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暗夜長兄マークスは苦悩していた。

長男で第一王位継承者として生まれた時から彼の気は休まる時が無かった。いつの間にか眉間に刻まれた皺はその形を固定して顔の一部となっていた。唯一彼の気が休まる時は沢山居る中で生き残った3人の妹弟達と、ある日突然兄妹となった白夜生まれの妹とで過ごす時だけ。その白夜生まれの妹が透魔王国と戦う為、敵国だった白夜王国と自国を結び付け今共に同じ目的の上で戦っている。それは今後の両国にとっても良い事であり一層の結びつきを求めたかった。その願いも叶ってか今自分の恋人は白夜王国第二王女ヒノカ。戦姫と呼ばれるほどの武勇がある聖天馬武者の彼女と結婚も決まり幸せで重圧などに押しつぶされそうな不安も軽くなっていく中、今目の前で複雑な問題が起こっている。

白夜で生まれ暗夜で育った透魔王国出身の神代の竜の血を引く妹(詳しく言えば義妹となるが)はまだほんの幼い頃に暗夜に連れてこられ北の寂しい城砦に幽閉された状態で育った。それでも彼女は自分のかわいい妹に変わりなくきょうだいでずっと世話をし、教育をし、自分が手塩にかけて育てた自慢の妹将軍だ。暗夜での剣技も自分には及ばないもののかなりの手練れとなり敵が居ない状態にまでなっていた。だが今、白夜王国と共に戦う様になってからというもの妹はすっかり白夜刀の虜となり、着る服、使う得物などが神器以外は殆どあちらのものになりつつあった。妹にとっては自分の祖国。それも止む無い事とはいえ、やはり今まで育ててきた自分としては寂しいものがある。現在の兵種はダークプリンセス。暗夜の王女という剣士の兵種だがそろそろクラスチェンジする時期だ。上級職は多々あるものの剣士として育てた妹はやはり剣士に向いている。それで候補が上がっているのが白夜の王族職で癒しの杖を使える「白の血族」と自国・暗夜の王族職で魔術が使える「ダークブラッド」の2つ。それでどちらにするか先日それとなく聞いたところ、マークスの予想に反した答えが返ってきたのだ。

「カムイよ。そろそろクラスチェンジの時期だろう。次はどうするのだ?」
「そうですね。やはり最前衛でのバックアップは必要不可欠ですから「白の血族」になろうと思っています。」
マークスは手に持ったカップを落としそうになるが慌てて持ち直す。カムイはきょとんとした顔でマークスを眺めていた。

「さ、最前衛でのバックアップは、メイドや執事達が居ろう…やはりここは攻撃優先で…」
「マークス兄さんらしくない意見ですね。何か作戦や戦略でもあるのですか?」
「む?」
「以前から最前衛での回復役などの強化を軍議で上げていたじゃないですか。」
「そ、そうだったかな?」
「私はその事も考慮した上で…」
カムイは自分の考えをマークスに話しているが当のマークスは頭の中が混乱してそれどころではなかった。確かにそう軍議で課題としてあげていた。能力が高いとはいえメイドや執事を沢山最前衛に投入するわけにも行かず今後激化する戦いに備え回復役を増やすことは優先課題の内の1つだ。

「それに白の血族は鎧が綺麗です。」
グルグル回っていたマークスの思考が止まり、そう言ったカムイの顔をじっと見る。

「なるほど…鎧かっ!!ラズワルド!!」
マークスは立ち上がり直ぐに臣下を呼び寄せ暗夜のきょうだい達に収集をかけた。残されたカムイは紅茶を含みながらその様子を相変わらずきょとんして眺めていた。

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「というわけでダークブラッドの鎧を改良したい。」
マークスは会議室で神妙な顔で妹弟に語り掛ける。

「何が、というわけなのさ、兄さん…そんなに重要な課題? 急に呼びつけるから何かあったのかと…」
レオンが呆れた顔でため息をつきながら机に肘をつくが、その前に座るカミラは口に手を当て目を潤ませながら頷いている。

「解る…解るわ、お兄様…その辛いお気持ち…」
「解ってくれるか、カミラ。」
「解りますとも。私だって手塩にかけてレディにまで育てたカムイを白夜に取られた様な気持ちで、寂しかったの…」
「そう。あれは私たちの妹だ。幼い頃から共に生き、手塩にかけて育てた、可愛い、自慢の……うう…」
「ま、マークスお兄ちゃん、泣かないで!!」
感極まり思わず目頭を押さえるマークスに慌ててエリーゼがハンカチを持って駆け寄り涙を拭く。

「カムイは暗夜の王女だ。あの真珠色の美しい髪には暗夜の鎧こそ映え美しさも際立つというもの。やはりここは鎧を改良して…」
熱く語るマークスとその横でハンカチで目元を抑えながらうんうんと頷いているカミラを横目で見ながらレオンはため息をついた。

「確かに僕らのきょうだいだし、天然でボーーーーッとしてるし、空気を読めない所も多々あるけど、一応僕があれだけ戦術などを叩き込んだ姉だ。何の考えも無しにそんな選択をするとは思えないけどね。」
「事実選択しているではないか。」
「だから考えがあるんじゃないかって事だよ。」
「選択した時点で違うではないか……私はずっとカムイはダークブラッドになってくれると信じて疑わなかったのだぞ!」
「…それって勝手な兄さんの思い込みだろ?」
「なんだと!」
「カムイ姉さんの考えを否定するって事は、教育係だった僕を、否定していると取るよ!」
「私はそんな事は言っておらん!!」
「言ってるよ!!!」
「私はただカムイを愛しているだけだ!」
「僕だって愛してるよ!!」
マークスとレオンは椅子から立ち上がって言い合いを始めた。それをエリーゼが真ん中でオロオロしながら右往左往している。

「マークスお兄ちゃん、落ち着いて! レオンお兄ちゃんも!!!」
エリーゼが止めているのにも関わらず2人は言い合いを止めない。その時轟音と共に机が真っ二つに割れ、上に乗せられていたカップや菓子がその破片と共に宙に舞った。3人が恐る恐る目をやるとボルトアクスが床に深く刺さりバチバチと雷撃を発している。

「…鎧の改良は、私がやらせて頂くわね。きょうだいの中で一番あの子を愛しているのは、私なんだから…」
「「……はい…」」
カミラがどす黒い影とオーラを纏い殺気を発して髪を払い腕を組む。その姿を見てマークスとレオンは真っ青になって小さく返事をした。

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それからしばらく経ちカミラから王族とその臣下に呼び出しがかかる。大きめの部屋に小さなステージが設けられその前に王族と臣下が並び座っていた。カミラらしくお茶とお菓子が臣下達にも振舞われ、お茶会の様な雰囲気に包まれ皆和気藹々としていた。そんな中カミラがステージに姿を現して皆に声をかける。

「皆さん、今日はお忙しい中、時間を取って頂いて感謝してますわ。今から皆さんにお披露目したいものがあるの。私の可愛い妹、カムイの新しい鎧。カムイの可愛さ、美しさを最大限引き出す様にデザインした自慢の逸品、是非ご覧になって。」
笑顔で締めくくりステージを降りるとステージに張られた幕が両サイドに開かれる。そこには鎧を纏ったカムイが恥ずかしそうに立っていた。

首には小さな白い襟にオパールのブローチが付いた白いリボン。背中のマントは腰までの長さで使われている素材も手触りがよさそうな美しい生地。足はダークプリンセスの鎧と同じくらい腿までの丈でレースがあしらわれ露わになった腿に食い込むようにぴっちりと張り付いている。問題はここからだ。本体の鎧は胸元が大きく開かれて双丘が露わになり、くびれたウエストを強調する様なデザイン。股の所は薄くベールの様なレースがあしらわれているもののビキニの様なデザインで腿の隙間がはっきりと見える。
会場の面々はその姿にしばし呆然としていた。

「うふふ、美しさに声も出ないかしら。まだまだこれからよ。」
カミラがカムイの隣に立ち、くるりと背中を向けさせるとマントをバッとめくりカムイの肩にかける。同時に会場はため息と叫び声が混じる悲鳴のようなドヨメキに包まれた。
カムイの背中は大きく開き豪奢なレースがあしらわれ、なによりお尻が……Tバックになっていた。隠すものはマントしかなく、戦っていると間違いなく丸見えになるだろう。
ぶっちゃけの所、暗夜ではこのような官能的なスタイルはあると言えばあり体のラインなどを出すことがセクシーさを強調する事と判断される。事実カミラの鎧もそのようなデザインだし、カムイの普段着も胸やラインが協調されるデザインが無いわけではない。


ここは暗夜ではない。白夜の人間も居る星界のカムイの城だ。暗夜の感覚が白夜の面々に認められるとは限らない。

「カムイ様、かわいいーーー! セクシーですーーっ!!!」
ラズワルドをはじめ暗夜の臣下の若い男たちは色めき立ち、中でもゼロは不敵な笑みを浮かべながら舐める様にその姿を眺めている。

「まぁありじゃない? もう少し装飾入れたいわよねー。」
ルーナをはじめたとした暗夜の女性臣下達は腕組をしてあれこれとまだ過激なデザインにしようと話をしていた。

「兄さん…殆ど変わっていないと思うんだけど…?」
「いや、少し装飾を加えてあるな。あと使われている素材が格段に質が上がっている。王族として恥ずかしくない鎧だ。あのレースの素材は国でも一番のレース職人の手によるものだ。素晴らしい。」
「そういう問題じゃ…はあ…」
レオンが頭を抱えてため息をつくと、マークスは目を輝かせて答えた。

「カムイお姉ちゃん綺麗!!似合ってるよ!!」
エリーゼは椅子に座ったままピョンピョン飛び跳ね喜んでいた。


対して白夜側。

「……!!!」
リョウマは出来るだけ表情を変えない様にしていたが顔はヒクヒクと痙攣して汗が噴き出ていた。後ろのサイゾウもそのリョウマの汗を拭きながらカムイから目を背けている。

「ま、マークス様!!! 私の妹になんて恰好をさせるの…むがっ!!!!」
「まあまあヒノカ様。なかなか見れない玉の肌ですからどうぞ邪魔をしないでください。いやぁ、良い眺めですねぇ。描き止めておきたい位です。」
ヒノカが顔を真っ赤にして食って掛かろうとするがアサマが後ろから笑顔で口を抑えてカムイの姿を眺めていた。

サクラはショックで気を失い慌ててツバキが部屋から運び出し、ステージ真正面に座っているアクアは無表情でクッキーをエリーゼの臣下エルフィと共に話をしながら食べ続けている。

「これ、美味しいわね。」
「美味しいですね。」
「ねぇ、そこのあなた。悪いけどお代わりを持ってきていただけないかしら。そうね、お茶もお代わりを。」
鎧の事は全く興味がない様だ。

タクミとその臣下ヒナタは立ち上がり目を見開いてすっかり固まってしまっていた。そこには下品な感情は一切なく、ただその美しさに目を奪われ息を呑んでいる。ふとその2人と目があったカムイは顔を一気に真っ赤にして慌てて幕の後ろに隠れ目だけ覗かせていた。アサマが残念そうに何か言っているが隣のサイゾウに睨まれ口をつぐむ。

「きれ…」
無意識に綺麗だといいそうになったタクミが慌てて言葉を呑み込みガタンと椅子に座り紅茶を含む。ヒナタもカムイに嬉しそうに笑いかけていたがカムイが真っ赤な顔で口パクして何かを伝えた後 肩を揺らして少し笑い椅子に座りなおした。それを見逃すカミラではない。

「ほら、カムイ。素敵だと言ってくれる殿方も居られるわ!!!やはりあなたはこの位の露出をしてもっとセクシーさを強調しなければ!!!」
「カミラ姉さん…お願いです。もう勘弁してください……レオンさん~~…」
あまりのカムイの情けなさそうな顔に大きくため息をついてレオンが立ち上がり法衣を脱いでカムイの腰に回しかけ抱き寄せ部屋の外に連れて行った。

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後日、いよいよクラスチェンジをする日。暗夜白夜のきょうだい達や臣下が集まる前でカムイは白の血族になる事を選びマークスは地に崩れ落ちたが、プルフを使い血族になり白銀の鎧に身を固めたカムイの姿をマジマジとみて感極まりまた泣いていた。

「愛しい我が妹よ。やはりお前はどんな格好でも良く似合っているぞ。」
「ありがとうございます。やはりこれ綺麗です。嬉しいです♪」
そう言ってクルクルと回って見せると銀の陣羽織がふわりと浮いて羽の様に見える。と、また皆が固まった。
前からみた姿は鎧で体を固めていたが、その後ろは…またお尻が見えていた……皆のポカンとした目線に気付いたカムイは止まって確認し慌てて陣羽織で隠す。

「なっななななっ…」
「ふふ、その鎧もこっそり私がデザインさせてもらったのよ。白夜と暗夜のファッションの結合。これこそあなたにふさわしくなくて?」
「な、何か、前の鎧の時みたいに、何かスカート的なものを…お願いしますー!!!」
叫ぶカムイをよそ目にカミラは高らかに笑い、周りの人間は先日の鎧発表会と同じ様な状態に。

ただ2人、ラズワルドとヒナタが後ろでこそっと肩を組んで親指を立てていた。

 

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