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「幼い頃、暗夜王国に連れ去られた2番目の妹のカムイだ。皆よろしく頼む。」
リョウマが家臣達が並ぶ部屋で皆に紹介する。その女性はどこか周りとは違う雰囲気を持っていた。

真珠色の髪に真紅の目、尖った耳。顔の雰囲気は母である白夜王国女王ミコトに似ていた。紹介されたそのカムイと呼ばれた女性は皆に向け弾けんばかりの笑顔で挨拶をする。

「皆さん、はじめまして。カムイと申します。実は私が連れ去られたというのは先日初めて知りました。でもこうしてここに居る事が出来て私はとても嬉しくて幸せです。まだ何も解りませんがどうぞ色々とご指南下さい。よろしくお願い致します。」
王族らしくなく頭をペコペコと下げて、笑顔で皆に語りかける彼女に目を奪われた家臣達はとても多かった。俺もその一人。


それから透魔王国と戦うため同志を集めるカムイは白夜・暗夜の両王家にも協力を仰ぎ次々と王族が合流していった。今本拠地となっているのはカムイが長となるマイキャッスルという星界の城。和洋折衷の雰囲気のこの場所は王族などの身分は関係なく色んな作業を皆が手分けして行い毎日の生活を営んでいた。もちろんその長となるカムイも類に洩れず毎日誰よりも早起きして作業を行っていた。

「カムイ様~!! 今日は苺のいいのが採れましたよ~!!」
一般の兵士が洗濯物を抱えて干場に向かっているカムイに声をかけると、カムイはぱっと明るい顔で走ってくる。

「わわ、見せて下さい。うわぁ…おいしそう…」
そう言ってみているカムイのお腹が鳴り、兵士達と顔を見合わせて笑う。

「カムイ様、腹減ったんですか?」
「あははは、変わった姫様だ。」
「どんな人でもお腹くらいすきますーっ!!うふふ、つまみ食いしちゃいましょうよ。」
「行儀悪いですよ、カムイ様。」
「だから皆さん同罪になりません? 」
「仕方ねぇなぁ…一つだけですよ?」
「はい~!! 頂きますっ!!!」
「姉さん。」
カムイと兵士達が苺を一つつまんで口に運ぼうとしていた時に、後ろから声をかけられカムイはゆっくりと振り向く。そこには呆れた顔でため息をつくタクミと臣下のヒナタとオボロが立っていた。

「あ…」
カムイはくるっと顔を戻して苺をぱくっと口に入れる。兵士達にちらっと目線を送ると兵士達も同じくパクッと苺を口に入れてカムイと共にモグモグしながら見合って にゃははははーーーーっと笑いタクミに向き直る。兵士達は何もなかったようにピシッと立ち直し そ知らぬ顔をする。

「おはようございます。タクミさん、ヒナタさん、オボロさん。」
「…お前達、姉さんは一応王女だ。慎め。」
「はっ。申し訳ありませんっ!」
「姉さんも姉さんだ。規律を守る為にも兵を甘やかしては駄目なんだよ。解ってる?」
「解ってます。でもお腹すいたんですもの。」
タクミはその言葉に大きくため息をついて眉間に皺をよせ不機嫌そうな顔をしてカムイを見る。

「…ばっかじゃないの…言うだけ無駄だ。いくぞ。」
「た、タクミ様…」
「オボロ お前も何かあるのか?」
「あ、いえ…」
オボロは何も言えずカムイにお辞儀をしてタクミについていく。カムイはお辞儀を返すがタクミの背中を寂しそうな顔で見送っていた。ひょっと覗いた影が兵士が持つ籠の苺を覗き込む。

「おお、美味そう。な、美味かった?」
兵士に小声で聞くのはタクミの臣下のヒナタ。天真爛漫という言葉の通りとても明るく豪気な性格の剣士だ。彼は武家の出身であるが身分などにこだわらず一般の兵士達にも人望が厚い。

「美味いです。」
「へへ、んじゃ俺も同罪な。」
ヒナタは苺を一つつまみパクリと口に入れてモグモグ食べ始める。

「うめっ。これマジでうめぇ。」
兵士達と顔を見合わせて笑いカムイを見る。

「これ美味いっすね。」
「あ、はい。」
「…ったく…ヒナタ!!」
「あーい!! これで俺も同罪です。今度からつまみ食いの時には誘ってくださいよ。」
ニカッと笑いヒナタはもう一つぶ苺をつまんで口に入れ手をヒラヒラさせてタクミの後を歩いて行く。その姿をみてカムイは嬉しそうに笑った。

 

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ヒナタが錬成所の当番を交代して自室に戻る途中、自分の名を呼ばれ振り返るとカムイが走ってきていた。

「ヒーナタさーーーん。」
「よー、カムイ様。なん…あぶねっ!!」
カムイが走ってくる前を子供の飛龍がドタドタと走って横切っていきカムイはそのしっぽに躓く。両手に何か持っていたカムイは手をつくことも出来ずそのまま前に倒れこみそうになっていた所をヒナタが滑り込んで抱えて庇った。

「いってて…」
「ごめんなさいっ。大丈夫ですかっ?」
「ああ、大丈夫…カムイ様は…」
ヒナタは思ったよりも細く鎧を着ていても柔らかいカムイの体に驚く。こんなに小さな体であの大きな夜刀神を振り回しているのか。

「大丈夫です。ありがとうございます。」
カムイは顔を赤くしてすぐに体を起こす。

「すいませーーーん!! カムイ様、お怪我はありませんか!?」
暗夜の女兵士が慌ててカムイの所に走ってくる。

「大丈夫です。もしかしてあの子、この前生まれた…」
「そ、そうですっ。お転婆で困ってて…サルアーーーー!!!戻っていらっしゃい!!!」
兵士がその子飛龍の名前を呼ぶが、サルアと呼ばれた子飛龍は知らん顔をしている。

「ガン無視だな…」
「まだ子供ですからね。ちょっと行ってきます。」
カムイは立ち上がりサルアに近づいていく。サルアは警戒したように鱗を少し逆立てる。

「カムイ様!」
ヒナタがカムイを守ろうと立ち上がり走り出そうとしたが、カムイは手で止まる様に指示し口の所に指をあてて「静かに」と口だけを動かした。

「サルア。」
カムイが声をかけるとサルアはびくりとして後ずさる。

「怖がらなくてもいいの、ほら。」
カムイが自分の胸に手を当てるとその手の平から光が溢れ竜へと姿を変える。銀色に光る竜。戦闘時に時々見る事が出来るがヒナタはこんなに近くで竜になったカムイを見るのは初めてだった。美しいその姿に目を奪われる。サルアは少し驚いた様だったがカムイが近づき鼻を寄せると応える様に甘えてきた。

『そう、寂しかったの…』
カムイが頭を動かしてサルアを撫でる様にしてやると「クルルル…」と甘える声を出し始めた。

『さあ、皆の所へ戻りましょう。一緒に行ってあげる。皆といれば寂しくないでしょう?』
言う事を聞こうとしなかったサルアが素直にカムイと一緒に歩き始める。その様子をぼうっと見ていたヒナタにカムイが声をかける。

『ヒナタさん、ごめんなさい。ちょっと待ってもらってて良いですか?』
「あ、はい。」
『ありがとうございます。』
そういうとサルアと女兵士と共に歩いて育成所に向かっていく。その姿を見送って改めて足元を見ると八朔が何個か転がっていた。

「はは、また同罪にするつもりかよ、カムイ様。」
ヒナタはそれを拾い困った様に笑った。


「すいません、お待たせしました。あ!!!」
カムイが人の姿に戻って走って来たらヒナタが先に八朔を剥いて食べていた。

「お先っ。甘酸っぱくて美味ぇ~。」
「酷いですっ! 私それまだ食べた事ないのにっ!!!」
「だーいじょうぶですよ。まだありますから。あっちの東屋で座って食いましょう。」
「まだあります? 本当? ちょっと見せて下さいっ。」
「ありますって! ていうかまた俺を同罪にしようとしたんでしょ? この位は許してほしいっすわ。最初は苺、握り飯、焼き魚、今回は八朔?」
わあわあとふざけ合いながら歩く。カムイよりも背の高いヒナタが抱えた八朔はカムイがピョンピョン飛んでもあまり見えずその姿をみてヒナタは笑う。

「目ぇ赤いし、ウサギみてぇ。あはははっ。」
「ウサギじゃないですー!!」
カムイは頬をぷくっと膨らませてヒナタが食べようとした次の八朔の実1房を横取りして口に入れる。

「あっ!! 俺のっ!!!」
「……ううぅぅ~~…おいしい~~~~♡」
「…美味いっしょ?」
「美味いっす…ぷっふふふ…」
「はは、ほんとう美味そうに食いますね。」
ヒナタとカムイは顔を見合わせて笑う。

「もう1つっ!!」
「だーめですよ、東屋まで我慢~。」
そう言いながらまた一房ヒナタは口に入れる。カムイはまたそれにプンスカ言いながら歩いて行き東屋に着くとタタッと走って先にカムイが座りペシペシと隣を叩いてヒナタを促す。

「早くっ、ここっ。もう1つっ!!!」
「んーな慌てなくても…」
「だってさっきからヒナタさんまた3つも口に入れたっ!!!」
「うはっ、数えてたんかよ!!」
「もーーーーっ、早く~!!!」
「うおっ!?」
足をジタジタして立ったままのヒナタを座らせようと腰の帯の処を掴んで下へ引っ張るとヒナタは勢いよく座らされバランスを崩し後ろに倒れこむ。カムイはここぞとばかりに剥いてある八朔の房を取って口に押し込んだ。

「んにゅ~…おいひい…♪ ほらぁ、もうこれだけしか残っていなかったじゃないですかぁ!!!」
「剥きゃありますよ。ほらあと2つ。」
よっこらしょとヒナタは体を起こして八朔をカムイと自分の間に並べる。

「えっ!? 待って、4つあった筈なんですけどっ?」
「あー、だから1つ俺が食っちまった。」
「~~!!! うわーーん、ひどーーーーい!!!」
「んじゃ1つづつな。はい、カムイ様。」
「待って、それおかしい。私が2つですよ。」
「2つしか残ってないんだぜ? なら分け合うべきっしょ?」
「ヒナタさん、1つ食べたでしょっ!? 大体っ…」
カムイは最初の苺の時からヒナタの所に時々食べ物を持ってきてはこうして一緒に食べる様になった。彼女曰くヒナタは「つまみ食い仲間ですから!」との事だ。ただの友達ではなくつまみ食い仲間としてでもこうして居られる事をいつのまにかヒナタも嬉しく感じていた。他の者には見せないだろうこの姿が見れて最近は愛情さえ湧いてきた。

愛情…?

ヒナタはカムイがあーだこーだと説明する姿を見ながら頭の回路がカチリと変わる。

俺、まさか…

自覚した途端心臓がドクンと脈打ち目の前に見えるカムイの姿が色を変える。カムイもヒナタの様子に気付き首をかしげる。

「ヒナタさん?」
「…カムイ、様…」
目の前のカムイは友達や仲間の姿から愛しいという感情を感じる女性に姿を変えていた。ヒナタの顔は一気に熱を持つ。

「わっ、どっ、どうしましたっ??」
カムイは心配して顔を覗き込んでくるがヒナタは手の平で顔を覆う様にして頭を抱える様に俯く。キャッスルの兵士達と近いカムイは軍の中でも信頼度が増し人望も集め始めた。敵対していた王族同士も手を取り合い軍は一つにまとまっていく。その力に魅入られたタクミをヒナタはずっと見ていた。タクミの視線の先には必ずカムイが居る。主が苦悩している姿を見ながら自分の胸も痛みを感じている。これはどちらに対してなのか…ヒナタは自分の心とずっと対話をしていた。その答えが今突然出た。出てしまった。軽く深呼吸しながら落ち着けと暗示をかけていく。

「そんなに八朔食べたかった?」
カムイは天然爆発で首をかしげてヒナタの前に膝立ちになり膝の所に手を置いて聞いてくる。ヒナタはため息をついてくすりと笑い膝に肘をおいて口だけを隠す様にして赤くなった顔をあげてカムイを見る。

「そりゃあんたでしょうよ。」
「だって食べたいから持って来たんですもん。」
「そりゃそうだな。食いたいから持って来たんだ。」
「きっとヒナタさんも好きだろうなーって。」
「ああ、好きだな。」
「でしょ?」
「八朔の事じゃねぇぞ?」
ヒナタはカムイをひょいと抱き上げ自分の膝の上に乗せて抱き締める。カムイはいきなりの事で固まってしまっている。

「驚かせたな。わりい。でも俺も今気づいたんだ。」
「あっ…あの…」
「知ってるよ、あんたがタクミ様の事が好きなのは…」
「…!!!」
「きっとタクミ様も、あんたの事は好きだと思う。長い間俺はあの人に仕えてきたからわかる。」
「タ、タクミさんの事、誰にも、言わないでください…私達、姉弟、だから…」
「言わねぇ。あんたを悲しませることはしねぇ。」
「ん…」
「でも弱みにはつけ込みたい。」
「えっ!?」
「俺にしねぇ?」
「えっ、ええっ?」
カムイは手に力をいれて離れようとするがヒナタは抱き締める力を強くする。

「逃げんな。離したくない。」
「あ…そんな事、言われても…」
「今考えてくれ。俺は離したくない。」
「無理です…」
「駄目だ。今考えろ。今俺は戦の真っ最中だ、余裕なんてねぇぞ。」
「戦?」
「おう。戦の真っただ中、切りあいでも敵の将との切りあいだ。一瞬でも油断したらやられる。」
「うーん…なんとなくわかる様な…」
「おめぇ本当にぼけてんな…はははは。」
ヒナタはあまりのカムイのボケ加減に声を出して笑う。カムイはその間に離れようとするが、ヒナタは今度は頭を押さえてカムイをホールドする。

「逃がさねぇぞ。」
「うっ…」
「甘ぇよ。ばーか。」
「ううう、勝てない…勝てる気がしません…」
「だろ? だから俺にしとけって。」
「~~~…」
「なぁ、俺はよ、おめぇとずっとこうして色んなもん食いながらあーだこーだ言っていたい。うめぇもの食う時のおめぇの顔、大好きなんだよなぁ。」
「…」
「聞いてっか? ダイスキなんだぞ~。」
カムイの耳に口を近づけわざと傍で言うとカムイは耳まで真っ赤にさせる。

「聞こえてますよっ!」
「おう、なら返事しろや。」
「…考えてるんですっ。」
「考えろ考えろ。そんで俺んとこ落ちてこい。がっちり捕まえてやるから。」
「もう少し時間が欲しいんですが。」
「だからそれは駄目だって言ってんだろが。」
「何それ。勝手な理由じゃないですかっ!!!悲しませることしないって言った!!」
「悲しませてねぇよ。悲しませるつもりはねぇから。」
「何その王様発言…」
「ほいほい、考えろ~。ほれほれ。」
「もう、ちょっとヒナタさん!!!」
ヒナタが一瞬頭を抑える力を抜いてその隙にカムイは顔を上げるがまた頭を抑えられて口づけられる。

「ん~…!!!!」
カムイはポカポカとヒナタの鎧を叩くがヒナタは口づけたままくふふと笑ってそのまま続ける。長く口づけされてやっと自由になるがまた頭を抑えられてホールドされた。

「はは、八朔の味がするぜ。」
「~~~…ばかーーーーっ!!! む、ムードも何もないっ!!!」
「今更ムードなんているかよ。」
「ちが、もう、なにこれ…???」
カムイはもう体の力が抜けてヒナタに寄りかかりため息をつく。

「泣くなよ。んーな嬉しかった?」
「初めてのキスだったのに…」
「まじか? あららー、責任取らせていただきますので、俺ん所にどうぞ。」
「何言っても聞く気ない癖に…」
「さっきも言ったけどもう一回言うか? 逃げるな。離したくない。大好きだ。」
「完結過ぎですよぉ…」
「だーいすーきだーーーー。」
「しつこいっ!!」
「そりゃここで態度で表わせって言われりゃ喜んで応えるけどよ~…流石にそれはなぁ。」
「馬鹿でしょっ!? 」
「なんだとー、俺は真剣だっつーの。切りあい真っ最中だっつったろ。」
「はあ…しゃべり過ぎて喉乾きました…」
「おめぇが俺を選べば八朔食わしてやるよ。それも2こ!! 俺太っ腹~♪」
「だからそれは私のですってば!!」
「八朔よりゃ おれぁおめぇんがいいや。やるよ2個。全部やる。」
カムイはため息をついて寄りかかったまま目を閉じる。鎧越しに聞こえるヒナタの心臓の音は余裕を見せている顔と違い早鐘をうつように鳴っていた。カムイが顔をあげてヒナタの顔を見るとヒナタは目だけをカムイに向けて口角をあげて笑う。その顔をみるとなんだか安心してしまいふわっと笑顔を返すとヒナタはみるみる顔を赤くしてまた抱き締めてきた。

「今いいっつった????」
「はっ?」
「今、いいって言ったよな???」
「私何にも言ってませんよ。」
「いや、言った。いいって言った。」
「何にも言ってませんってば。」
「やった! 俺 幸せっ!!!! 神様ありがとーーーーっ!!!!生きててよかったーーーーーっ!!!」
「ちょっと…もう…勝手なんだから…」
「祝言いつにする? 明日? いや、それは無理か。来週!!!」
「気が早いっ!!!」
「んだよ。善は急げっつーだろーが。」
「…楽しんでるでしょ?」
「おう。滅茶苦茶楽しい。あ、八朔食う?」
「食べます。ヒナタが剥いてね。」
「!!!!! ちょ、今なんつった?」
「ヒナタが、むいてね、って言いました。」
「まじかーーーーーーっ!!!! うわあああ、カムイ、愛してるーーーーっ!!!」
「うるさーーーいい!!! きゃああああっ!!! あはははっ!!!」
ヒナタはカムイの脇をもって高く抱き上げくるくると回りながら喜び、その顔をみてカムイも笑う。

「そーいやカムイも言葉が丁寧語じゃなくなったな。」
「ヒナタのせいですね。」
「俺色に染まるってやつ? なんかかっけぇ♪」
「馬鹿丸出し~!!!」
「うっせえ、馬鹿で結構だ~!!!」
今度はカムイを高い高いする。

「八朔~!!!」
その言葉にヒナタはピタリと動きを止めてカムイの顔を自分の顔の高さまで下ろす。

「すげえな、まだ忘れてなかったか。」
「早く剥いてください。喉が渇きました。」
顔を見合わせて2人で転げまわって笑う、その声はキャッスル中に響いた。

 

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