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君が僕にくれたように
僕の全てを君に

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日も暮れたマイキャッスル。
その日の軍議もすべて終わり、各々自室でのんびりしている時間。
タクミは椅子に座りジョーカーに出された暖かい緑茶を眺めながら、眉間にしわを寄せて小さなため息をつく。
昼間のレオンとの会話が心に引っかかっていた。

「顔色が優れないようにお見受けしますが、いかがなされました?」
ジョーカーに声をかけられ顔をあげる。

「え、ああ…いや、なんでも。」
「…そうでございますか。ではカムイ様にご心配をおかけになりませんよう顔色を戻していただけませんでしょうか? あの方はお優しいお方ですから、きっとタクミ様がそのような顔をされていたらすぐに気づいて心配されます。 あの方を心配させたり泣かせたりしたら私が容赦いたしませんのでお覚悟くださいと、ご夫婦になられる際にお願いした筈でございますが。」
ジョーカーはにっこり笑って悪態をつきながら壁の振り子時計をみやり、後15分内には戻ってくるだろうと確認する。
カムイは今温泉に行っていて、大体いつも1時間くらいで戻ってくるからだ。

「あんたがカムイ一筋だってのはわかるけど、本当に僕には優しくないよね…」
そう言いながらタクミは緑茶を口にする。緑茶の甘みと香りがよく出たとても美味い茶だ。
暗夜出身でありながら白夜の茶の淹れ方も完璧なジョーカーは改めてすごいと思う。

「はい。あの方は私の全て。後にも先にもあの方以外を主と認めるつもりはございませんので。」
「ある意味ありがたいよ。その忠誠心は。それと茶の淹れ方、ね。」
「お褒めにあずかり光栄です。」

ジョーカーが爽やかな笑顔をタクミに返し カムイが戻ってくるだろう時間に併せるようにお茶の準備を始めた頃にマイルームへの階段を勢いよく上がってくる音がして勢いよくドアが開く。
何事かと見やれば息を切らせてシノノメが立っていた。
白夜第一王子のリョウマは母・ミコトの臣下だったオロチと婚姻してシノノメが生まれた。
時の流れがそれぞれ違う異界育ちのシノノメは既に青年の姿となっていた。

「シノノメ…」
続いてジークベルトが。彼は急いでいながらも王族らしく開けっ放しのドアの前で息を切らせながら暗夜式の礼をとりお辞儀をした。
ジークベルトは暗夜第一王子のマークスとタクミの姉・白夜第一王女ヒノカの子供だ。
彼も時の流れの違う異界育ちで歳はシノノメより1つ下。シノノメとジークベルトは従兄弟となる。

「こんばんは、タクミ叔父上。おくつろぎのところ失礼致します。」
「ジークベルト、よく来たね。」
その様子をみたシノノメは自分が礼を取ってなかったことに気づき慌てる。

「あっ!! ごめっ、タクミさん!! ノックも無しに!!!」
「シノノメ、王族たるものどんな時も礼儀はわきまえなさい…まあわかったならいいよ。何かあったの?」
「そ、そうだジョーカーさん! フェリシアさんが赤ちゃん生まれるって!!」
静かに様子を見ていたジョーカーが急に慌てる。手に持っていたポットをガッチャン!!! と音をさせてトレイに置く。

「なっっ!!! 本当かっ!! でも予定日にはまだ…っぁっ、えっっ。お茶の準備がっっ、カムイ様がっ、どうし…」 
「シノノメ…そんな言い方ではジョーカーも慌ててしまうよ。産気づいて数時間なのでまだすぐにではないそうです。今オロチ伯母上と、母上が傍について下さっていますが取り合えずジョーカーを呼べとの事でしたのでこちらに伺いました。」
「おっ、おう。でもよ、フェリシアさん辛そうだったし…それに赤ちゃんだぜ?? ちっこくてかわいいのがでてくんだぜ? 楽しみじゃねぇかよ!!」
「そりゃあ赤ちゃんはかわいいし楽しみだよ。ジョーカー…大丈夫かい?」
「はっはいっ、ご心配痛み入りますっ。と、とにかくっ、お茶をお淹れいたしまっ…あっつぁあぁ!!!」
それを聞いたジョーカーは慌てふためき、ポットを置いた際に飛び散ったお湯をなぜか自分のシャツで拭いて熱さで飛び上がっていた。
これでは埒があかない。

「ジョーカー、ここはいいからとにかく早く行って。フェリシアの傍にいてやりなよ。」
仕方なく急いで声をかける。

「はっ、はいっ。申し訳ありませんっ。」
「ではタクミ叔父上、失礼致します。」
「じゃあな、タクミさん。」
「はいはい、いいから、とにかく急いで。」
ジョーカーはスマートな彼らしからぬ取り乱した状態で勢いよくお辞儀をして、ジョーカーはシノノメ達とともにドタバタと部屋を後にしたが、心配で上から見ているとヒサメやマトイが木の下に来ていた。

「シノノメ様っ!! 何やってるの、早く!」
「ジョーカーさん、フェリシアさんが破水されたそうです。診療所へ向かってください。お早く!」
彼らも異界育ちでマトイはツバキとカザハナの娘でシノノメより1つ下。ジークベルトと同い年。ヒサメはヒナタとオボロの息子でシノノメより3つ下だ。

「ええっ??? くっ…フェリシアぁぁあああぁ!!!!」
聞いたジョーカーは髪を振り乱して全力疾走でキャッスル内を走っていった。

「こんばんは。タクミ様~。シノノメ様っ! どうせあなたの事だから慌てて伝えたんじゃないですかっ? もうっ、こういう大切な事はちゃんと頭の中を整理して完璧に迅速に伝えるべきでしょ。ああ、やっぱり私が来ればよかったわ。」
ツバキよろしく完璧主義のマトイはシノノメを目の前にして説教している。

「タクミ様お騒がせして申し訳ありません。やはりジークベルト様についてきていただいてよかったです。お手間をおかけしました。」
ヒサメはジークベルトに頭を下げていた。ヒナタとは違う落ち着き…これはオボロに似たなようだ。

「役に立ててよかった。でもちょっと慌ててたけどシノノメはちゃんと伝えてたんだよ。マトイは厳しいなぁ…」
ジークベルトは柔らかい微笑で答える。

「ジークベルト様はお優しいから…甘やかしてはシノノメ様の為になりません。」
「うう…すまねぇ…嬉しいのと大変だっつーのと…もう何がなんだかよぉ。」
「シノノメ様、あなたは次期国王なんですから、もう少し落ち着いていただかないと…」
シノノメはヒサメとマトイに説教を喰らい、ジークベルトはその後ろでフォローに回った状態でワイワイ言いながら歩いて行くのを見送り室内に戻った。

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静かな静寂の戻った部屋は振り子時計の音しかしなくなりタクミは一呼吸つく。

また一人新たな命が生まれる。
まだ透魔王国という未開の国と戦っている最中ではあるが、白夜も暗夜もない子供たちが生まれ今までずっと敵国として対立していた国を結び付けてくれている上に、リリスの加護もあり子供たちも安全に育つことができる環境があるのはのはとても喜ばしいことだ。

それなのに…………

ふとトレイに目をやるとジョーカーが慌てた残骸が広がっていた。タクミはそれを片付けカムイの為にお茶の準備をする。

トレイの上の茶葉を確認。
今日はこの茶か。ならばお湯の温度は…

タクミも白夜王族のたしなみとして茶道は経験している。
普段飲む茶も淹れ方を昔オボロに教えてもらい出来るようになっているが、暗夜の茶は飲んだことがあったものの淹れ方や茶葉などは馴染みのないものだったため1から覚える必要があった。
暗夜で育ったカムイの為に、いつも忙しくしている彼女の為に何かしてあげたいと思っていたので、とりあえず覚えたもののひとつだ。
暗夜式の茶の淹れ方はジョーカーを見ておぼえ、湯の温度や茶葉の種類などは先日フェリシアに教わった。
まずはジョーカーにお茶の淹れ方を聞いたが

「そのような事はこの私めにお申し付けください。この役目は私の役目。例え王族の方であろうと他の誰にもお譲りするつもりはございませんので。」
とピシャッと断られてしまった。

暗夜第二王女のカミラ王女ならきっと快く教えてくれただろうが、少し前にレオンの臣下であるゼロと婚姻し今は彼女も身重の身。何よりどうしてもあの妖艶な雰囲気が苦手で言い出すことができず仕方なくフェリシアを頼った。
事情を話して教えを乞うと

「そうして大切にしていただける方が旦那様なんてカムイ様はとてもお幸せですね~。私でよろしければお教えいたします~。」
とお腹を摩りながら快く了承してくれた。彼女はいつも慌ててしまって失敗することが多いが、長い間カムイに仕えているメイドなだけあって知識はきちんと頭に入っている。それを一つ一つ丁寧に教えてくれた。

フェリシアには感謝しなくちゃな…

茶葉を蒸らしながらカップにお湯を入れて温めている処でカムイが帰ってきた。

「おかえり、カムイ。」
「ただいま帰りました。あれ、タクミさんが今日はお茶を?」
「ああ、ジョーカーは下がらせた。フェリシアが産気づいたみたいだよ。」
「えっ、うわぁ、本当ですか! どっちですかっ、男の子、女の子?」
「カムイ…産気づいたってだけで、そんなにすぐには産まれないよ。とにかく座れば。」
「あ、そうですよね…えへへ、つい…」
はい。とお茶の入ったカップをカムイの目の前に置き、自分も椅子に座る。

「いただきます。」
「どうぞ………どう?」
「はぁ~…うん、美味しいです。タクミさんいつの間にお茶を? ジョーカーさんに教えてもらったんですか?」
「ジョーカーが僕に教えてくれるわけないだろ。フェリシアだよ。」
「そうですかー、フェリシアさんはその時々の茶葉を選ぶのがとても上手なんですよね。きちんと相手をみて茶葉を選んでくれるんですよ。ジョーカーさんも流石にそこは認めているみたいでフェリシアさんの選んだ茶葉には文句はいいませんでしたもの。」
机に頬杖をついて、ほにゃっとした笑顔でおいしそうにお茶を飲んでくれるカムイを眺める。
眠るまでのこの時間、お茶を飲みながらその日あった事を話すのがタクミとカムイの日課で、他愛もない事を話しながら過ごすこの時間をタクミもとても大切にしていた。

カムイと婚姻してどのくらいになるだろう…カムイの左手薬指に光る指輪を見ながらそんな事を考えていた。

「タクミさん?」
ふいにカムイに声をかけられ驚いて意識を戻すと、カムイが自分の顔をのぞき込んでいた。

「どうかしましたか? なんだか今日は元気がないですね…」
最近行軍が続いて疲れたのか、軍議で何かあったのか、自分が何かやってしまったのか、カムイは心配そうに聞いてくる。

「なんでもないよ。」
慌てて誤魔化すがこうなったらカムイは一歩も引かない。やっぱりおかしいですっ、と納得するまで食いついてくる。

「だっていつもなら私が褒めても素直に喜んでくれないし、そんな優しい顔もすぐには向けてくれませんっ!!」
断言されて頬杖をついていた肘が机からずり落ちずっこける。

「ちょっと…カムイ…ひどくない?」
慌てて体制を直すと、より一層食いついて色々聞いてくる。

「私たち夫婦じゃないですかっ。それなのに何か言えないことでもあるんですか?」
両手で顔を包みこまれてまっすぐ見つめられ、その手からふんわりと暖かさが広がってくる。
改めてカムイを見つめなおす。

小さくて細い手と指、神剣・夜刀神を振るうのには似合わない華奢な体、赤い瞳に尖った耳、肩まで切りそろえ少し癖のある柔らかくてきれいな真珠色の髪。
欲しくて欲しくて堪らなかった。姉弟だとあきらめていたのに血がつながっていないと知った時にはショックよりも喜びの方が大きかった。意を決して想いを伝え、カムイはそれを「自分も同じ気持ちだ」と受け入れて受け止めてくれた。
愛しい、愛しい…もっと何か自分に出来る事はないか。カムイの為に何かしてあげたい。大切にしたい。

「タク…」
タクミは軽く口づけを落としてカムイの質問攻撃を止めた。

「ずるい…すぐそうして誤魔化すんですから。」
カムイは耳まで真っ赤にして俯き上目遣いでこちらを見てくる。

「誤魔化してない。僕の。僕のカムイ、愛してるよ。ごめん、心配させちゃったね。ジョーカーがここに居なくてよかった。怒られちゃうところだった。」
一言一言呟きながら何度も口づける。

「ジョーカーさんに? 何を…きゃっ。」
「それは内緒。」
タクミはカムイを抱きかかえベットへ座らせ、自分はその前に跪きカムイの手をとる。

「今日レオン王子と会った。」
「あら、レオンさんは今マークス兄さんとアシュラさんと暗夜各所の反乱勢力へ協力要請へ出ているのではなかったですか?」
「うん。リョウマ兄さんに用事があってリリスに転送してもらってきたみたい。その時にサクラの話も聞いたんだ。元気にしてるって。」
「そうですか。レオンさんはああ見えてとても優しい子ですから、きっとサクラさんの事も大切にしてくれてますよ。」
「…サクラ、懐妊したって。今 4か月だそうだよ。」
「えっ…わぁ、すごい!! 今日はジョーカーさんとフェリシアさん、その前はリョウマ兄さん、マークス兄さんとヒノカ姉さん、ヒナタさん、ツバキさん、もうすぐカミラ姉さんでしょ。今度はレオンさんとサクラさん。どんどん新しい命が!!」
カムイは自分の事の様に喜び、タクミの手を握り返し上下にブンブンと振る。

「あ、ならサクラさんも身動きが取れませんね…しばらくはお休みしていただかないと…ええと、確か安定期に入るのは5か月くらいからで…」
「うん。サクラはあの性格だし周りに気を使って動いてしまいかねないから、安定期に入るまで異界で休むってさ。レオン王子がサクラの傍について監視するって言ってた。」
「ふふ、レオンさんらしいですね。でもよかった。元気な子を産んでほしいなぁ。」
少し頬を赤らめ嬉しそうに笑うカムイを見ながらタクミは握ったその手に力を籠める。

「カムイ…僕は子供が欲しい。」
その一言でカムイは目を丸くした。

実はタクミとカムイは婚儀を行ってから一つの決まり事を作っていた。

『今の戦争が落ち着くまでは子供を作らない。』

軍の将であり、象徴でもあるカムイは自分が果たす役割をわかっていた。
自分が先頭に立ち、軍を引っ張っていく。自分が子を宿せば軍の士気に関わる上、身重な体で前線に立つことも出来なくなる。
カムイの覚悟を聞いたタクミはその思いを汲んで協力すると決めたのだ。
婚儀を行い夫婦となったのだからそれなりの行為はありはしたが、それは愛を確かめ合うものであり、その結晶を作る行為ではなかった。

「僕は君との、僕らの子が欲しい。」
「え…でも、その…決まり事を…」
「うん、それも十分理解してる。カムイの立場もよくわかる。だからこそ僕は協力すると決めた。」
「それなら…そんなこと…」
「僕はカムイに何かしてあげたい。まだまだ足りないけどもっと大きな幸せもあげたい。僕にとってカムイは将じゃない。一人の女性で、僕の妻なんだ。だから僕にあげられるすべてを君にあげる。」
できるだけゆっくり噛みしめる様に勤めて優しく話す。

「……!」
カムイは俯き震える声で小さく答える。

「…でも…私は…知らなかったとはいえ、お母さまを…白夜の人たちを殺めてしまいました。ここに至るまでそれこそいろんな方を巻き込んでしまって悲しい思いをさせてしまった。私はその方たちに報いなければいけません。自分の事より悲しい思いをさせてしまった方々へ返すのが先だと…それなのに私はあなたと結ばれた。それだけでもいけないことで…私…私は…」
握ったタクミの手に涙が落ちる。カムイは肩を震わせながら声を立てず泣き 唇を噛みしめていた。

「苦しませてしまった人たちの為、悲しませてしまった人たちの為に新しい命を繋ぐ。未来へ繋げるために笑顔が必要なんじゃないかって最近思うんだ。シノノメやジークベルト、ヒサメやマトイや町の子供たちを見てたら、諦めずに生きていこうって元気をもらえるじゃないか。僕は昔はそんな風には思えなかった。何のために生まれてきて何のために生きているのか理由が見出せなかった。ただ王族として恥ずかしくないようにと生きてきただけだったんだよ。でも人として生きる楽しさ、大切さ、人を信じる気持ちを教えてくれた人がいた。それがカムイ、君だよ。」
「繋ぐ…」
「うん、命を繋ぐんだ、こんな時だからこそ。僕は君にも幸せになってほしい。笑顔でいてほしい。そのために僕が出来る事はすべてやっていくつもり。」
「でも…」
「不安? 軍は皆がいる。シノノメやジークベルトだってもう兄さんたちの名代が出来る位に立派に成長してる。もちろん僕も全面的に協力するよ。皆きっと協力してくれる。」
柔らかい笑顔でほほ笑むタクミを涙でぬれた赤い瞳が見つめ返す。タクミはカムイの隣に座り抱き寄せて背中をゆっくりなでる。

「皆を、僕を、信じてカムイ。 君は1人じゃないんだ。」
カムイはその言葉で体の力を抜いてタクミに身を預ける。
「そんなこと…1人だなんて思って、ません…あなたが居てくれるから…」
「うん、ありがとう。」
「あの…つ、替えてくれますか…?」
頬を染めてカムイがタクミを見る。

「赤ちゃんの…おむつ、嫌がらずに替えてくれますか? 沢山お洗濯しなくちゃいけません。夜泣きしても嫌がりませんか? ミルクだってあげないといけないし、遊んだり、ご飯を食べさせたり…!」
必死でいうカムイを見てタクミは笑う。

「はははっ、カムイ、僕はこれでも子供好きで結構面倒も見てきてる。サクラだって赤ちゃんの頃には率先して世話したもんさ。カムイよりも上手にできる自信はあるよ。」
「わっ、私だって、ちゃんとお母さんになります!」
「そうだね、2人でお父さんとお母さんになろう。」
タクミはカムイの腰に手を回し、そのまま寝台へ優しく寝かせて額や頬に口づけを落とす。

「タクミさん、意地悪なのか優しいのか解りません。」
「ふふ、今からは意地悪するけど…ね?」


2人は笑顔で抱き合った。

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それからしばらく経った夏、カムイは男の子を産んだ。
カムイと同じ髪の色をして、タクミにそっくりな子。よく笑顔を見せる子で名前は「キサラギ」と名付けられた。
今日はキサラギの住んでいる異界へ2人で訪問したところだった。


「キサラギ、寝た?」
「はい、もうグッスリ…タクミさんと弓で遊んだのが楽しかったって眠る直前までお話ししてくれましたよ。」
「うん、キサラギは筋がいいよ。きっと僕よりも上手になるんじゃないかな。」
「そう…キサラギ、凄いですね。」
眠るキサラギの頭を撫でていると、すすっとタクミも頭を寄せてきてチラっとカムイを見て小さな声でいう。

「僕もご褒美、欲しいな。」
「まぁ…ふふ、あなたもお疲れさま。」
タクミはカムイに撫でてもらい気持ちよさそうに目を細める。

「ありがとう、タクミさん。あなたはいつも本当に沢山私にプレゼントをくれますね。」
「ん、何が?」
カムイはタクミにそっと耳打ちをする。

「もう1人、お腹に赤ちゃんが出来ました。」


春のサクラが舞う時期に産まれたのはタクミと同じ髪の色のカムイと同じ尖った耳を持った男の子。
名は「カンナ」と名付けられた。

 

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