夕焼けの綺麗な空の色に染まった広い原っぱでカムイは1人立っていた。原っぱはサワサワと揺れ風が吹き気持ちが良くて目を細める。大きく息を吸って上を向いて目を開けると空から何かがゆっくりと落ちてくる。手を伸ばしそれを受け止めてみると白い鳥の羽だった。
なんてキレイな羽なんだろう…
見ているとそれは光って手に沁み込むように消えていった。
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急に覚醒して目が覚めはぁーとため息をつく。目の前には薄茶銀の髪を顔にまとわりつかせて眠っているタクミの顔。髪をそっと避けてやるとうーんと言いながらカムイを抱き寄せてくる。触れ合う肌の感触が気持ちいい。何の気なしにタクミの胸元に目をやると着物を着ていない事に気付く。
そういえば昨夜は・・・
タクミと結婚ししばらくは立場や戦の事を考えて子を作る事を避けて来たがタクミの願いから今はそれもやめていた。戦は長く長期化しているが幸い星界のキャッスルを拠点としているため各々の自国に影響が出る事は殆どなく、ここで全てを賄えている。ただ参戦する人数が増えれば増えるほど土地は広大となりそこに生活する人も増える。そういう意味では運営もとても難しくなってはくるが、暗夜、白夜のきょうだい達やその臣下の協力により自国とここの運営は円滑に執り行われていた。ここ数年で結婚出産が続いておりそのフォローも大切な仕事だが命が繋がっていく様をそうして見る事でカムイも自覚が出ている事は確かだ。事実子供たちはとても可愛く戦で殺伐とした中での癒しともなっている。
カムイは自分の腹を撫でてみる。いつかここにタクミの子が宿るのだろうか。まだ実感は全くわかないが他の家族達の様に、自分もタクミと共に家族になっていけるのだろうか。何より自分に流れる竜の血がお腹の子に影響はしないだろうか。それも心配のうちの1つであった。母ミコトはどんな気持ちだったのだろうか。今それを聞けない事が苦しかった。
「どうしたの?」
不意に声をかけられ顔を上げるとタクミが目を覚ましてこちらを見ていた。
「今、何時? …まだ夜中じゃないか。眠れないの?」
「ごめんなさい、起こしてしまって。」
「ん。」
タクミは起き上がりサイドテーブルに置いてある水を飲んでカムイにも渡す。少しだけ体を起こしてゆっくりと水を飲み込むと体の中から冷える様だ。ため息をついてコップを返す。
「何か、あった?」
「え? いえ…ひゃっ!!」
タクミがため息をついてバサリと布団をめくると裸のカムイに尾が生えた状態だった。
「これ、なに?」
「なな、なんでっ、いつの間に???」
「無意識…」
タクミは横になりカムイを抱き寄せて頭を撫でる。
「君がそういう時って何か隠したり悩んだりしている時なんだよね。何があったの。」
「…なんでも…!!」
タクミは呆れた顔で見ながらカムイの顔を両手で挟んでむにーーーーっと押す。カムイは驚いて尾をバッタンバッタンさせる。
「ふむーーー!!!」
「あのさ、結婚してどれだけ経ったと思ってる? 何で隠そうとするんだよ。まーさーかー俺に言わずにヒナタなんかに相談するとかいうんじゃないだろうねぇ?」
ちょっとそれを思っていたカムイは図星をつかれて驚き平静を保とうとしていたが尾が出ている以上感情は隠せない。ピンと張ったまま緊張をしてしまっていた。ヒナタは今でもカムイとは臣下であり師弟であり親友であり支援上でもタクミの次に高く互いの背中を預ける様な存在で色々と見守ってくれている。お互いに相談事を持ち掛ける事もあるのだ。もちろん互いに結婚して伴侶が居るので割り切っているが、前のヒナタとの事を知っていて時々こうして蒸し返したように突っ込んでくるのだ。まあそれはそうだろう…
「カームーイー?」
「ご、ごめんなひゃい!!」
「…もー…頼ってよ、もう少しさ。俺そんなに頼りないかなぁ。」
タクミとは年齢が2歳差だが彼の方が断然落ち着いている。結婚してから特に落ち着いたタクミは何をやるにしてもそつなくこなしカムイの事もきちんと見て理解もしてくれている。僕と言っていたのもカムイの前では俺に変わり、とても頼りがいのある伴侶となっていた。
「頼りないのは私…いつもすいません…」
「俺は君に一言も頼りないなんて言ってないよ。」
「前は言ってた…」
「前は前。あれは黒歴史なんだからもう捨てて。」
「あれ黒歴史なの?」
カムイは思わず噴き出したがまたタクミに顔を挟まれて暴れる。
「子の事を心配してるなら心配はないってさ。アクア姉さんが言っていたから。」
「えっ?」
「まあカムイと同じ力を持った子は産まれるかもしれないけど不安定になる事はないんじゃないかって。王族の竜の血もかなり薄まってるからね、逆にその方が安定するんじゃないかとか。とにかく悪い方に考えない方がいい。出来る物も出来なくなってしまうからね。」
「…タクミ、そんなに子が欲しい?」
カムイのこの質問にタクミは目を丸くする。
「当たり前だろ。カムイの子だよ?どんな子が生まれるのかなって今から楽しみ。性別は元気だったらどっちでもいい。」
タクミはにこにこ笑いながらカムイを見つめる。本当に楽しみにしてくれているみたいでカムイも少し安心して微笑んだ。
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朝の軍議中、明日の行軍の為の準備打ち合わせをしている時、資料に書き込みをしていたタクミに後ろからコソリとヒナタが声をかける。
「タクミ様、カムイ様が…」
「?」
隣に座るカムイを見ると俯いて眠ってしまっていた。
「カムイ?」
肘でつつくがカムイは目を覚まさない。
「カムイ様、寝てます?」
「爆睡してるね…」
「しゃーねぇ、ちと小突いて起こしますか…あ。」
バコン!! ヒナタが気付いた時にはカムイの頭にはレオンのブリュンヒルデの角の固い部分がヒットしていた。
「ったい!!!」
「…軍議中。将が何やってるのさ。」
「レオン!! もっと起こし方があるだろう!! カムイに何かしたら私が許さんぞ!!」
「姉さんは生半可な起こし方じゃ起きないのは兄さんも知ってるだろう?姉さん、城砦で起こされていた様に冷たい氷の魔法で起こされたかったかい?」
マークスに怒られるがレオンは知らん顔で続ける。
「え、あ、はいっ。ごめんなさいっ。」
「タクミ、姉さんを愛してくれるのはいいけど、きちんと寝させてやってくれないか。」
「は? いや、寝させてるよ。 じゃなくて態々叩かなくても…カムイ大丈夫?」
「痛い…」
「姉さん、将たるものの心得は叩き込んだ筈だ。ちゃんとしないと酷いよ…?」
レオンは冷たい目でカムイを見下ろす。かなりキレている様だ。
「ご、ごめんなさい…気を付けます…」
「レオン!! リョウマ王子が今不在だからよかったものの、もし居たらただでは済まんぞ!」
ラッキーな事に今はリョウマは政務で白夜に帰っていた。ここでもしリョウマが居たら神器のぶつかり合いになっていた事だろう。
「タクミ様、まじで…?」
「ヒナタ…違うって。レオン、サクラに会えないからって八つ当たりはどうかと思うよ。」
「ああ、もう会えないからイライラピークだね。とっとと透魔を攻め落としてサクラとお腹の子と平和に過ごしたいよ。兄さん、僕もう我慢も限界だから透魔に乗り込んで決着つけてきていいかな…」
「若いってイイねぇ…」
レオンは腹に子が出来て療養含めて異界にいる妻のサクラにここ最近の忙しさでなかなか会えずイライラが溜まっている様だ。ゼロはその様子を見ながらニヤニヤしている。今ゼロとカミラ夫婦の間にも子が出来ていた。
「リョウマ王子、早く帰ってきてくれんか…」
マークスは頭を抱えていた。
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軍議が終わり廊下を歩いていると子供に声をかけられてカムイ達は立ち止まる。マトイとヒサメの2人が走ってきていた。カムイは座って両手を広げ子供たちを受けとめ抱き締める。
「マトイさん、ヒサメさん、おはようございます。」
「「カムイさま、タクミさま、おはようございます。」」
「おはよう、マトイ、ヒサメ。今日も元気だね。」
タクミも笑って子供たちの頭を撫でる。マトイもヒサメもこちらの世界ではまだ赤子の筈だが、殆ど異界で過ごしているため時間に大きくズレが生じ今はすでに小さな子供にまで成長していた。カムイの決めた方針通り、時々はこうしてこちらに連れてきて家族で過ごす時間を持てる様にしているのだ。
「とーしゃん!」
「おう、ヒサメ。どしたー?」
「カムイさま、見てみて。かあさんにおしえてもらって、お花のかんむりつくりました。」
「ぼくも!」
「ええ、おめぇ、男の子じゃねぇか…」
「うわぁ、綺麗!!上手に出来ましたねー! どこに咲いてたの?」
「あのね、おしろの外の原っぱ。カムイさま、いっしょにつくりましょ。」
「いいですよ。お昼からなら時間が取れますから一緒につくりましょうか。タクミさん、いいですか?」
「いいよ。昼ごはんを食べたらまたおいで。」
「はいっ。これカムイさまとタクミさまにあげます。」
「ぼくは、とーしゃんにあげる。」
マトイ達に頭に花の冠をのせてもらい手を振って別れる。
「ヒナタ、似合ってるよ。」
「ガラじゃねぇんですけど、息子がくれたんなら断れませんよねぇ。はは…」
「カムイ…?」
カムイは座ったまま動かない。タクミとヒナタが慌てて側に行く。
「カムイ、どうしたの?」
「ごめんなさい、眩暈がして。」
「立てるか? タクミ様、お部屋で休まれた方がいいんじゃ…」
「大丈夫ですよ。お昼から約束もしましたから、ゆっくりやります。」
「最近おかしいね。疲れやすいしいまいち体調も良くない…一度診療所で診てもらった方がいいよ。」
「食事はしてますけどね。疲れてるのかなー。すいません、ご心配かけました。もう大丈夫。」
ヒナタとタクミに支えてもらって立ち上がりながらへらりと笑いゆっくり歩いて執務室に向かった。
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「よう。」
カムイが執務室で資料や書類の確認をしているとココンとドアを叩いてヒナタが顔を覗かせる。
「ヒナター、珍しいね。何?」
「生きてっかなと思ってよ。へーきか?」
「うん。あれからは大丈夫。」
「タクミ様、最近おめぇの調子が悪いっていってたけど…」
「心配してくれたの。」
「心配してやってんの。ほれ。」
「かわいくなーい。」
ヒナタが出したのはカムイの大好きな定番の握り飯。少し大きめなのはヒナタが握ったからだろう。思わず笑顔になる。
「うわ、でた!!」
「あまり朝も食べてないってジョーカーから聞いたからよ。腹減ってねぇか?」
「えへへー、食べる。あ、今日豪勢!! のりがついてる!!!」
カムイはいそいそと包みを解く。
「何かサイラスも心配してたぜ? 顔色が良くねぇって。」
「サイラスまで? 確かに朝は必ず顔合わすけど、そんな事言ってた? いただきまーす。」
カムイは握り飯にかぶりついてパクパクと食べている。
「美味しー!!」
「中身は梅だけど…酢っぺえだろ?」
「んーん。美味しいよ。」
「この梅よ、市場のばあちゃんに貰ったんだけど酸っぱくてよー、食い難いったら…美味いか?」
「めっちゃ美味い~!」
「タクミ様、やっぱこりゃ子が出来たんじゃないですか?」
ヒナタがドアの外に声をかける様に首を動かすと、ひょこっとドアの陰からタクミが顔を出した。カムイはいきなりの事で喉に詰まらせ、ヒナタに笑いながら背中を撫でられる。
「わっはははははっ、わりぃわりぃ!! 変な勘ぐりさせずに確かめるにゃこれが一番いいからよ。」
「ふぐっ…水っ…」
「はいはい、お茶。」
タクミに苦笑いされながらお茶を渡され一気に飲み干す。
「ぶはっ…ちょっと2人ともっ!!!」
「ごめん。ヒナタがそうじゃないかって言うから、確かめてみようって事になってさ。」
「十中八九、当たってると思いますよ。体調が良い悪いを繰り返してるしな。」
「まだ解らないじゃないですか。当の私が解ってないのに。」
「その当の私が一番信用ならねぇんだろうが…」
「ヒナタっ!!!」
「うはははっ、図星だろ。タクミ様、早い所診せた方がいいですよ。じゃないとカムイ様無理しそうですからね。」
「間違いなく突っ走るよね。そうするよ。協力ありがとう、ヒナタ。」
「いえいえ、お安い御用っす。」
ヒナタはそう言って部屋を後にした。見送ったタクミが視線を戻すとカムイは仏頂面で握り飯を食べ続けていた。
「美味しい?」
タクミは機嫌を伺う様に机の前に屈んで下からカムイを覗く。
「そんなかわいい仕草しても許さないんだから…ちゃんと聞けばいいじゃない。」
「聞いて素直に診療所行ってくれる?行かないだろ。」
「何で決めつけるの。」
「俺の嫁は頑固だから。」
「お互いさま。」
「まぁね。でもお願い、ちゃんと診て貰おうよ。ね? 俺も一緒に居るから。」
「とりあえずこれ食べたら書類終わらせます。子供たちと約束してるからそれが終わってからなら…」
「かなり後なんだけど…わかった。なら手伝う。見せて。」
「自分の仕事して。」
「俺のはもう終わりましたから、ご心配なく。」
誤魔化そうとしたがタクミはさっさと仕事にかかりカムイが食べている間に数枚片付けてしまったのを見て慌てて食べ終え仕事に戻った。
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「カムイさま、見てみて!」
「上手ですね、マトイさん。よーし、私も綺麗なの作るぞー。」
「マトイのはとーさんにあげるの。」
「ぼくはかーしゃん。」
「マトイ、母さんのは?」
「あとでー。」
「えー、後回しー?」
カムイは約束通り子供たちと共に午後から時間をとって遊んでいた。子供たちが連れて行ってくれた原っぱは花が沢山咲いていてカムイも目を輝かせて喜んだ。少し離れた所にゴザを敷きオボロ、カザハナ、タクミが座ってその様子を眺めている。
「タクミ様、お茶どうぞ。」
「ありがとう。悪いね、僕まで…お邪魔じゃなかったかな。」
「いいえ。いつも子供たちを構ってくださってありがとうございます。」
「それにしてもカザハナが花の冠の作り方を知っていたとは…正直驚いたよ。」
「夫にも言われました…私だって女ですから、その位は作れますよ。タクミ様まで酷いですっ!」
「いや、ごめん。ははは…」
カムイは子供たちと楽しそうに花の冠を編んでいる。そういえばこういう姿を見るのは初めてだ。暗夜では日が差さないため花の種類が少なかったと聞いたことがある。こうして沢山の種類の花を見たりするのも彼女にとっては良い癒しとなるのだろう。結構手早く綺麗に編んで行っていてマトイ達にも教えてやっている様だ。
「カムイさま、すごい!!」
「しゅごい、しゅごい、きれい!!」
「これはね、こうして…ここを入れてやって…ほら、綺麗でしょう?」
「おしえて、おしえて!!」
「いいですよ。私もこれはお姉ちゃんに教えてもらったんですよー。これをね…」
子供たちはカムイの側にくっついて離れない。ヒサメに至ってはすっかりカムイの膝に乗る様にしている。もしも自分の子が生まれたら、こうしてカムイと子が戯れる姿を見れるのだろうか。まだ見ぬ子の姿を想像しながら微笑んで見守っていたが、カムイの後ろから兵士が走ってきている姿を確認してタクミは立ち上がり走り寄る。
「どうした。」
「白夜平原で遭遇戦です。敵、剣聖多数。今リョウマ様とユキムラ様が軍を率いて戦っていらっしゃいます。」
「解った。すぐに行く。オボロ、カザハナ、子供たちを。」
「はい。さ、行くわよ。」
「タクミ様、私達も後合流します。」
「解った、頼む。カムイ、君は…」
タクミがそこまで言う前にカムイは既に走り出していた。慌てて追いかける。
「カムイ!!」
「剣聖が相手なら私も行かなくては。ユキムラさんでは剣聖のスピードに太刀打ちできないよ!」
「走らないで!! それに…」
「大丈夫。もしもお腹に子が居たとしてもカザハナさん達もそうしてきたんだから。」
「…でも!」
「急に私が抜けるわけにはいかないでしょ?」
カムイはそう言って笑いかける。タクミは複雑な顔をして後ろを走っていった。
カムイが星界の門前に到着した時にはタクミ隊の準備は整い、前のルーナ隊が門をくぐっている処だった。カムイの姿を確認してヒナタが驚いて走り寄る。
「カムイ、おめぇ…」
「遅れてごめん。タクミはもうすぐくると思うから指示頼むって。オボロさんも後から来るから来たらバディ変わるね。それまでよろしく!」
「そうじゃなくて、 診せたのか!?」
「まだ。」
「ばっ…ばっかか、おめぇは!!!!!」
ヒナタが急に大声を上げたので周りの兵士の視線が一気に集まる。ヒナタは頭を抱えて隊の副隊長に声をかけ先に入る様に指示をして少し離れた場所にカムイを引っ張っていき渋い顔で一呼吸して声を出す。
「…あのな!…」
「何が言いたいのかは解ってる!!」
「……頼む…タクミ様に心配させんな。俺もどんだけ心配してっか、解ってんだろ…」
「ごめんね。帰ったら必ず行く。」
「…約束だぞ…ったく、行くぞ。」
黙って頷くとヒナタはカムイの頭をくしゃくしゃとして門をくぐった。
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門は白夜軍の裏手に配置され、門から出るとすぐにユキムラに会った。
「ユキムラさん、泉や水場は探しましたか?」
「カムイ様。はい。現在忍達に指示をして位置の確認をしています。」
「解り次第リョウマ兄さん達に通達を。あれは私や王族しか潰すことが出来ません。」
「解りました。すぐに。」
「リョウマ兄さん!」
「カムイか!」
「どんな様子ですか?」
「剣聖が多くてこちらの侍衆では太刀打ちできん。こちらの剣聖の数の方が劣っているので忍達と組ませてはいるが苦戦だな。」
「兄さん。」
「タクミ、来たか…どうした、その姿?」
タクミはいつもの弓聖の姿ではなく、どちらかといえば剣聖に近い装具を着け手には風神弓を持っているものの腰には刀を差していた。
「ちょっとね。オボロ達と一緒に来たんだ。今日はカムイと陣を組む。君は後衛へ、いいね?」
「あ、はい。」
「剣の腕は鈍っておらんか?」
「さぁ…どちらにしてもこの状況じゃね。」
「腕前見せてもらおう。楽しみにしてるぞ!!」
リョウマについて走り始めるがカムイの足元が急にふわりと軽くなる。タクミが風神弓で台を作り風の力で体をサポートしていた。
「その上から降りない事。攻撃するにしてもその上なら衝撃も少しは紛れる。風神弓も精霊達も皆心配してるんだ。力を貸してくれるって。それと…」
「はい?」
「やっぱり子が居るって。来るぞ!!」
カムイが驚く前にタクミが剣を抜きカムイに襲い掛かろうとしていた剣聖の刀を止める。押さえつけてくる相手に対し火花を散らせて刀を滑らせするりと抜いて薙ぐ。大振りもせず最低限の小さな動きで次々と切り捨てていく。タクミの言葉とその動きに目を取られてぼうっとしていたカムイだが鈴の音で目が覚める。
「カムイ様、しっかり!! 今からですよーっ!!!」
槍聖オボロが側でヒナタと共に援護に回ってくれていた。オボロもカムイを見て微笑み、ヒナタは嬉しそうに笑いながら「やったな!」と口パクで言葉をかけてくれた。2人の顔をみて思わず胸が一杯になり口を震わせ「うん!!」と頷きタクミへと向き直って戦闘に戻った。
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戦闘が終わりひと段落ついた寝室でカムイは湯上りで濡れた髪を乾かしながら昼間に子供たちがタクミと自分にくれた花の冠に花を足して1本にまとめていた。風通しの良い場所を探して伸びてかけようとしていたらタクミが後ろからカムイを抱き上げて手伝ってくれる。
「伸びたらダメだってオボロにも言われたろ?」
「あ、ごめん。」
「何するの? 何か昼のものよりパワーアップしてるけど。」
「せっかくマトイさんとヒサメさんがくれたんですもの。ドライフラワーにしようと思って。」
「ドライフラワー?」
「えーと、乾燥花っていって、観賞用のお花。思い出に残したい花とかをそうして残したりするの。」
「へえ。」
タクミはそう言ってカムイを抱き締める。
「今日、遅くなったのって精霊に聞いてたから?」
「いや。弓だけではフォローが出来ないからと思って装備を変えてたからね。時間がかかってしまったんだ。心配だったから…声をかけてくれたんじゃないかな。」
「……嬉しい…?」
「嬉しくないと思う?」
「質問に質問で返さないでください。」
「そんな解り切ったことを聞かないでくださーい。」
「解ってないから聞いてるんですー。」
「…嬉しいよ。すっごく嬉しい。ほんとに嬉しい。まっじで嬉しい!! ばんざーーーーーい!!!」
「うひゃ…はわわ…あははははっ!!」
タクミはカムイの脇を持って高い高いしながらくるくる回って喜ぶ。カムイもタクミの珍しいそんな様子に思わず笑う。
「もー、嬉しくて壊れそう♪」
「壊れてるよー。あはははっ。」
「壊れるのも悪くないって思う様になったんだ。だからもう君の前では壊れる。」
「タクミって赤ちゃんには赤ちゃん言葉で話すタイプ?」
「…それは覚えがないな…」
「今後を楽しみにしてるでしゅよ。」
「う、それは期待されても困るでしゅよ…」
「うわっ!! あはははははっ!!!」
「あ…はははっ。もーいーや、とにかく笑え笑え~!!」
寝室のドアの外ではタクミのレアな様子に、お茶を持ってきたジョーカーとフェリシアが笑いをこらえて立ち尽くしていた。