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邪竜ハイドラとの決戦から1年。

透魔国が改めて国として立ちカムイが王となって数ヶ月が経った。

白夜暗夜両国からの支援を得ながら復興しているこの国ではハイドラが統治をしていた時に他国へ逃げ出した貴族達が戻り、地下に逃げ込んでいた民達も地上に出てき始めた為、早急に政権の確保を含めカムイの周りを固める者達を選出しなくてはならなくなった。

逃げ出した貴族達は兄達の采配により国を守ろうとせず財宝などを持ち出した罪により政治の権力等ははく奪されているものの、まだ若いカムイ達に対しては色々と風当たりが強く口出しをしてくる者も多い。

厄介な事になる前にこちらが動き、政治が不慣れなカムイ達の為に両国から兄達が直々に選出した信のおける者達と共に決めた人事を 今日 朝議の時に発表する。

 

「カムイ、落ち着きなさい。」

自室で室内をウロウロ歩き回りながら手元の人事に関する書類を食い入る様に見ているカムイにアクアが声をかける。

 

「でも間違えない様にちゃんと覚えておかないと。」

「覚えるって、なにを?」

「大切な人事発表ですから、一語一句きちんと覚えておかないと旧諸侯に何を言われるか。今は大事な時ですから遅れをとらない様にしておけと兄さん達からも言われてますから。」

アクアは透魔の正当な王家の血を引く姫。

カムイは透魔竜ハイドラの良心・神竜の血を直接引く姫。

そして2人の母は姉妹。

どちらが王となってもおかしくないが、国が崩壊している時には落ち延びていて貴族や民達もその存在を知らずにいただけに納得して貰うには時間がかかる。

認めてもらうには国をまとめ安定した世にすること以外ないのだ。

故に王であるカムイにはそれなりの威厳も求められる。

皆の前で話す時には特に自分が王である事を示さなくてはならないため肩に力が入るのにも無理はない。

 

「あなた全部覚えるつもりなの?」

「もちろんですよ。兄さん達は何も見ずに堂々と人事の発表をされていましたもの!あれこそ王ですよね。私も頑張らなくちゃ!」

鼻息荒くカムイはアクアに力説するがアクアは溜息をついて静かに話す。

 

「確かに何も見ずに言えるのならそれが一番良いけど、大切な事なのだから資料を見ながら話しても良いのよ?」

「え?」

「どこの国の王だって大切な事を発表する時は資料を見ながら話すわ。リョウマやマークスだってそう。彼らが見ずに話せるのはまた特殊なパターンよ。」

「見ていいのっ⁉︎」

カムイは目を丸くして素っ頓狂な声で問くがアクアは静かにコクリと頷く。

しばらく呆然としていたカムイは書類をポーイと投げ出してソファに傾れ込む様に座った。

朝議が始まり人事発表の時が迫る中、少し高い場所にある玉座に座りカムイは落ち着かないでいた。

心臓の音が妙に響き何度も小さく深呼吸をする。

だが時間は無常に過ぎ ついにその時を迎えた。

議長の文官が促しカムイが書類を持って立ち上がろうとすると広間に風が吹き始め天井に近い場所に円形の穴が開く。

広間に居た官や貴族達は慌て騒然となるが その穴からは見慣れた青年が姿を現した。

 

「皆、静まれ!」

声をかけながらゆっくりとカムイの近くに降り立ち微笑んで歩み寄ってきたのは白夜第二王子タクミ。

風神弓を回し風を止めて穴を塞ぐ。

 

「タクミ…?」

「やあ姉さん。久方ぶり。」

タクミがカムイの横に立つと今度は逆側の空間が開く。

 

「これしきの事で慌てるなんて 先が思いやられるね。皆 席に戻れ。」

憎まれ口を叩き上から見下ろすような目線で優雅に歩いてきたのは暗夜第二王子レオン。

 

「レオン。」

「カムイ姉さん、元気そうで安心したよ。」

2人はカムイの玉座の両脇に立ちよく通る声で話し始めた。

 

「白夜暗夜両国より使者として参った。この人事は白夜、暗夜、透魔の王の名のもとに厳正に選出された者だと証明する。」

「そこな白夜王国第二王子タクミと私 暗夜王国第二王子レオンがこの儀を見分させてもらう。」

レオンは話しながらカムイから書類を取って広げる。

 

「え…」

「カムイ姉さんはそのまま。堂々と前を向いて座ってて。」

「でも…」

「僕らが今日来たのは官や貴族達の反発を防ぐ為と牽制の意味もあるんだ。言う通りに。」

カムイは弟達に言われた通り 前を向いてまっすぐ広間を見る。

力強いカムイの視線に官や貴族たちは圧倒されていた。

 

「この国で王家の血を受け継ぐものは2名。透魔国王はカムイ女王とし、透魔国王補佐及び大臣、側近はアクアとする。」

アクアは静かに席を立つ。

 

「皆も知っての通り、カムイ女王は国の守護神であった神龍の血を直接ひき、アクアは国王の子。どちらが王になってもおかしくはない。ま、中には女王は狂った竜の血をひいているだのなんだの文句を言っている輩も居るようだが、その為に我らが居る。この国を救ったのは誰なのか貴公らは十分解っている筈だ。今後は色々と気を付ける様に…透魔国忍軍長スズカゼ。」

スズカゼが狐の面を被りその臣下達と共に広間中に姿を現し静かにレオンとタクミは広間を見渡す。

 

「今後は透魔国軍の一環を担う軍として白夜の忍軍をこちらにも配置する事になった。この国には忍が居る事を忘れるな。」

冷ややかに微笑むレオンの顔と表情も変えずに威圧感を醸し出しているタクミに広間にいる全員が凍り付く。

暗夜国第二王子レオンの知将ぶりと冷酷さは各国に轟き、白夜国第二王子タクミも知将と評され その落ち着いた采配はレオンと並ぶ。

この2人を義理の弟として持つカムイとアクアには改めて畏怖の視線が注がれた。

 

「続いて透魔国軍騎士団長サイラス。」

入口近くに警備で立っていたサイラスが剣を掲げて足を鳴らす。

 

「王親衛隊 隊長ラズワルド、オーディン、ルーナ。」

3人はサイラスの少し後ろで剣と魔導書を掲げて足を鳴らす。

 

「彼らと忍軍長スズカゼが王の親衛隊となる。若いとはいえ国の誇る手練れ達だ。皆 頼むぞ。」

「はっ!!」

サイラス達は敬礼し、スズカゼは膝をついて頭を垂れ、その臣下達は一礼してその場から姿を消す。

彼らの顔をカムイは見るが各々「大丈夫」といった顔で微笑んでくれほっとする。

 

「続き官と諸侯を任命する…」

官や諸侯は国を捨てずに残った忠臣達を軸に白夜暗夜の両国から選出された者が任命され、人事の儀は無事に終わりを告げた。

無事に朝議と人事発表が終わり直属の臣下達と共に別室に下がる。

部屋に入りドアを閉めた途端にカムイはその場に座り込んでしまった。

 

「カムイっ!?」

「カムイ様、お疲れさまでした。」

「あ、はは…安心して力が…」

すぐにサイラスとスズカゼが走り寄り声をかけるとカムイはへにゃりと眉根を下げて微笑む。

2人に抱えてもらって椅子につくと机に温かいタオルとキャンディーが置かれた。

 

「ありがとうございます。ジョーカー。」

「お疲れ様です。この度、私とフェリシアも執事長とメイド長を仰せつかりました。今後ともよろしくお願い申し上げます。」

「こらちこそ。よろしくお願いします。」

「直ぐにお茶をお淹れ致します。それまでキャンディーとタオルを。」

「ありがとうございます。」

カムイは温かいタオルで手を拭いて顔に当て 柔らかな温かさにほっとしてため息をつく。

 

「なーに、もう疲れたの?」

ルーナがカムイの顔を覗き込んでキャンディーを1つ自分の口に放り込む。

 

「なかなか慣れないものですね。」

「ま、そんなカムイ様を守るのが私たちの役目だけどね。感謝しなさいよ。カミラ様に言われて仕方なく来てやってるんだから。」

「はい。ありがとうございます。でも、良かったんですか、元の世界に戻らなくて…」

「カムイ様のお父上の願いですし、約束ですからね。」

「マークス様やレオン様からも命を受けてここに居ます。この国が落ち着いたら、またその時に考えますよ。とういかオーディンはアクア様と離れるのが嫌なんだよね?」

「な、なんで今それが関係あるんだよっ?」

オーディンとアクアは恋仲だ。

戦時中は今後の事もありプロポーズ出来ずにいた様だが先日それも無事果たしたらしい。

幸せそうに微笑むアクアを見てカムイも心が温まった。

 

「お式はもうすぐですね。楽しみにしてますから。」

「だっらしないわねー。鼻の下伸ばしちゃって。」

「お前らだってリア充オーラ出しまくってて人の事言えんだろ!!」

「ルーナ、あんまり煽ると、は、恥ずかしいからもうやめようよ。」

にやにやと笑いながら煽るルーナをラズワルドが止める。

ラズワルドとルーナは戦後すぐに結婚していた。

3人の様子をにこやかに眺めながらキャンディーを口に入れているとタクミとレオンがサイラスとスズカゼに何やら指示を出していた。

流石に弟達が揃うとやる事が早い。

直ぐにサイラスとスズカゼが近づいてきた。

 

「カムイ。騎馬隊として攻撃にも回復にも秀でた空のものを編成したい。あの機動力は騎馬隊としては欲しい所だ。天馬・聖天馬・飛龍を。両国王に話を通してくれるか?」

「カムイ様。忍軍としても諸侯などの監視を任されました。つきましては人数の補充をお願いしたく。私の方からも兄に書状を出しておきます。」

「わかりました。私も後書状を…」

「姉さん、その必要はないよ。」

「へ?」

「何のためにレオンが来てると思ってるんだよ。」

タクミがそういうとレオンが何やら呪文を唱えてマジックビジョンを出現させる。

ビジョンには両国王が映し出された。

 

「おお、カムイ。久しいな。」

「カムイ。元気そうで安心した。」

「リョウマ兄さん、マークス兄さん…お久しぶりです!!」

「うむ。タクミ達はちゃんと役目を果たしたか?」

「レオンは寝坊したのだがちゃんとついただろうか? 法衣が裏返しになってなかったか?」

「兄さん、余計な事は言わないで。」

「タクミはお前に会えなくてとても寂しがっていた。そちらに行くことが決まって昨晩は眠れなかったようだからな。」

「寂しがってないし! 子供みたく言わないでよ!」

長兄2人のステレオ放送と弟2人の絶妙な突っ込みでカムイは目をしばしばしながら圧倒されていると同時に言葉を発した長兄が言い合いを始めた。

 

「「で、今後の事だが…」」

「マークス王子、俺が先に話をしてもよかろうか?」

「ちょっと待て。私が先に話をさせてもらおう。」

「火急な用事なのはお互い様だろう。」

「お互い様だが私の方が火急なのでな。で、カムイ…」

「待て! 俺が先だ。カムイ、軍の…」

「私が話しているのにどうして横やりを入れて…!!」

「何を!? お主が割り込んで…!!!」

「あ、あの、兄さんたち…」

俺が先だと言い合いを始めた長兄2人を宥めようとオロオロしていると室内に大きな音が響き渡り一気に場が静まる。

目をやるとアクアが仁王立ちになって槍の石突を石床に叩きつけていた。

ゆらりと殺気を放ったアクアが静かに話す。

 

「国王が何をやっているの。これは一応正式な会談。けじめをつけなさい。」

アクアの殺気に長兄達はドン引いてこくこくと頷き改めて座り直して口を開こうとした時乱入者が現れた。

 

「ぶっ!?」

「カムイ!! ああ、元気してた? ちゃんと眠れてる? お姉ちゃんあなたに会えなくて寂しくて…」

カミラが横からマークスを圧し避けてビジョンを覗いてくるが胸で顔を圧迫されてジタバタしていた。

 

「まあ嫌だわ お兄様! 女性の胸の谷間に顔を入れ込むだなんて、紳士のすることではなくてよ?」

「ぶはっ!!! お、お前がいきなり横から来るから…」

「おねーちゃーーーーん!!!」

「ぐあっ!!」

「きゃあ! マークスお兄ちゃん、ごめんーーーっ!!!」

今度はエリーゼが飛び込んできてマークスはふっ飛ばされ豪快にガッチャーンという椅子とマークスが床に倒れる音が響き渡った。

 

「カムイ? おお、カムイ! サクラ、カムイが映っているぞ!」

「え!? ね、姉さま、ご機嫌いかがですか? あ、あの、やっほー…」

今度はリョウマの頭の上からひょこりとヒノカが覗き嬉しそうにサクラを呼ぶ。

サクラもリョウマの前にひょいと顔を覗かせて恥ずかしそうに手を振っていた。

リョウマはやれやれと言った顔で腕組して目を閉じている。

 

「カムイ。寂しくない? 寂しくなったら言うのよ。お姉ちゃんがすぐに行ってあげるから。」

「不自由はしていないか? 何か入用なものや困った事があれば直ぐに言うんだぞ。」

「ね、姉さま。医療の関係などの物資は足りていますか? 見たところそちらにはまだそういう施設も少ないみたいですし、早めに充実を…」

「サクラの手伝いは私がするよ。だからカムイお姉ちゃん気軽に言ってね。私達が動くから!」

「ありがとうございます。えと、とりあえずまず軍の確立を急ぎたいと思いますので兄さん達 よろしいですか?」

両国のきょうだい達の勢いにまたも圧されて苦笑いしながら会談を進めた。

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