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性的な表現があるため「R」とさせていただきます。

自己責任の上でご覧ください。


BGM  My Dearest/supercell
 

 

 

 

「はーあ…一介の臣なんて、こんなもんだよな…あんな最終兵器で来られたんじゃ俺らみたいなペーペーは粉砕だぜ。」

そう言いながらカムイの髪の先を少し弄りため息をつく。

 

「リョウマ兄さんで来られたらね、確かに…でもいいご縁じゃないですか? オボロさんなら気心が知れてますから無理もしなくていいじゃない?嫌いじゃないでしょ?」

「あいつは仲間なんだよ。正直今までそんな目で見た事もねぇ…大体おめぇは無神経過ぎだ。」

「無神経?」

「カムイ~、神様はまだいいよって言ってないのかよー?」

「はあっ????」

「神様、居るなら聞いてくれ、哀れな男の願いを。この隣の女の気持ちをこっちに引っ張ってください!! ご縁はこちらです!!」

いきなり暗夜式の合掌をして空に向かって祈り始めるヒナタにカムイは目を丸くするがすぐに腹を抱えて笑い始めた。

 

「やはははははっ!! 何それ、似合わない!!!」

「笑うな! 切実なんだぜ、こっちゃあ!!! 好きになった女、簡単に諦められるかっ!!!」

「あぅ……ごめんなさい…」

「…暗夜にもあるように白夜にも一夫多妻制ってのがあるんだぜ。最近ではそんな事少なくなっちゃーきたが、まだやってる家は多くてだな…」

「何言ってるんですか。絶対にそんな事出来ない性格してて。何のかのでヒナタさんは1人しか愛せないでしょ。」

「それが解ってるならここに落ちて来いよ、お前が。」

ヒナタが自分の胸をトンと叩いて手を広げるとカムイは困った顔で笑い膝の上に座る。

 

「この位、までかな。」

「ぅおい!! ここまでもうちょっとだろっ! こんだけだぞっ?カムイ~~…泣くぞ俺ぁ…」

カムイを膝に乗せたままバターンと後ろに倒れて大の字になり腕で目を隠す。

 

「漢・ヒナタらしくないですよ。」

「もうおめぇにゃかっこ悪いとこも全部出してるだろー? はーーーー…とっとと奪っちまえばよかったぜ。あそこで我慢なんかしたから…ばふっ!!」

カムイはマントでヒナタの口を抑える。

 

「男が愚痴るなんざ、みっともねーよ?」

「真似すんな…」

ヒナタがこんなに落ち込んでいる所を見たのは初めてだ。明るく振舞ってはいるがやはり元気がない。原因は間違いなく自分にあるのだが出来るだけこうして付き合う様にお互いが気を使っていた。いきなり距離を取る事でお互いが身動きが取れなくなりそうだったからだ。こんな形になってしまったとはいえ一応はお互いの気持ちを確かめた仲だ。今後も付き合っていかなくてはならない以上ある程度の気づかいは必須だ。カムイは空を見上げる。空は雲が厚くいつもの星空は見えなかった。

 

「なぁ。やっぱ連れて逃げていーか?」

ヒナタは起き上がり膝の上のカムイを真っすぐ見つめるが、カムイは目線を逸らして焚火に枝をくべながら首を振る。

 

「逃げるって事が一番嫌いでしょ、ヒナタさん。」

「大っ嫌ぇだ。でも俺はおめぇが欲しい。」

「凄く嬉しいけど…ごめんなさい。」

「タクミ様の事、まだ…」

「ううん。もうそれもいいの。」

「また弓の稽古してもらってんだろ? 喜んでたじゃねぇか。」

「あれは的に中ったから。」

「本当に1人を選ぶのかよ…」

「今はって言ったじゃないですかー。生きてればご縁もあるかもしれないでしょ? 事実ヒナタさんはご縁があったんだから幸せになるべきですよ。」

「おめぇとの縁の方が先だったろ。おめぇこそ逃げてるじゃねぇか。どっちも選ばずに…」

「…選んだよ…恋と皆を天秤にかけるなんてとんでもない事もした。どっちが重いか解るでしょう?」

「そこは天秤にかけられる重さのものじゃねぇだろ? 比重が違い過ぎらぁ。」

「そうだね…でも、かけなくちゃいけなかったの…」

「男なら、解る。その重さも抱えて行かなくちゃならねぇのは。だけどおめぇは女じゃねぇか。女のおめぇがなんでここまで…」

「ありがとうございます。私にもご縁がある様に祈っててくださいね。」

どこまでもカムイは拒む。その顔は笑っているがとても辛そうだ。苦しませたい訳じゃない。だが今カムイが抱えている大きなものを持つのを手伝う位は自分でも出来る筈だ。ヒナタは手を握り締め首を振る。

 

「嫌だ…俺はおめぇが欲しい。こんなに…好きになったのは初めてなんだ。」

「ヒナタさん…」

「こんな俺じゃ頼りないか? 信用できないか? なら変わってみせる。王のおめぇの側に居れるように、俺も頑張る。だから…」

「私がこうして変われたのは、あなたのお陰なの。だからあなたはあなたのままでいいんですよ。逆に変わらないで欲しいです。」

「カムイ…俺ぁ…」

「ほら、見て。目の下のあの酷かった隈、もう取れたの。眠れるようになったから。政務も勉強も頑張れるようになった。前を向けたから。皆さんと今までよりも沢山話が出来る様になった。心から笑えるから。軍議でも意見が言える様になった。頑張れって言ってくれたから。タクミさんにだって大分意見出来る様になりました。言ってやれって言ってくれたから。それにね、いい顔して笑うってきょうだい達にも言われるんですよ…あなたが私の力になっていないなんて事ある訳ないじゃないですか。剣技だって弓だって笑顔だって、リラックスの仕方だって、全部あなたが教えてくれたものだよ。だからね、今はとっても楽しいの、色んな事が。まだたくさん教えてもらいたい事はあるし、稽古も続けたい。一本勝負でヒナタさんを負かせたのは1度きりだったもの。まだ強くなりたいです。」

ヒナタは泣きそうな顔でカムイを見ている。こんな顔も見るのは初めてだ。明るくて前向きでひまわりの様な人のこんな顔をみるのはとても辛かった。カムイも自然に顔が歪み見ていられなくて目線を逸らした時ヒナタに抱きかかえられる。

 

「え…?ヒナタさん…?」

ヒナタはカムイを抱きかかえたまま夜刀神を握って大股で歩き始める。向かった先はヒナタの居室。王族の臣下は小さいが1人1件の屋敷が与えられている。ヒナタの家は最低限の手伝いの人間が居るだけの家なので家事などの用事が済めば帰っていいという形になっていた。今はもう誰も自宅にはいない。玄関を開けて入りすぐに鍵をかけ、畳と白夜の香の香りがする部屋に入りカムイを下ろして抱き締める。カムイは何が起こったのか分からず驚いていた。ただ抱き締め方がいつもの優しいものと違い締め付ける様に力強いものだった。カムイが苦しくて言葉を出すと、ヒナタは微かに震える声で囁く。

 

「ヒナタさ…ン…くるし…」

「おめぇはウナギだな…捕まえても捕まえてもするりと逃げちまう。俺の腕の中から逃げられないようにするにゃ、このまま絞め殺すか、捌くのが一番手っ取り早ぇ。」

ヒナタが何を言っているのかが解らず沈黙が流れる。部屋の外からはパタパタという雨が木の葉を叩く音が聞こえ始め、それはすぐにザアッという強い雨の音に変わる。鎧を着けていないヒナタの肩の所に頭を押し付けられているカムイはヒナタの首から聞こえる心音に違和感を感じる。今までのヒナタとは間違いなく違う何か獣に近い心音だ。

 

「…抱かせてくれ。」

震えながら耳元で囁く声にカムイの顔と体が一気に熱くなり背筋がゾクゾクと震える。

 

「カムイの、決心は解った…俺も腹をくくる。これが最初で最後だ。」

今はまだ1人でいる事を選んだカムイだが相手は自分の愛した人。求められて嬉しくない訳がない。だがその対象となる人がもう1人居る。諦めた恋の相手のもう1人は心の片隅に微かに居座り続けていた。こんな気持ちのままヒナタに抱かれる事は嫌だとカムイは首を振ろうとするが振らせないとばかりに一層強く頭を押し付けられ体を締め付けられる。自然に目からは涙が流れる。いつも笑顔で自分を導いてくれたこの人を自分の勝手でここまで追い込んでしまった。タクミもそうだ。しかもこの人はそのタクミの臣下。今までどれだけ苦しかったのだろう。側で笑いあった時の色んな顔が浮かぶ。頭や背中を撫でてくれた優しい手の感触が蘇る。自分の名を呼ぶ時の顔や声が浮かぶ。愛しいヒナタが伸ばしてくれた手を自分自身で離した。改めて自分がしてしまった事を突き付けられる。

 

私は、なんて事を……

 

雨は一層地面を叩きつけている。

 

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茶色の長い髪の間から声にならない嗚咽と共に温かいものが落ちる。逞しい腕と背中に浮いた水滴が流れ落ちる。首や肩からは温かいものが何筋も流れていた。カムイは何故かその痛みも感じず震えるその頭を優しく抱き寄せて呟いた。

 

殺してください。あなたの手で。

 

声にならない嗚咽は音に変わり雨音が聞こえる暗く静かな部屋に響き渡った。

 

父上、あんたの言ってた事は、本当だったよ。

 

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雪が舞う冬。

新年を迎えてしばらく経ってからキャッスルでは祝言が執り行われささやかな祝宴が催されていた。仲間も兵士も皆招かれ心からおめでとうと口々に祝いの言葉を述べる。上座に座った新郎と新婦は皆に笑顔を返していた。

まだ祝宴の熱が冷めやらぬ夜。カムイは1人でキャッスルを散歩していた。冬は空気が澄んでいて空がとても綺麗だ。月の光も何重か輪を重ね、星々もそれに負けじと光を放つ。広い原っぱでカムイは立ち止まり吹く風に混じる小さな雪を見つめる。手を伸ばし雪を手のひらに止めるがその雪もすぐに体温で溶けてしまう。それを見ながら切なそうに微笑む。暗夜に居た頃カミラがよく歌ってくれた子守歌を口ずさみながらそれに合わせて軽くステップを踏んでダンスを踊る。アクアの様な優雅で大きな踊りではないが、ソシアルダンスを1人で踊っている様に。最近レオンにダンスを叩きこまれているからか、その動きは綺麗で無駄がなく優雅だ。後半に入ると雪の粒が大きくなってきて空を見上げる。澄んだ月夜に雪、なんて綺麗なんだろう。しばらくそのまま仰ぎ見ていた。ふと人の気配がしてゆっくりと顔を向けると風に吹かれる長い茶色の髪の男性が立っていた。カムイは目を見開く。

 

「こーんな寒い日に、なーにやってんだ…風邪ひくぞぉ?」

くせの強い茶色の髪は風と雪に舞っているが相変わらずどんなに乱れようが気にしていない。

 

「ヒナタさん。あーあ、衣装も髪型もよく似合ってたのに。」

「似合わねぇよ。柄じゃねぇや。」

ゆっくりと歩いてきてカムイの前に立つ。

 

「…今、床入り済ませてきた。」

「おめでとうございます。でもそれなら出てきてちゃ駄目じゃないですか。早く戻ってあげないと。」

「しばらく目は覚めねぇよ。」

ヒナタは空を仰ぎはぁーっと息を吐く。息は白い煙となり空に昇る。

 

「花嫁さんに何て事を…」

カムイがその顔を見て小さくため息をつくとヒナタがカムイの首へ手を伸ばし髪をかきあげて首や肩に何かを確認する。

 

「治った、か?」

「流石に治りましたよ。しばらくは誤魔化すのが大変でしたけどね。」

「傷、残ってねぇな…よかった…すまねぇ。」

「何て顔してるんですか。」

ボサボサになった髪をよけてやると辛そうに歪んだヒナタの顔が見える。その顔を見て柔らかく微笑むと一瞬驚いた様な表情を見せるがふわりと笑顔を返してきた。

 

「眠れなかったんですか?」

「いや、ここにカムイに来てほしいって願ったからよ、きっと来てくれてんじゃねぇかなって。」

「爆睡してたらどうするんですか。」

「そしたらこっちから押しかける。」

「立場を考えて下さいね、新郎さん!?」

「ふはっ、まーな。これ、渡そうと思ってよ。」

ヒナタが差し出したのは紅のベースに小さく銀竜の装飾が施してある守り刀だった。組紐も紺と銀で組まれた素晴らしい出来のものだ。

 

「これ?」

「色々と一緒に戦ってきた相棒への贈り物だ。」

ヒナタも自分の懐から同じ様なものを出す。ヒナタのものは紫のベースにカムイのものと対になる様な銀竜の装飾で組紐は黒と銀で組まれていた。

 

「これからも共に戦える様に。背中を守れる様に。忘れんな、おめぇは1人じゃねぇ。直ぐに助けに行ってやる。例えおめぇの側に誰かが立ってもそいつごと助けてやるよ。」

ヒナタはいつもの力強い顔だが瞳だけは優しくカムイを見ている。

 

「この刀にかけて誓う。例え一国が相手でもカムイを護りきる。」

ヒナタは守り刀を抜き腰の所まである髪を背中の位置まで切り捨てた。茶色の髪が風と雪と共に舞い散る。カムイは驚いて胸に抱いた守り刀を強く握り唇を噛みしめる。

 

「俺の命にかけて誓う。どんな形になっても、どんな状況になっても俺は一生カムイを愛す。心くらいは…許してくれるよな。」

「な、に…考えて…駄目にきまっているでしょう。奥さんを大切にしてあげてください。私、彼女の事大好きなんですから…ほんと…馬鹿…」

「おーよ。 へへ、こん位の髪も似合うだろ?」

「…私、これ以上髪を切ったら坊主になっちゃいますよ。」

「おめぇはもうあんだけの覚悟したじゃねぇか。」

「…私も、誓います。必ずこの戦を終わらせる事。早く皆が笑って過ごせるような世界を作ります。この軍の将として必ず皆さんを引っ張っていきます。それから…」

カムイの声は舞い上がる風と雪にかき消されるが、ヒナタはカムイの頬を撫でカムイもヒナタに微笑み返した。

 

「冷えちまったな。」

「ですね。」

「酒でも飲むか?」

「飲まない。私がお酒に弱いの知ってますよね。というかさっきあれだけ飲んだじゃないですか。」

「俺、ざる。」

「うわぁ…」

「おいっ 、露骨に引くなよー!!」

「あ、そういえば私、もう少ししたら兵種変えようと思って。」

「んあ? 今は【白の血族】だったか? 何に?」

「【剣聖】」

「ふーん……あぁ!?」

「折角師匠に白夜式剣術を教えて頂いたんですから無駄には出来ないでしょ。うっす、師匠、よろしくおねあっす!」

「今、装束着ねぇ?」

「着ない。戦闘でもないのに。大体まだ変わってません。」

「超みてえ!!!」

「あーーー、お静かにー。夜中ですよー。早く帰りましょうよ。オボロさん心配してるかもですよ。」

「あー、そだな…帰って酒飲んで寝るかー。」

「私お茶飲んで寝よーっと。」

「…俺も飲みたい…」

「いいから、早く帰ってくださいってばっ!!!」

「わーったよーっ。んじゃな、カムイ お休みっ!」

「お休みっ。ありがとうございました。」

「えっ、何何、よーく聞こえませんでしたー???」

「いいから、帰れっ!!!」

「姫様ー、お口が悪うございますよー。」

「しつこいっ!!!」

「はは…お休み。」

「おやすみなさい。」

 

 

「ありがと、ヒナタ…」

カムイはヒナタの背中が見えなくなるまでその場で見送り、胸に持った守り刀にキスをして自室へと歩き始めた。

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