっこりと笑ってヒナタの頭を引き寄せ耳元で囁くとヒナタもいつもの笑顔で笑いカムイを抱こうとするがするりと腕の中から抜け出してバスルームへ走り込んで鍵をかけた。

 

bottom of page