カミラにカムイを任せタクミは庭園が見える窓辺に立つ。
カムイが倒れてすぐにタクミはレオンが緊急用に白夜城に預けていた水晶玉を使いカミラへ連絡を取った。
精神的な面で少しでも落ち着かせてやりたかったからだ。
カミラは翌日には取るものも取りあえず従者と共に飛龍を駆って白夜へやってきた。
カミラの腕に抱かれ、安心した顔で泣きじゃくるカムイ。
自分の前では見せてくれない顔。
今はもう城に女姉妹であるヒノカもサクラも居ない中、男の自分とリョウマの前では不安などは見せれなかったのかもしれないが、なにも出来なかった自分の無力さに大きな溜め息をつく。
暗夜のきょうだい達は全員母親が違うと聞いた。
子供達で肩を寄せ合い、派閥や欲が渦巻く後宮で支えあって生きてきたと。
それ故か血の繋がりとはまた違う、強い絆を持っているのだという。
そういう意味では父・スメラギ王は妾をとらず母・イコナの子だけ。イコナの死後、カムイの母であるミコトを娶ったがカムイはその連れ子だと知らされた。スメラギとの間には正式に子は生されず、血のつながったきょうだいで派閥や駆け引きなどもない自分達は恵まれているのだと思う。
カムイは確かにきょうだいであり、姉であった。
白夜にあっても、きっと暗夜にあっても。
今もそれには変わりはないが、血のつながりがない事を心から望んで喜んだ自分がいる。
姉であるカムイを愛してしまった自分が。
一度気づいてしまえば、もう戻れなかった。
結果それが、カムイを苦しませる事になってしまったのは不本意ではあるが、この気持ちは誤魔化す事は出来ない。
その証となったミコトの手紙は生前託されたものだ。
カムイが白夜に帰還する前、ミコトに呼び出され手渡されたもの。
「母様、何?」
ミコトが亡くなる数か月前の天気の良い日だった。
朝議が終わった後、ミコトから呼び出されたタクミはミコトの私室に足を運んでいた。
「タクミに渡しておくものがあります。」
そう言って目の前に出してきたのは一通の封書。
表書きも何もなく、ただミコトの額飾りと同じ装飾の留め具でとめてあるものだ。
タクミは封書とミコトを交互に何度か見て首を傾げた。
「僕、に?」
「そうです。あなたに、です。良いですか、これは今後あなたが「恋に迷った時」に開きなさい。それまでは決して見てはいけません。誰の目にも触れないよう保管しておくのです。」
「それは…兄さん、達にも?」
「はい。」
「これは、何?」
「…タクミ。真実から、目を背けてはなりません。これから目の前で起こる事が、たとえ悲しく辛い事であっても、それを受け入れ、乗り越えていくのです。誰も恨んだり、妬んだりしてはいけません。あなたは皆から心より愛されているのです。それをよくよく覚えておくのですよ。」
「なに言ってるの、母上?」
「ふふ、あなたは本当に優しい子ですから、そんな心配はいらないのかもしれませんけど。いいですか、「恋に迷ったら」読むのですよ?」
「こ、「恋に迷ったら」なんて、母上…やめてよ。」
その後、白夜に帰還したカムイを一目見た時、なんとも言えない感覚が体中を走った。
幼い頃離れてしまった姉。
短かった銀色の髪は腰まで伸び、手足はしなやか、紅玉の瞳や尖った耳、肌も真珠の様な艶を持ち予想以上に美しくなっていた。
タクミは一目で姉に恋してしまっていた。
暗夜の香りやスタイルが染みついたカムイに対して警戒をしたのは間違いない。
だが心の中では…
「母様。カムイを、守って下さい。」
タクミは王家の墓所へ向かって祈りを捧げた。