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結婚式当日。

朝から準備で動き回っていたカムイは控室でぐったりしていた。

朝早くから起こされ湯あみをして衣装合わせに打ち合わせと動き回って軽く食べた朝食はとっくの昔に消化されお腹の虫がグーグーなっている。

室内には菓子と茶は準備されているもののなんだか食べる気にならない。

 

「お菓子やお茶より、ご飯食べたいな~…」

鏡台の前に突っ伏して独り言を言っていると声がかかる。

 

「カムイ、いい?」

「タクミ? どうぞ。」

すっと静かに部屋に入ってきたタクミはまだ普段着で手には包みを持っている。

その包みを見て直ぐに何か解ったカムイは目を輝かせる。

 

「お腹すかせてるだろうからってヒナタから預かってきた。」

「うん、お腹すいてた!」

早速包みを開いて少し大きめの握り飯にかぶりつき口一杯にした状態で頬を染める。

 

「おいひ~…流石だなー、塩加減まで絶妙。中身の具、要らないもんね。ちょっと塩強くしてる?」

うんうんと頷きながら握り飯を見ては食べしているとタクミが冷茶を持ってきてくれた。

 

「ありがと。」

「ヒナタはカムイの事は何でも知ってるね。」

「理解してくれました。多分きょうだい以外で白夜で一番最初に。色んな事を教えてくれて、経験させてくれて、沢山背中をおして貰った。怒られた事も沢山あるけど。」

「僕もあの二人には子供の頃から世話になってる。理解してくれて教えてくれた。感謝してる。お陰でやっとこの日を迎える事が出来た。今後も世話になるけど迷惑かけないように頑張らなくちゃね。」

タクミははにかみながらも嬉しそうに笑ってカムイを見る。

カムイもタクミに微笑み返した。

 

衣装に着替えオボロに手を引かれてゆっくりと部屋から出てくると持たれている手が急に大きなものに変わる。目を上げるとヒナタが立っていた。

 

「ヒナタ。」

「本当は女が誘導するみてぇだけど、こっからは俺が変わる。」

「私は次の衣装の準備とタクミ様の準備がありますから。ヒナタ、お願いね。」

オボロは頭を下げて衣装室に戻った。

ヒナタに目線をやると磨かれて綺麗になったいつもの鎧に前後のひれは白。

帯剣し白夜の紋と裾や襟に金銀と黒で細かな刺繍の装飾が施してある紫式部の陣羽織を着ていた。

 

「素敵、良く似合ってる。」

「へへ。側近らしくってタクミ様から賜った。今後は儀式の時にゃこれ着て側に居ろって…綺麗だな。」

「素敵な衣装でしょう? オボロさんのお陰だよ。」

「おめぇの事。似合ってる、滅茶苦茶きれーだ。」

「え? ありがと…」

「オボロがな、式まで時間があるから少し一緒に居ろって、気ぃ使ってくれた。」

「いい奥さんだよねー。」

「あー。」

手を引かれてゆっくりと長い廊下を歩き少し離れた休憩用の広間の椅子に座って話す。

今日は王族の式という事もあり会場は人が居らず静まり返っていた。

 

「おむすびありがと。ナイスタイミング。美味しかった。」

「んー。カムイ様の事は良く解ってますので。」

「今日は髪の毛はひどい癖出てないね。」

「これでもきちんとしてんだぞ、誰かさんがいーっつもうるせぇから。貰った櫛で毎日手入れしてます。」

ヒナタに前手入れをしろと櫛をあげた。

あの時には面倒くさいと文句を言っていたがあれから少しづつでもちゃんとしてくれているみたいだ。

今はオボロもきっと手伝ってくれているのだろう。

 

「髪、伸ばさないの?」

「伸ばさねぇ。」

「…好きだったのにな、あの髪…」

「えー、髪だけー?」

カムイの顔を覗き込んで笑うヒナタに頬を膨らませてペチンと両手で挟んで叩いた後 手を掴まれた。

 

「今日は流石にやさしーな。」

「馬鹿…」

「はっ……おめぇももう伸ばしてもいいだろ、髪。」

「…伸ばさねぇ。」

「好きだったんだ、この髪が風に揺れてるの見るの。手触り良くて、いー匂いがして、綺麗で可愛くて。愛しくて仕方なかった。」

「過去形だねー。」

「おめぇは俺の大事なお姫様。死ぬまで離れず仕えて守る。俺の心を過去の思い出なんかにすんなよなー。」

「心…」

「…だろ?」

「……うん。私も守るよ、ヒナタの家族を。どんなことがあっても。」

「おう……本当に良かったな。幸せに、なれ。」

ヒナタはカムイの手に何度かキスをして額に当てて礼をした。



 

タクミが準備を終え式場への入り口で待っているとわいわいと賑やかな声が近づいてきた。

 

「ちょっともー、何泣いてんの?」

「やー、改めて見ると、なんかもう、こう、胸が一杯でぶわーーーっと…」

「男は泣かないんでしょ?」

「こーいう時はいーんだよっ! あー、もー、娘が生まれたら俺きっと結婚相手を叩きのめす…」

「タクミを叩きのめさないでよ?」

「するかっ!」

「あー、目を擦っちゃダメだよ、今から式なんだから目が腫れちゃう。ヒナタはスズカゼさんと一緒に後ろに控えてくれるんでしょ?」

「わーってるけど、止まんねぇ…うーーーーーーーっ」

「ちょ、ちょっと、ヒナタ…何か拭くもの…」

カムイがきょろきょろしているとスッと誰かがハンカチを出してきてくれ、顔を上げるとマークスが立っていた。

 

「マークス兄さん、すいません。ほらヒナタ、顔っ。」

「うぶ…す、すいません、マークス様。」

「ヒナタよ。我が妹カムイが本当に世話になっているな。お前の事は聞いている。お前は2人の臣下。今後ともカムイの事を、よろしく、頼…うーーっ」

「マークス様っ!!」

マークスは話の途中で涙をボロボロ流して泣き始めてしまい、ラズワルドが慌ててハンカチを手に持った籠の中から出して顔に当てる。

籠の中にはハンカチが山の様に準備されていた。

ヒナタは涙を流しながらきょとんと様子を見ていた。

 

「兄は…涙もろいんです。」

「そりゃ可愛い妹の晴れ姿みりゃどんな鬼だって…うあー、綺麗だなー、まじでー…」

「ちょっと、だから泣かないでってば~…ラズワルドさん、ごめんなさい、ハンカチもう一枚…」

「はいはい。今日はいくらでもありますよ。」

カムイが気付くと側にスズカゼも静かに立って様子を見ていた。

何となく彼も微笑みながら目が潤んでいる。

 

「スズカゼ、さん?」

「カムイ様、本当にお綺麗です…おめでとうございます…私もあなた様のこんなお姿が間近で見れて、感無量です…」

「す、スズカゼさんまで…ありがとうございます。だけど泣かないで下さいね。」

「はい、私は忍。表に感情は……う…」

スズカゼまで目に手を当てて薄く泣き始めてしまいカムイがあわてているとレオンが近づいてきた。

 

「姉さん。おめでとう。」

「レオンさん。ありがとうございます。あの…」

「はは…皆嬉しいんだよ。だって僕も嬉しいもの。その姿見ると流石に涙腺緩みそうになるね。」

「レオンさんまでっ?」

「そりゃ大切な大切な姉さんの晴れ姿だから…」

そういうと目に軽く指をあてて浮いた涙を拭っていた。そ

れから白夜暗夜の王族臣下の男がとっかえひっかえカムイの元に近寄り、皆口々に綺麗だ、素敵だと言いながら涙を流していた。

その姿を離れた場所から静かに見ていたタクミは心の中で一人ごちる。

 

結婚する前もする時も、きっとその後も、僕の周りはライバルだらけなんだろうなぁ…

 



 

式が終わったその夜。

リリスにより新しく作り直されたカムイのウッドキャッスルは和洋折衷の建物となり、その側にはタクミの所にあった専用の弓道場が移動されるなど様子が変わっていた。

長い式で疲れた体を新しくキャッスルに出来た小さな専用温泉で癒して室内をジョーカーの案内でタクミと共に探検して回り寝室に戻った時には既に夜も更けていた。

戸を開けるとカムイが使っていたベッドが少し大きくなっており2人で顔を見合わせて走りベッドに飛びつく。

同時に乗ったベッドはボーンと大きく揺れ体が跳ね笑う。

 

「うわっ、凄いっ。ベッドってこんなにフワフワなんだ!!」

「あれ、タクミってベッドで寝た事ないの?」

「ないね。他国に行っても布団。」

「じゃあ布団の方が良くない? 和室に行こうか。」

「いつもはここでいいよ。まあ時々和室で寝れると嬉しいかな。」

体をポンポンと揺らし楽しそうに遊んでいるタクミを見てカムイは嬉しそうに笑う。

 

「今日はお疲れさま。」

「うん。タクミも。」

「ヒナタ、凄かったね。」

「そうね…泣いちゃって目が…」

「嬉しかったんだろ。オボロも泣いてた。」

「…そう。嬉しかったのね。」

オボロはタクミの衣装の準備の時、泣いて祝福してくれたそうだ。

詳しくは知らないがオボロもタクミを想った女性の1人。

今はカムイの大切な親友の1人だ。

 

「タクミ、素敵だったね。」

タクミの衣装もオボロが仕立てたもので、カムイと対になった様なデザインのものだった。

いつもの髪には羽や宝石などがあしらわれ鎧を来て式をしたリョウマと違い華やかな姿だった。

 

「カムイも、綺麗だった。」

「式の最中に小声で綺麗って連呼するの恥ずかしかったんだけど。」

式の最中祭司が祈りを捧げている後ろで、タクミはにこにこ笑いながらカムイに「可愛い」「綺麗」と嬉しそうに小声で連呼していたのだ。

最後にはさすがにスズカゼに「お静かに」と注意されヒナタが笑いを堪えていた。

 

「あははっ。だって綺麗で感動しちゃったんだ。」

「しちゃったじゃないでしょ。皆の前でのあの不愛想でつっけんどうなタクミはどこに行っちゃったのよ。」

「カムイの側でくらい、素で居させてくれたっていいじゃないか。」

「もー…」

コロンとカムイが仰向けに体の向きを変えるとタクミが被さってきて抱き締められる。

 

「…やっと、夫婦になった、ね。」

「うん…」

「さっきさ、ジョーカーに凄まれた。」

「えっ、何で?」

「カムイ様を泣かせたら~…って。ヒナタにも実は凄まれてる。」

「えっ?」

「ふふ…君を手に入れてもまだこれからが大変だよ。」

「ご、ごめんなさい…」

「カムイのせいじゃないよ。これから、よろしく。」

「はい。こちらこそ、よろしく。」

「負けないからね。」

「ん?」

「ヒナタには、負けないからね。」

「私も……負けない。」

タクミは満面の笑みでカムイに口づけて結婚して初めての夜を過ごした。


 

心の中のもう1人の私。今後も一緒に歩いていきましょう。この人と共に。

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