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眠る時には傍にカチューシャと真珠を


 

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「カムイ様、久しぶりにお茶をお入れしましょうか。」

「…はい。」

あれからリハビリの甲斐もありカムイは言葉も時々どもるがほぼ普通通りに話せるようにまで戻り 今は歩行練習を行っている。朝のうちに練習を済ませ、午後からは湯治をしながらゆったりと過ごす時間を取って休養するサイクルになっていたがもう今週には暗夜へ帰国する事になっていた。暗夜では冬以外は殆ど気候が変わらないためいまいち実感が掴めないでいたが白夜に来てから一つ季節が変わり、今は山々が赤く染まる秋という季節になっていた。流石に冬になれば身動きがとれなるなる。その前に帰国しなくてはならない。手際よくジョーカーが紅茶を淹れカムイに差し出す。

 

「…いい香り…」

「はい。カムイ様のお好きな茶葉でございます。」

カップを口に運び一口含んで飲み込むとため息が出る。

 

「いかがでございますか?」

「はい、とても美味しいです。久しぶり、ですね…そうだ、あとヒノカ姉さん達にもお淹れして、あげて、下さいませんか?」

「畏まりました。」

カップを戻し一息つく。自分が病んでからどの位経ったのだろう。血の繋がった白夜のきょうだい達を裏切ったような形で暗夜軍につき誰も死なない道を模索しながら進んだ戦は力及ばず白夜の兄弟を失ってしまった。そしてやっと会えた母も…いつも側に居てくれた厩舎係のリリスも、そして親友となったアクアも、沢山の人を失ってしまった。変えたいと思った未来を大きく変える事は自分のこの手では出来なかった。自分の犯してしまった罪の大きさに耐え切れず、いつの日か壊れ始めてしまった事も逃げではないのかと自問自答を繰り返した。あの草原で自分を許してくれた白夜の兄弟や母、アクアに助けられ そしてレオンを始め暗夜のきょうだい達、白夜の姉妹、それこそ色んな方に助けてもらい今自分はここにいる。もう戻れないと思っていた祖国にこんな形でも滞在できた事に本当に感謝していた。きちんとケジメはつけなくてはならない。

 

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「ヒノカ姉さん。」

「おお、カムイ。顔色はよさそうだな。」

車いすに乗り執務室からレオンと共に出てきたヒノカに声をかける。

 

「どうした? お前がここまで出てくるとは珍しいな。」

「ええ、お願いがあるんです。帰国する前にお母さまが亡くなられた、白竜広場に行けませんか? タクミの体が無くなったスサノオ王朝にも…リョウマ兄さんが亡くなったあの部屋にも…」

「カムイ!?」

「レオン、ヒノカ姉さん、お願いします。連れて、行ってください。」

「…お前はそれで大丈夫なのか?」

「はい…もう帰れないと思っていた祖国に、こんな形でも帰ってこれた…私は助けてくれた、兄さん達にも、ちゃんとお礼がしたい…」

白夜の裏切り者と称されたカムイはまだ今も白夜の民から受け入れられておらず反発を受ける可能性が高い。だからこそサクラの仕切るテンジン峠や城の信頼できるものが居る場所でカムイを保護してきたのだ。

 

「…昔から戦の記録というものは自国に都合が良いように書き換えられ間違った解釈で伝えられてきた。私はそうならない様に白夜の民に本当の事を伝えていきたい。だからカムイ、教えてくれないか。お前の口から、この戦で何があったのか。こうして暗夜と白夜の架け橋となったお前が何を考えてどう動こうとしたのか。」

ヒノカはそういうとカムイの前に座り声をかける。少し迷ってレオンをみると彼は笑顔で頷いてくれた。

 

「…僕も聞きたい。いいよね。」

「はい。サクラさんにも、聞いていただきたいです。」

カムイは初めて自分の事を話した。幼い頃気づいたら暗夜で生活していた頃から戦が終わり自分が壊れるまでの事を。暗夜に連れ去られいつも優しくしてくれた兄・マークスと姉・カミラの事、マークスはぐずるカムイを馬に乗せて色んな話をし色んな事を教えてくれた。カミラは溢れる愛情で母親の様に包んでくれた。甘えん坊だったレオンと、幼い頃から太陽の様だったエリーゼの事。母が亡くなってから封印がとけた白夜の記憶の中に微かに残っていた父・スメラギの影。スメラギが倒れた直後自分と共にギリギリまで一緒にいて家臣に連れられ逃げ延びた兄・リョウマの事。やさしい母・ミコトが自分を呼ぶ声と、姉のヒノカに手を引かれ庭で遊んでいた記憶。いつもふてくされた顔で陰から自分を見ていた小さなタクミとまだ赤子だったサクラの影。暗夜で世話になったギュンターや城砦の事。城砦でどう過ごし何を考えて暮らしてきたか。戦になり自分がどう動こうとしていたのか。誰も死なない道を選ぼうとした事も。大切な人たちとの別れの時どう思っていたか。戦が終わり罪の重さに耐えきれなかった事。そしてあちらの世界で助けてくれた兄弟達の事も全て。

 

「そんな事をずっと一人で…辛かったな、カムイ…」

「姉様…」

「…いえ。話そうとしなかった私が悪いんです。あちらでタクミにも怒られたんです、ひとりで抱え過ぎだって…」

「ふ、タクミらしい…」

「あと…レオン、私がどんな状態だったのか教えていただけませんか?」

レオンは一瞬躊躇したが3人の眼差しをみて小さくため息をつき話し始める。

 

「戦争が終結して両国の即位や条約制定が落ち着いた頃から君が城砦から出なくなったのは覚えてる?」

「はい。」

「それからマークス兄さんもカミラ姉さん、私やエリーゼも国務や政務に追われてカムイに会いに行くことが出来ずにいた。マークス兄さんはそれを避けたくてカムイにクラーケンシュタイン城で生活をしながら政務などを手伝ってほしいと説得したんだがカムイはそれを受け入れようとしなかったんです。嫌だの一点張りで…思えばその頃からもうカムイが壊れ始めていたのかもしれない…」

「クラーケンシュタイン城といえば暗夜王国の主王城か?」

「はい。代々の王がクラーケンシュタイン城で王として政務をし生活してきましたがカムイが居たのは国の北側にある小さな城砦です。彼女はそこで幼い頃から監禁状態で生活してきました。僕らきょうだいが遊びに行ったり勉強を教えたりしてきたんです。マークス兄さん自身が選んだ家臣の者たちをつけて外からの色んな圧からも守ってきました。」

「そんな場所に…」

「はい。でも私は先ほどもお話ししたようにとても幸せだったんです。マークス兄さんやカミラ姉さん、レオンやエリーゼ、ジョーカーさん、フローラさん、フェリシアさん、城砦の皆さんに囲まれてとても幸せでした。」

カムイはレオンと見合いにこりと笑いあう。

 

「それまでも私達きょうだいは手紙や贈り物などは会いに行けない代わりにカムイに贈ってはいました。ですがカムイからの返事がどんどん少なくなってきていた。心配した兄が行った時には元気は無かったようでしたが「忙しいのに邪魔をしてはいけないから」とカムイは言ったそうです。その後しばらくして私が行った時にはカムイはいつの間にか城砦の世話係達に暇を出していた。1人になりたい、静かな生活がしたいと言ってスズカゼやジョーカーにとにかく城の人払いをさせたと聞きました。スズカゼ、ジョーカー、フェリシアやほんの数人の世話係のみで城砦の中は人気も活気も無くなっていた。あれだけ明るくて皆が笑っていた城砦が静まり返り暗く変わってしまっていた。その時あの状態のカムイを見つけたんです。目を見開いたまま人形みたいに無表情で既に私の事も分かりませんでした…」

「え?」

「僕を見て「誰?」って。聞かれた時には耳と目を疑ったよ…」

レオンは何とも言えない顔でカムイを見るがカムイは記憶がない。レオンは話を続ける。

 

「状態を聞くと最後にタクミ王子が持っていた弓を抱いて泣いて眠るを繰り返していたそうです。その弓はタクミ王子のご遺体を抱いて放そうとしなかったカムイが弱って眠った時にタクミ王子の代わりにと兄達が傍に置いたものでした。スズカゼやジョーカーも色々とやってくれてその弓を隠したりした事があった様ですがそれが無くなると狂った様に城砦内を走って探したと…仕方なく弓を持たしたままだったようです。タクミ王子が闇に囚われていた時の弓でしたから私も呪いの確認はしましたがそれは無かった。まるで何かに取りつかれた様な状態でしたので…カムイは食事も口に運んでも食べようとしませんでした。頬はこけて腕や体も細くなってしまっていて…直ぐに命じて城に世話係や医師を手配して治療を始めましたが暗夜ではこちらの様に医療が発達していない。1か月近くかけてスープや粥を鳥に餌をやる様に首をあげて何とか飲ませていました。薬も私が口移しで…何とかそれで血の気は戻ってきましたが回復とまではいかず結局体力を回復するのに杖に頼ったりもしていたんです。その間にも夜中に急に大声を出して狂った様にベッドでもがいたり、急に泣き出したり起き上がって徘徊したりもするので寝室には鍵をかけていました。そんな時にアクア姉さんとリョウマ王子が現れました。」

「カムイも言っていたな。」

「ゴースト…こちらでいう霊の様なものなのでしょうか。思念の塊の様な姿でしたが、表情もしっかりとわかりました。声もカムイの口から聞こえ会話も出来たんです。白夜へ連れていき治療を受けさせシグレにカムイの魂を呼び戻してもらえと…弱り切ったカムイに旅をさせるなど無理な話ですが、そこはリョウマ王子達が護ると…他に頼るものもなく賭ける事にしたんだ。」

「いつも夢の中では私がリョウマ兄さんやタクミや白夜の人たちを殺したり、お母様に私が殺されたり、アクアと相打ちになったり…とある時にリョウマ兄さんとの小さい頃が少し出てきたんです。ではそれで…」

「そうだね、そうかもしれない。ずっと馬車の中でリョウマ王子やアクア姉さんが君をみてくれていたから。これが大体の経緯だ。」

「姉様がこちらに来られた時に呪い師達が悪夢を見ているといってました。その事だったんですね。」

「リョウマ兄さんやアクアと話しながら散歩をしたりする夢を見てました…」

「なるほど…そういう事だったか。」

「彼らがカムイを護ってくれたから暗夜からこちらに来る事も出来ました。私としても彼らにお礼がしたい。出来るなら同行させて頂きたい。」

「解った。では移動しなければならない場所は手配する。ありがとうカムイ。よく話してくれたな。これから間違いを正すために私も動いて行く事を誓おう。サクラ。」

「はい。カムイ姉様、リョウマ兄様のお部屋にご案内します。」



 

レオンに車いすを押されサクラが部屋に先導して歩く。そこは王家の居住区でカムイの部屋もあった場所だ。

 

「姉様のお部屋も、まだそのままなんですよ。後見ていきますか?」

「カムイの部屋?」

「はい。カムイ姉様が子供の頃にお使いになっていたお部屋です。まだ当時のままにして残してあるんです。こちらにおられる間によかったら見て行かれて下さい。」

カムイの部屋を通過しリョウマの部屋の前に着くとサクラがゆっくりと襖をあけた。カムイは目からボロボロと涙が流れる。開け放たれた部屋には光が差し込み部屋の奥にあるリョウマの鎧を照らす。真紅に金の装飾の鎧。白に金の装飾の陣羽織。前には神器・雷神刀。その刀で自身の腹を裂き自刃したリョウマは誰よりも気高くまっすぐな優しい兄だった。幼い頃の薄い記憶の兄はいつも自分に笑いかけてくれていた様に思う。カムイが両手を伸ばし立ち上がり歩み寄ろうとするのをレオンが抱き上げ傍へ下ろしてくれた。リョウマの鎧に摺りより震える手で雷神刀が刺さった場所を撫でる。壊れてしまっていた鎧も、その血で染まった陣羽織や雷神刀も今は綺麗に修復されていたが兄が自分に未来を託して亡くなったその姿、そしてあちらで最終決戦前に見せてくれた厳しいながらも優しい顔、自分を見送ってくれたあの笑顔を思い自身の胸を抑える。

 

「兄さん…兄さん…ありがとう……」

 

リョウマの自刃した間はカムイの記憶とは既に違った場所になっていた。修復が施されて元の美しい間が続いていた。

廊下を移動している際、城の官達が隠れてコソコソと後ろ指を指したがレオンが牽制する前にサクラにキッと睨まれスゴスゴと退散していきカムイも少し驚いた。官にもすべての真実が明かされたわけではない今は仕方がない事だ。

間に着くとその場所の前に座らせてもらう。兄が自分達と対峙する時に座っていた場所の前に。静かに呼吸をしながら兄と同じ様に目を閉じる。

 

「私には力はありません。だけどきっと、白夜と暗夜がもっと理解して手を取り合っていける様に、これからは私も頑張ります。見ていてください、兄さん。」

「…僕も手伝うよ。そうなる様に頑張ろう。」

隣でレオンがカムイの背を支える。その時ふわりと兄が自分の頭に手を置いてくれたような気がした。

 

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スサノオ王朝は王都を守る砦でタクミが護っていた場所。制圧をしてタクミの身柄を保護しようとした時、タクミは紫色の炎に包まれ砦から飛び降り自害したが、その遺体を見つける事が出来ず最終決戦の時に変わり果てた姿で目の前に現れた。思えばその時に闇龍に体を乗っ取られたのだろう。

ヒノカの天馬隊の誘導で砦に到着すると出迎えがいた。タクミの臣下だったヒナタという武将だ。以前戦で戦った時よりも逞しくなったように思う。ヒナタはレオンと対峙し激戦の末レオンに軍配が上がったがカムイの命により一命をとりとめた。ヒナタはレオンの顔を見ると顔を歪めたがカムイの姿に膝をつく。

 

「カムイ様、その節は命を助けて頂き誠にありがとうございました。」

「ヒナタさん…その後いかがですか?」

「はい、お蔭様で妻も無事に赤子を産みました。」

「そうですか。良かった…おめでとうございます。」

ここでの戦いの時オボロの腹にはヒナタの子が宿っていた。両親を殺され暗夜を憎んでいたオボロは子と共に命を捨てる覚悟でいたが死闘の最中に腹を庇う素振りに気付いたカムイはオボロを庇い命を助けたのだ。

 

「ありがとうございます……ここからは俺が案内する。皆下がれ。」

ヒナタ後ろについていた兵士を下がらせ、車いすにのったカムイとレオンに向き直る。

 

「カムイ様…妻と子に関しては礼をいいます。だがあんた達はタクミ様を殺した。それだけは何があっても変えられねぇ。俺と妻の大切な主を奪った事は絶対に許さねぇ。」

「何?…カムイの慈悲をその様な言葉で踏みにじるか。」

ヒナタの言葉に流石のレオンもブリュンヒルデを持ち直し構える。

 

「やめい!」

ヒノカの声にヒナタは膝をつき、レオンの動きも止まる。

 

「もう戦は終わった。今するべきはその様な事ではない。恨み憎しみは悲しみしか生まん。ヒナタ、お前達にもまた私から話をする。よいな。レオン王子もすまん。今はおさえてくれ。」

ヒナタは膝をついたまま一礼し、レオンもため息をついて魔導書を納めた。砦の中を進み最後にタクミが居た所へ着く。タクミがその身を投げた場所へ車いすで進み風に吹かれて目を閉じる。ツンケンしながらも心根は優しかった弟。最後まで力を貸してくれた大切な家族。

 

「ヒナタさん。タクミはここは好きでしたか?」

カムイの唐突な質問にヒナタはカムイの顔をみて驚く。カムイは涙を流しながら砦から見える白夜の町を見ていた。

 

「タクミはきっとここからの景色が大好きだったのではないかと思います。この風も…きっと…」

「タクミ様は…よくお一人で考え事をしたい時にはこちらに来られてました。ここに座って町を眺めながら…何で、知って…」

「タクミは私の弟ですもの。解るんです…」

カムイは顔を歪めて泣き始める。ありがとう、タクミと声にならない声で囁きながら。その姿を見てヒナタがカムイの前を見ると、目の前に座ってタクミがカムイに笑いかけているように見え拳を握る。自分が主を無くしたのと同じ、いやそれ以上にカムイが心を痛めているのが解りヒナタの目頭も熱くなる。『武士たるもの涙は見せない』そう教えられてきたヒナタは必死で堪え一言だけカムイに声をかけた。

 

「あり、がとう、ございますっ…」

風が舞い上がりヒナタの見えたタクミの姿はその風と共に姿を消した。

 

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白竜広場には沢山の民が集まっていた。女王ヒノカがその臣下のツバキと天馬隊の官のシグレと共に広場に集まった民に語り掛ける。

 

「我が妹カムイが暗夜と白夜の戦を終わらせ、闇竜の手からこの世界を救い、そして今架け橋となろうとしてくれている。私は皆にこの戦の真実を知らせ、皆の協力を得たい。」

ヒノカは皆に兄や母が行った様に語り掛ける。カムイがどのように考え動いて来たか。母や兄弟の死の真相も。民は最初はカムイに対しての罵倒をしていたが話が進むにつれ皆静かにヒノカの話を聞いていた。

 

「私は今後、両国の為に暗夜王国と手を取り合っていこうと考えている。皆の考えを聞きたい。」

ヒノカの話が終わると広場は静まり返るがどこともなく「白夜王国万歳」と声がかかりそれは大きく広がっていく。

 

「…白夜の人間は本当に人が良い…でもお陰で君が助かったんだけど…」

「これが白夜王国です。きっと暗夜もこう、なっていきますよ。兄さん達と頑張りましょう。」

広場近くの建物から様子を見ていたレオンがため息をつきながら言うとカムイはレオンの手を取って笑顔で答えた。

 

「白夜王国万歳」

「ヒノカ様万歳」

「カムイ様万歳」

 

民の声は大きな波となり白夜に響き渡った。



 

その日の夜、静まり返った白竜広場にレオンとカムイ、シグレの姿があった。母が自分を庇い亡くなった場所。初めて自分が龍に転じて暴れた場所。

 

「アクアが居なければ、私は竜の、姿から戻れなかった。本当にアクアのお陰。でも最後の決戦が、終わった後、アクアは居なくなってしまった…命を…」

カムイは竜石を握りしめ話す。

 

「母は幸せでした。白夜でもミコト様に愛され大切にされ他の皆さんと分け隔てなく接して下さった事にとても感謝していました。行方が分からなくなった父ともお互いに愛し合っていたと思います。」

「ソレイユさんは…どうされていますか?」

「ソレイユは戦後一人で旅に出ました。時々ですが手紙をくれます。今は傭兵団を結成したとか…相変わらず元気でいますよ。気が向いたら帰ってくるでしょう。カムイ様、母は何よりもあなたの事を気にかけておりました。今度こそお幸せにおなり下さい。ミコト様も何よりもそれをお望みでしょう。私も知らせを楽しみにしております。」

カムイは母の名が刻まれた新しい白竜の像を見る。民から『ミコト竜』と呼ばれているらしいその顔は慈愛に満ちた表情だった。カムイは目を閉じ竜石を握りしめ静かに祈った。

 

今、母や兄弟は王墓に眠っている。王墓は城の裏手にある山の洞窟を利用した神殿に作られておりそこには歴代の王族が眠っているという。レオンは他国の人間でありながらヒノカの特別な厚意でカムイと共に王墓に入り2人で静かに祈りを済ませた。

 

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夜も更けた静かな時間にカムイとレオンは部屋に戻った。ここ数日でカムイの望んだ場所を全て回り今日で最後の白竜広場へも行けた。後は暗夜へ帰る為の準備に取り掛かるだけだ。

 

「お疲れでございましょう。今宵はカモミールのお茶に致しました。」

ジョーカーは湯あみが終わり椅子に座ったカムイの目の前にカップを置く。カモミールはストレスや疲れを癒しその香りは安眠を誘うという。ジョーカーなりの優しさなのだろう。

 

「ありがとうございます。頂きます。」

カムイは金色のお茶の香りをゆっくりと楽しみ口に含む。鼻に抜けるリンゴの様な香りが疲れた体に沁みる。

 

「おいしい…」

「ようございました。」

ジョーカーは優しくほほ笑みレオンのお茶の準備を始める。彼は小さい頃から自分について来てくれた。今回の事もきっと彼にも苦労を掛けたのだろう。

 

「ジョーカーさん…ご迷惑をおかけしました。本当にありがとう。」

カムイがジョーカーに頭を下げるとジョーカーは少し驚いた顔をしたがすぐにふっと笑顔に戻る。

 

「私の主はあなたのみ。どんな時もお側におります。」

「…はい。本当に感謝しています。子供の頃から助けられてます。」

「…本当にあなたは昔から変わりません。透き通った心をお持ちだ。助けられたのは私の方なのですよ…」

「え?」

ジョーカーの声と顔が少し変わった様に見えたがカムイは様子に気付かない。ジョーカーは普段の笑顔に戻る。

 

「…レオン様が湯あみから戻られます。お茶はこちらにご準備しておりますので、私は下がらせていただきますね。」

「あ、ありがとうございました。遅くまでごめんなさい。」

「いえ。では失礼致します。」

ジョーカーは一礼して部屋を後にする。その後自室に戻る途中で彼が廊下に座り込んで悶絶したのは月しか知らない。


 

レオンが離れの風呂から出てきた時には部屋にはカムイしかいなかった。ふわりと香るハーブの香りに気持ちが安らぐ。

 

「カモミール…だね。僕も欲しいな。」

「はい。ジョーカーさんが用意してくれました。どうぞ。」

レオンは椅子に座り香りを楽しんで口に運ぶ。

 

「久しぶりだ…美味しい。まあ白夜のお茶も奥が深いけどね。3煎までいけて最後の1滴のあの旨みまで落とし切って頂くっていう作法はなかなかのものだと思うよ。」

「紅茶とは違いますものね。でもレオンはこちらの、お茶も好きでしたよね。」

「好きだね。優雅に嗜むという意味ではこちらも変わらない。」

「ふふ、らしいですね。」

「……」

レオンは席から立つとカムイを抱きかかえて寝室に向かい布団に寝かせ ぎゅうと抱き着く。その仕草にはカムイは覚えがあった。幼い頃眠れないと泣いて城砦に来た夜にレオンは必ずカムイに抱き着いて眠っていた その仕草に似ている。そっとレオンの頭を撫でてやると顔を胸に埋める様に甘えてくる。小さくて女の子の様な顔をしたかわいい弟は自分よりも背が伸びて沢山の女性が振り向く素敵な青年になった。美麗聡明な彼にはもっと似合う女性もいたかもしれない。血が繋がっていなくても大切な家族できょうだいだった彼がその相手に選んだのはカムイだった。常に側にいて自分を見続けてくれ支えてくれた彼の愛情に気付いたのはついこの前だったが…

 

「僕の側に居て、カムイ…離れないでほしい。愛してるんだ…帰ろう、暗夜の城砦へ。」

「どうしました?」

「ここへ、残りたい?」

レオンはカムイと共にこちらに来て過ごすうちに白夜の生活の方がカムイに合っているのかもと思う様になっていた。白夜はカムイの祖国、合うのは当たり前だがきょうだいに大切にされている様子や再開して間もなかったが少しの時間で心を通じ合わす事の出来ていたリョウマやタクミ達との信頼関係を見た。カムイは幼い頃から暗夜で育ち自分達きょうだいもカムイをとても大切にしてきたが、血の繋がりという絆は欲しても白夜のきょうだいには敵わない。カムイが白夜に残りたいと思っているのではとらしくない不安を感じていた。

 

「ここは君の祖国だ…だから…」

「…残ってよいのですか?」

カムイのその言葉にレオンはばっと体を放し首を振る。

 

「嫌だ! …嫌だよ、姉さん…」

「あなたが、選んでくれたのは、私ではないのですか?」

「そうだよ…子供の頃からずっと姉さんは僕のものだ…」

「ふふ、そう言ってくれてましたね…本当にずっと…」

「姉さんの真珠色の髪も、白い肌も、真紅の目も、全て、僕のものだ…」

「…それなら問題ないですよね?」

レオンは心から本当に不安になっているのに何故か余裕でそう言いへらりと笑うカムイに少しムッとしながらも、幼い頃からこんなカムイに自分は助けられていた事を改めて思う。カムイはそう言いながらもレオンの腕に手を置いてポフポフとなだめるように叩いている。

 

「…僕は本気で心配したんだけど…?」

「解ってます。」

「姉さん…はあ…本当に?」

「さっきから元の呼び、方に戻ってますよ、姉さんって?」

「あ…あーーーー、もうーーーーっ…」

レオンは顔を赤くしてカムイに被さり盛大なため息をついた。

 

「2人きりだと調子が狂うよ…」

「そういう所が、レオンらしくて、私は好きですけどね。」

「~~っ…誘ってる訳?」

「どうでしょう?」

ふにゃっと笑うカムイに口づけを落とし耳元で囁く。

 

「カムイ、結婚してほしい。ずっと僕と一緒に居て。」

カムイはレオンの体に巻き付ける腕の強さで返事をし それに応える。レオンは首に下げたペンダントからトップを外してカムイの指に通す。シンプルな指輪にはルビーが埋め込まれていた。

 

「綺麗…これどうしたんですか?」

「本当はカムイに会いに行った時にプロポーズするつもりだったんだけど、こんな事になってしまって渡せずに居たんだ。受け取ってくれるよね?」

「はい。喜んで。」

カムイは嬉しそうに頬を染め指輪を見てはそれにキスをして笑う。

 

「僕にもお願い。」

「病める時も、健やかなる時も…一緒に居て、くれて、ありがとう。」

「こちらこそ。これからもよろしく。」

カムイがレオンに同じ指輪を通し額を合わせて目を閉じる。

 

「君に」

「あなたに」

「「神の祝福がありますように。」」


 

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寝室の灯りは枕元の行灯というランプの様なもののみの薄暗い中 白い肌が浮かぶ。少し汗ばんだその肌にはところどころピンク色の花が咲き乱れている。とぎれとぎれの吐息と衣擦れの音が静かな部屋に響いていた。少し苦痛に歪んだその顔に口づけると赤い瞳がトロリと開き自分を見つめ笑いかける。頭の中の何かがぷつりと切れゆっくりと動き始めるとその片手は自分の腕に絡める様にして、もう片方はそのふっくらした唇を隠す。唇を隠した手を摑まえ自分の指を絡めると握り返してくる。その仕草が愛しくて夢中になって動いた。何度も名前を呟いて。

 

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カムイが目を開けるとレオンが風呂から湯を取ってきて体を拭いてくれていた。体はまだ熱く気怠いが頭の中はふわふわした状態で惚けてしまっている。レオンに体を拭かれているだけなのに触られる所がまた熱を持っていき我慢できずに体が震えてしまう。

 

「…流石にもう駄目だよ。体がまだ本調子じゃないんだから。」

「言ってる、事と、やって、る、事が、違いますっ…」

「…ごめん、我慢できなかった…」

そう言いながら少し顔を赤らめて目を逸らすがすぐにカムイの方を向いてにこーっと満面の笑みで笑う。

 

「嬉しくて、さ。すっごく。」

最近はきょうだいの間でもこんな笑顔で笑う事はないだろう。他の人の前では冷淡な態度を取りいつでも冷静で表情を崩さないレオンのこんな気の抜けた顔をみたのは流石のカムイも久しぶりでこちらの顔も赤くなる。

 

「ず、るい…」

「狡くてもいいよ。何とでも言って。」

「もういいで、す。自分で、拭き、ます。」

「いいから、このままで居て。それに…僕は言ったはずだけど? 仕返しに何をやられても文句を言う権利はないって…」

「~~~…指輪返そう、かな…」

「あ、残念だけどそれは無理だね。取れない様にしちゃってるから。」

レオンがカムイの指輪を指ですいと撫でると指輪から小さな魔法陣が浮き出る。

 

「えっ!? 魔法具??」

「僕を誰だと思ってるの? 甘いよ。今後もこんな事にならないようにキチンと管理しなくてはね。僕のと繋がってるからマジックビジョンも可能。それに戦術の勉学中に教えたはずだ。パターンは沢山読んで頭の中でシュミレーションすべきだってね。」

「…レオンの恋人が、普通の方だったら、こんな事、したら引かれますよ…?」

「姉さん以外は興味ない。僕は愛人も作らないから安心して。僕を本当に負かせたければもっと策を講じてくることだね、姉さん?」

「ほら、また姉さんって。」

「君の前だけでは調子が狂うものだと納得した。ほらもういいから体拭かせて、風邪ひくよ。」

白夜の静かな夜に笑い声が響いた。

 

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白夜を発つ朝、姉のヒノカから小さな箱を渡された。リョウマがきょうだいにその絆の証として渡していた指輪でカムイのものも準備していたらしい。受け取った箱を見てみると白夜の紋章が入った指輪が光っていた。

 

「お前はこれから先も私たちの大切なきょうだいだ。それを忘れないようにな。」

「姉様、私も。時々はこちらにもいらしてください。私は後程テンジン砦でお待ちしておりますね。」

「はい。お手紙、書きます。本当にありがとうございました。」

「途中まで送ろう。サクラ、行くぞ。」

「はい。」

ヒノカが用意していた自分の天馬にサクラと共に乗り飛び立つとヒノカの後ろからシグレの率いる沢山の天馬が一斉に飛び立つ。

 

「カムイ様~。お幸せに~。」

ツバキが近くに寄ってきていつもの柔らかい笑顔で挨拶をしてきた。その前には小さな女の子が乗っておりカムイにお辞儀をしてきた。

 

「ツバキさん!! あ、娘さんですか!?」

「はい~、マトイと言います~。ほらマトイ、ご挨拶。」

「カムイさま、はじめまして。聖天馬武者ツバキの娘、マトイです。」

「はじめまして、マトイさん。しっかりされていますね。先が楽しみです。」

ツバキはにこりと笑い一礼して天馬を飛び立たせる。シラサギ城の門が門番の掛け声と共に開くと前から一斉に掛け声が上がる。その様子に馬車の隣で自分の馬に乗っているレオンも驚いた様子で目を丸くする。門の前には白夜の国民が待ち構えておりカムイ達を見送りに来ていた。カムイ達の馬車がゆっくりと進み始めるとその歓声が一気に大きくなる。

 

「カムイ様万歳」

「カムイ様―!!」

「お元気で、カムイ様!」

「お幸せに!」

民は口々にカムイ達に声をかける。カムイは馬車からその様子を見て驚いていたがレオンと目が合いレオンが笑顔で頷くと身を乗り出して手を振る。

 

「ありがとうございます。私もこれから頑張ります。皆さんと一緒に!!」

民のその列は王都から出るまで続いていた。

 

王都から出てスサノオ王朝の前で天馬隊と別れた。天馬隊の面々は空で大きく弧を描いてカムイに各々手を振って王城へ帰還していく。カムイ達もそれに応えて手を振った。スサノオ王朝の門をくぐる時、ヒナタとその妻オボロの姿が見え、その子供であろう小さな男の子がヒナタの肩にのされ手を振っていた。

 

「ヒナタさん、オボロさん、ありがとうございました。お子さんもお元気そうで安心しました。」

「カムイ様、本当にこちらこそ、ありがとうございました。」

オボロは深々と頭を下げてカムイに礼を言う。レオンが寄ってきて馬上から子の頭に手を置き軽く撫でる。

 

「君の父上は誇り高い白夜の立派な武士だ。君もそれに習い愛されて強くおなり。君に祝福がありますように。」

「…あいっ!」

最初はきょとんとしていたが自分の父を褒めている事は解ったらしく満面の笑みでレオンに答えると、レオンもやさしく笑い返す。ヒナタはそれを見ていたが大きなため息を一つついてレオンを見直す。

 

「何だい?…この子に罪はない。この子に言ったんだ。」

「…わーってますよ。あんたも子にそんな態度とるんだなってな…ま、礼を言っときます。ありがとうございました…」

「す、すみません。レオン王子…あと主人には…」

「いや、いい。オボロと言ったね。無事に子が生れてよかった。カムイもとても心配していたから安心したよ。」

「れおんさま、おうまさんなでてもいいですか?」

「いいよ。」

「ほら、時間がないんだ。また撫でさせて頂こうな。では、どうぞお通り下さい。道中気を付けて。」

ヒナタが隊列を促しまたゆっくりと馬車は動き始める。カムイは馬車から顔を出しレオンも軽く振り向いて手を振る。ヒナタ達もカムイ達の姿が見えなくなるまで見送ってくれていた。その日はテンジン砦に一泊して翌日港に向かい暗夜国へ帰国した。港ではスズカゼ夫妻とその娘ミドリコ、エリーゼ達が待っていた。

 

「お姉ちゃん!!」

「エリーゼさん!!」

レオンに抱かれて船から降りてくると真っ先にエリーゼが走って来た。抱き着こうとしたがレオンに避けられる。

 

「レオンお兄ちゃん~!!」

「カムイはまだ体調が戻っていないんだ。勢いで抱き着くのは禁止。」

「エリーゼさん、お元気そうで安心しました。」

「カムイお姉ちゃんも。あたしもすごく嬉しい。皆待ってるよ!」

挨拶のキスをして向き直るとスズカゼ一家が笑顔で近づいてきて膝をつく。

 

「カムイ様、ご無事のご帰還何よりでございます。」

「スズカゼさん、本当にお世話になりました。ずっと白夜との連絡を取って下さりありがとうございました。」

「いいえ、私はあなた様の臣下。当然の事です。」

「ベルカさん、お世話になりました。ありがとう。」

「いえ。カムイ様が居られないとカミラ様が悲しまれるから。」

「カムイ様! ミドリコね、元気になれるおくすりを作ったの! ちゃんと飲みやすいものだから後で飲んでね!」

「はい、ミドリコさん。ありがとう。あと頂きますね。」

「レオン様。マークス様より、とりあえず一度クラーケンシュタイン城へとの事ですが。」

「いや、カムイは城砦へ戻しゆっくりと休ませリハビリをさせてやりたい。私も共に居るつもりだ、そう伝えてくれ。」

「畏まりました。ではカムイ様、失礼致します。」

そういうとスズカゼは姿を消す。

「では、私も任務に戻る。失礼します。ミドリコ。」

「カムイ様、おくすりはちゃんと預けてあるから、きちんと飲んでね。じゃあまた!!」

ベルカはミドリコを載せて飛龍を駆り飛び去って行った。ミドリコの置いていった薬は薬湯でものすごい色をしていたが、見た目ほど口当たりが悪くなくきちんと飲むことが出来た。

 

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城砦が見えた時には暗夜での昼。白夜を発って数日後だった。久しぶりの自分の城にカムイは馬車から顔を出して喜び、レオンもその姿を見ながら笑顔になる。ゆっくりと城砦の門が開けられると世話係や兵士達が出迎えてくれた。

皆元はこの城砦にいた面々でカムイを幼い頃から知っている者も沢山いる。カムイから暇を出されてはいたがいつ復帰しても良いようにと皆待ってくれていた様だ。レオンからの要請でマークスが手配をした時もすぐに人員は集まった。レオンが馬車からカムイを連れて降りると皆カムイに寄り泣き笑いしながら喜びあった。カムイも頭を撫でられたりしてくしゃくしゃになりながら笑う。

 

「心配させて、この姫様は!! 全く困った子だよ!!」

「あんたは俺らの太陽だ。元気で居てくれなきゃ困るよ!」

「心配させやがってー!!」

王族に対して何て言葉使いだと普通なら許されないがカムイの城砦の面々は昔から違っていた。皆がカムイを愛し共に生活してきた家族の様なものだ。もちろん幼い頃からしょっちゅう来ていたレオンに対しても皆遠慮がない。

 

「おや、ちょっと見ない間にしっかりした顔になったじゃないか。」

「ひょろい王子だったがなぁ。カムイ様に認められる男になったか?」

「マークス兄さんと一緒にしないでくれないか…分野が違うんだからさ。」

「それにしても相変わらず素敵よねぇ。」

「そんなことはいいから、早く荷物下ろしてくれないか?」

皆口々にレオンをからかう。いつもならレオンもシレッと返すのだがこの面々だと素が出る。

 

「おっ? なんだ指輪してるじゃねぇか。何時の間にご結婚なさったんだ?」

「何だって? ほんとだよ!! まあ何にも連絡がないだなんて、水臭いじゃないか!!」

「きゃぁああ、ショック!!! でも嬉しい!!」

「こうしちゃいられない。準備だよ。皆お祝いの準備だ!!」

「ちょっ、ちょっと、帰って来たばかりだから、とにかく今日はカムイをゆっくりさせてやってくれないか?」

「何言ってるんだよ!! ご結婚なさったなら準備しなくちゃ。お部屋のご準備を!!」

「…カムイ、笑ってないで止めてよ。」

「皆さんがそう言ってくださっているならお言葉に甘えましょう?」

「ジョーカー…どうするんだこれ。」

「カムイ様がよろしければ私も異存はございません。お諦め下さい。」

ジョーカーもテキパキと荷物を下ろしてさっさとメイド達に指示をして準備を始める。

 

「やっぱりクラーケンシュタイン城へ行くべきだったかな。」

「兄さん達は大好きですが、私があちらは嫌です。」

「だよね。僕もだ。」

笑いながらカムイを車いすに座らせ軽く口づけると周りのメイド達から悲鳴があがる。レオンは知らん顔で話を続ける。

 

「僕もこっちに来ていい? 政務は通うよ。」

「小さい頃からほとんど帰る気はなかったじゃないですか。」

「ふふ、うん。幼い頃から色んな事があって色々変わって行ったけど、ここのこの場所だけは変わらない。僕はここが大好きだよ。」

そういうと額をコツンと合わせ悲鳴を上げているメイド達に向き直る。

 

「皆、クラーケンシュタイン城から僕の荷物をこちらへ運ぶように手配してくれ。部屋はカムイと一緒でいい。後、お茶が飲みたいな。」

「「「「はぁ~~~い、今すぐに~~~♡」」」」

満面の笑みでメイド達に言うとメイド達は顔を真っ赤に染めて甘い声で返事をして準備に向かう。

 

「やっぱり破壊力は半端ないですね、レオン…」

「これも戦略。」

レオンはにやりと笑いカムイの車いすを圧してエントランスに入っていった。

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